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第21話、戻ってきた娘と、息子の友人……。

 祐也ゆうやは、鶴姫つるひめ義経よしつね弁慶べんけいと只今の挨拶をし、すやすや寝入ったままの穐斗あきとに三頭は顔をなめている間に、


「出来たで?祐ちゃん。義経、弁慶は台所にいきんさい。ごご飯できとるで。姫は小さいけんなぁ……こっち」


餌を示す。


政和まさかずの分はあるんよなぁ?」


 秘蔵の酒を飲み始めていた麒一郎きいちろうは、風遊ふゆ晴海はるみに問いかける。


「持ってきて貰たのに、まっちゃんの分はちゃんと分けとるで。まぁ、祐ちゃんがよう食べたら、へそわい」

「そりゃぁないわ‼風遊‼せっかく楽しに呑んどったのに‼」

「あははは‼ちゃーんとまっちゃんの分はあるけん、祐ちゃんもお食べぇや?遠慮せんでええよ~?」

「あ、はい‼頂きます‼あれ?肉、違う?」


 皿に盛られた肉を示す。


「ん?あぁ、こっちが大人のオスの肉よ。うもうないで。だしにとって、明日、弁慶と義経のご飯にするんよ。食べるんがこっち。メスの肉」

「オスの肉って美味しくないんですか?」

「固いんよ。昔は食べよったけど、今はなぁ……」


 顔を見合わせる。

と、玄関の引き戸が開き、


「あー寒いし暗いし‼ガタガタ道でヒールで坂登れないし‼だから嫌なのよ‼」


と声が響き、障子が開いた。


 そこには、一人のこの田舎にそぐわない格好の女性が立っていた。

 ブランドの服に濃い化粧、それに坂道だと言うのに、高いヒールの靴を履いている。

 上るときは楽だが、下る時には地獄。

 ついでにセメントで簡単に通路を固めているので、所々穴ぼこだらけで、転びたくないなら履かない方が無難である。

 つい最近……ちなみに昨日あったばかりで、嫌な思いしかしていない祐也は、ずっと眠ったままの穐斗を起こそうとするふりをして、視線をそらした。


「ただいま~‼母さん。ご飯‼」


 その言葉に、風遊は、


「知らんで。あんたの分は作っとらん。自分でお作りや」

「何でよ⁉あーあるやんか‼肉‼」

「あれは穐斗あきとんや。あんたのじゃないわ」

「何でよ~‼母さん‼じいちゃん、ばあちゃん、それにまーおじさんも‼母さんが‼」


訴えるが、3人はそっけなく、


「お前にはやらん」

「自分で作りんさいや」

「それより、俺がとった肉は食うな」

「エェェ‼ひどーい‼」

「酷いんは、あんたやろうがね‼本当に反省しとらん‼そんな格好で帰ってくるんがその印やろ‼自分だけなら兎も角、穐斗も巻き込んで‼穐斗の友達には謝ったんかね‼」


風遊の強い口調に、頬を膨らませ、


「知らんで。だって、穐斗電話出んし、それに穐斗の友人って子は素行不良で退学やって、何かやったんじゃないの?」

「してませんけど?」


穐斗を抱いたまま、祐也は穐斗の姉のMEGメグこと夏樹なつきを睨む。


「俺、あんたみたいにもの壊したり、穐斗のこと利用して自分勝手に振る舞うんって最悪やと思うわ‼ほれになぁ、意味も心もない言い分ばっかで謝りもできへん人間って嫌いなんよ。俺と穐斗はあんたのせぇで、あっちにおれんようになっとんで?どうしてくれるん?なぁ?穐斗の姉ちゃんやけん言うても、許せることと許せへんことがあると思わん?」

「な、穐斗と同じ歳に、あんたって言われる筋合いないわ‼」

「それより俺、あんたのようにアホな姉ちゃんがおる穐斗や、じいちゃんやばあちゃんに風遊母さんがほんっと可哀想やと思うわ。一応成人しとんやろ?大人が、小学生か幼稚園児みたいになぁ……悪いことして、部屋の隅に隠れるんとはレベルがちがうやろが‼このアホがぁぁ~‼まずは謝れや‼それからやないんか?あぁ?芸能人やから許される?んなの有るか!ボケぇ‼」


 祐也は怒鳴り付ける。

 可愛がってくれた祐也の怒声に逃げるかと思われた鶴姫は、逆に駆け寄り必死に前足をあげる。

 台所にいた二頭は、戻ってきて夏樹に唸る。


「な、何よ‼何で、犬どもが……」

「犬どもやないわ‼そこから勉強し直せや‼弁慶と義経と鶴姫……特に鶴姫に謝れや‼鶴姫は大事な大事な命や‼命をはぐくむ山に生まれ育っといて、その大事さを理解できへんのか‼あぁ、ほやけんあんたはアホなんやな‼生きる意味も分からんのやな?なら、この山にもんてくんな(戻ってくるな)や‼山を、家を否定しといて、何かあったら逃げ帰るんか‼その程度の意思しか持てん半端もん‼芸能界でも干されるわ‼出ていけや‼ど阿呆‼」


 祐也の言葉に、夏樹は自分の美貌を知り尽くした涙を浮かべる。


「じいちゃん‼ばあちゃん‼」

「祐坊の言う通りや。出てけ。もんてくんな」

「な、何で‼他人でしょ‼」

「祐ちゃんは家の子や。あんたは出ていったんや。どうせ、ここでも散々文句だけ言うて、何もせんとテレビでも見よんやろ」


 晴海は、鍋の様子を見つつ、


「祐ちゃん。出来たで。かとうならんうちにお食べぇや。穐斗?大好きな鍋やで?起きんさいや」


と声をかける。


「う、ん……お鍋……山んがえぇ……海のお魚もえぇけんど、シイタケ、シュンキク、白菜、お肉~‼」

「ほら、穐斗起きろ。出来たぞ。鍋」

「あぁぁ‼ぼたん鍋~‼僕好き~‼」


 器を渡され、ひと口口にいれた穐斗は、姉に気づくと顔をしかめる。


「姉ちゃん、何でおんの?今度は何?」

「あ、穐斗」

「姉ちゃん、いっつもいっつも思とったけど、姉ちゃん、何で回りに迷惑かけんの?やめてくれん?今回なんて酷ない?祐也退学やで?迷惑かけとんの姉ちゃんやで?やのに、何で祐也退学なんで‼ほれに祐也が怒っとんのも、姉ちゃんが謝ってないんやろがな‼」

「あ、あのね、アンジュちゃ……」

「その名前で呼ぶな‼いややっていよるやろが‼僕は真面目に話しよんのに‼言いくるめるんか?違うやろが‼」


 穐斗はキッと睨み付ける。


「姉ちゃんが悪いんやで‼それに、僕は知っとるけんの?弟の情報を売って、そのブランドとかって言うバッグとかを父ちゃんから受け取っとんやろが‼僕は何やねん~‼あんたの大好きなもんを貰う為の情報か‼えぇ?」

「だからこれは……」

「うるさい‼帰れ‼姉ちゃんいらん‼僕は姉ちゃんなんかいらんけん‼祐也にじいちゃん、ばあちゃん、かあさんやここの人らがおればええ‼出てけ‼帰ってくんな‼」


 穐斗がフーフーと先程の鶴姫と同じようになったのを慌てて、祐也がなだめる。

 そして、


「夏樹にもう部屋はないけんな。あんたん部屋はもうないで。祐ちゃんの部屋になっとるわ」

「なっ!」

「あんたは、あんだけうちらが人としていきる道を教えてきた、ほやのに、その道を捨ててしもたんや。捨てた道に戻ってこられても、こっちが困るわ。自分で選んだんやろ?選んだ道にお戻りや。うちらは関係無い」


風遊は示す。


「この家に関係無い人はお帰りんさいや。さぶいけん、とぉ閉めてや。ほなさいなら」

「母さん‼」

「うちには娘はおらん。息子が二人や」

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