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第19話、祐也の部屋は、隠居の別棟の穐斗の隣です。

 まずは、華奢な穐斗あきとを抱え、歩く。


「あぁ、着替えは……」

「お母さん。俺の荷物は後で取りに来ますから、穐斗の多肉植物達を」

「そうしようわい。祐也ゆうやくん……祐くんは、重ないんかね?」

「軽いですよ。本当に俺、高校時代は柔道部だったんですよ。大学も先輩とか同級生には、今でもこいこいって言われてますね。でも、道場に通っているし、毎日走ってますし、図書館や学校で穐斗と話してる方が楽しいです」


 軽々と抱かれる息子を見上げ、


「ホントに、穐斗は大きいならんかったなぁ……うちに似たんやなぁ……。もっと背ぇ伸びたら、良かったのになぁ。のんびりしとるけんなぁ。よぉ泣かされとったし……」

「でも、穐斗の優しさに皆、癒されて同じHRの女の子はチャームって言うんですか?それを作ってあげているそうです。それで、聞いたら、この間俺にも作ってくれたんですよ」

「あぁ、穐斗は手先が器用やけんねぇ……」

「それに、サークルの先輩の趣味が和菓子を作ることなんですけど、何時も食べさせてくれるからって、多肉植物をプレゼントしたら、喜ばれて先輩の部屋に飾られているそうです」


母屋おもやに向かい引戸を風遊ふゆが開けると、祐也は声をかける。


「ただいま帰りました~‼じいちゃん、ばあちゃん。こんにちは~‼」

「よぉ来たなぁ~祐坊ゆうぼう


 障子が開かれ顔を覗かせるのは、ほりごたつに入っている、穐斗の祖父母、麒一郎きいちろう晴海はるみ


「元気やったかね?テレビのは何考えとんかいのぉ?祐ちゃんはそがいなことせぇへんのに。はがいぃわ‼」


 一番最初に祐也に畑仕事の大変さを教えてくれた晴海は、コツをすぐ覚えて手を貸してくれた上に、荷物を運ぶのも率先して動く祐也に当初ビックリした。

 その上、体力仕事も苦にせず、麒一郎がお風呂用の薪を割っていたのを代わるようになり、最初はもたついていたが、毎日毎日黙々と薪を割り続け、麒一郎の土地の倒木なども取り除いて、それも枝葉を取り火を起こせるようにしておいた。

 年もあり、少々苦痛だった薪割りを代わってくれた祐也に、


「だんだんなぁ」

「いえ、これは本当に大変だぁぁ。じいちゃんは今までずっとやって来て、すごいわぁ‼」

「いやいや。本当はなぁ、ガスとか電気で沸かせばええんやけどなぁ、違うんや。普通に薪で沸かした風呂に入ったら、入れんで。水もこの山の上から涌き出しとる綺麗な水やけんのぉ。優しいで。それにこの生活が元々よ。ご先祖さんから代々この生活をしとるんで……捨てたら、ご先祖さんが泣くで」


そう言われ、汗をかいたその日の夕方、お風呂にはいると、


「……はぁぁ?違う‼『ぬくい』って、こう言うのか‼それに、夏だけど出ても、汗がかかない‼隠居に浴室があって、母屋までは歩いていく間に風がすぅっと流れて、気持ちいい‼冬は寒いのかなぁ」

「ここに、18リットル缶で、薪に入れとるけんなぁ。ぬくいんよ?」


待っていた穐斗が示す。


「じいちゃんたちやおばちゃんたちが、お茶飲んだりもしよるんで」

「中は?」

「雪が降りよったらやけど、ちょっとした話やったら、そこらの丸太に腰かけて話しよらい?」


 地元に戻ると言葉も戻るのか、方言でしゃべるのだが、穐斗のは元々年齢よりも幼い印象が、益々可愛らしい感じになる。


「やけんなぁ、薪はそこの蔵にくっつけて積み上げとるけん、すぐにとれるやろ?ほれに、ここはお日さんがよぉ当たるけん、集まるんよ」

「はぁ……エェなぁ」




と言っていた夏が、もうすぐ冬。

 雪は降っていないが、景色は変わっている。


 玄関の下にはむろがあり、いろいろと保管しているらしい。


「ようおいでたなぁ。祐ちゃん。まぁ、冷えたやろ?おはいりや~」

「あ、穐斗を休ませないと……」

「こっちにいれとぉき。祐ちゃんもお入りや?」

「あ、荷物もって来ます」

「持ってきたで。隠居の入り口においとるけんな?」


 風遊は笑う。


「ありがとうございます‼じゃぁ、ただいま帰りました‼」


と遠慮なく入っていく。

 深い眠りについているらしい穐斗をごりごたつに入れて、自分も入る。


「わぁ……ぬくいですねぇ‼」

「足下きぃつけや?下は炭に火を入れて、鉄の柵をはめとるけんね。火傷せんようになぁ?」

「はい。あ、見てもいいですか?」


 こたつ布団をめくり、確認する。

 炭の白い燃え残った後と、対比する赤い色が暖かく優しく映った。


「はぁ……これが、ぬくい……なんやなぁ……こんなに世界はぬくうて優しいのに、人は冷たいんやろなぁ。あ、じいちゃんもばあちゃんも、お母さんも優しいで?」


 顔をあげてニコッと笑う祐也に、3人は顔を見合わせ、


「うもうなったなぁ?」

「穐斗に教えてもろたけんな~。わがうまなったんは、穐斗のお陰なんや」

「あははは」


笑い声が弾ける。


 ストーブの上で沸かしていたやかんから、お湯が注がれ、お茶が出される。

 お茶碗を両手で包みながら、田舎の方言がポンポンと飛び交う暖かい母屋のなかで、祐也はホッとしたのだった。

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