第18話、街生まれの祐也にとっては、幻の世界でもあります。
空気が変わっていく。
肌寒い空気だが、まとわりつくようなネットリとしたものではなく、スッと背筋が伸びるような清らかな清浄な……。
「すごく……二回目ですけど、綺麗な所ですよね。何か、現実と非現実が一緒になっているようで……でも、本当に綺麗すぎて、精霊や妖精がいそうです」
「おるよ。よう、遊びに来るんで?特に、穐斗は好かれて好かれて、よぉ、トコトコチョロチョロしよったわ。目を離すと追いかけて、森に行ったり川に行ったりしよったんよ。もう、慌てて追いかけてなぁ。夏樹に面倒みいよ?って言うても、あの子はあぁいう子やけんねぇ……。よぉ、じいちゃんとばあちゃんと、おいちゃんらが手分けして……」
「何かわかるような気がします。でも俺だったら、『探検行ってくる~‼』とか言って、棒とか持って走っていって、怪我して帰った~って」
祐也は笑う。
運転しながら、風遊は、
「笑とる場合じゃないんで~?ほんとに、この子は変なもんを拾てくるんやけんね。家におる義経も弁慶も、山で見つけてきたんやけん」
「えっ?義経と弁慶って……あの、ポインターにセッターの?」
もう老齢域であろう大型犬二頭は、かなり大きな犬だが、キッチリと仕付けされている。
当然、猟犬である。
「そうなんで。猟犬はなぁ。知っとると思うけど、普通、あの猪や熊を見つける為に、こんな山の中を臭いを辿るのや、見つけた獲物を弱らせる為に攻撃したりもせんといかん。じいちゃんも猟師やったけんなぁ。昔はよぉ育てとった。で、猟に連れていくまでしつけてなぁ。そりゃぁ、猟なんてもんは、じいちゃんも襲われたりして怪我したりしたもんで?それだけじゃのうて、弱らせる為に攻撃する犬も、それ以上に傷だらけや。何とか獲物を仕留めても、大怪我してゼイゼイ息をしよる子らを、雪の中、山の険しい中で連れて帰れまいがな。『すまんのぉ……』言うて、じいちゃんも泣きながら置いて帰った事もあるんで。でも、足を引きずりながらもんてきた子らを迎えて、手当てしたこともあるんや……」
「……じいちゃんって猟師やったんですか?」
「普通のおっちゃんや。田んぼや畑を耕して、猟銃保持免許をもっとったけんな。冬の解禁時期には猟師しよったわ。やないと、今のように山が荒れて、田んぼや畑を荒らす。春の筍は全滅やで?」
苦笑する。
「うちらが銃を持つのは、ボロボロになっていく皆の田舎を守る為よ。うちらの生活を守る為よ。よぉ、外のもんは『生きもんを殺すのは……』言うけどなぁ。そう言うもんに、うちは『じゃぁ、荒れ果てた山を見に来いや』ってって言いたいわ。都会の世界はエエもんかもしれん。でもなぁ、元々は、人ってもんは、漁をして魚をくうて、猟をして肉を得とるんやで?豚や鶏や牛を食うときながら、猪が悪いんか?あの牙でうちだって突然飛びかかられてなぁ……大怪我して入院したこともあるんや。死ぬ人も出るんや。やのに『猟をするんはいけんのや』ってのがよぉ分からんわ」
祐也は言葉をなくす。
するとちらっと祐也を見て、苦笑する。
「まぁ、こういう生き方もあるんよ。綺麗な空気は、綺麗でも、昔の山の美しさは戻すことは出来んなぁ……もう、来るとこまで来とるんや……きっと」
「……目に見えない、気づかない事もあるんですね……俺は、表しか見えてないんだ……」
「違うで。もっと、見ようとせん人間だっておるわ……。ここの地域は元々親類縁者や遠縁や、幼馴染が多いんよ。やのになぁ、変な車でブンブンと音をあげて走っとらい。馬鹿らしいなぁ。そんなので鬱憤を晴らしたいんなら、おっちゃんらと猟にでも行ってこいって言いたいわ……」
呟き、ふふっと笑う。
「で、なぁ。義経と弁慶は、穐斗が連れて帰ってきたんよ。弁慶は銃で撃たれた跡があって、多分、獲物と対峙している時に当たったんやろうなぁ……。痩せとって怯えとったわ。穐斗が世話をして、ようやく元気になって、穐斗の後ろをトコトコと歩くようになって。小屋に入れんのは、あの子はもう猟犬じゃないんよ。穐斗の友達なんよ。義経はポインターで、臭いをたどっとったら戻れんなったみたいや。怪我はしとらんかったけどのんびりしとるやろ?猟犬には向かんかったんやろなぁ……」
「そう言えば、穐斗が歩くと二頭は追いかけて、昼寝も一緒ですよね」
「そうなんよ。じいちゃんは最初、『犬は外‼いかん‼猟犬やろが‼』とかいいよったけど、『違うもん‼じいちゃん‼弁慶も義経も、僕の兄弟だもん‼一緒だもん‼じゃないと僕も、外におる‼』ってなぁ……最後にばあちゃんが『いつも大人しい穐斗が言うんやけん。かまんやろ?じいちゃん』って言うことになってなぁ……あぁついた」
車が、小道を上がっていき、駐車場がわりの広場に車を止めた。
「じゃぁ、祐也くん。お帰り」
「ただいま帰りました。お母さん」
今回のお話は、田舎の悩みの種のお話です。
父の実家の山は本当に荒れてしまっていて、猟友会も高齢化に悩み、人と獣との境をしっかりと分けたいと必死だったりします。
このお話には、田舎の高齢化集落の苦労と苦悩を記載してみました。
方言があるので分かりにくいかもですが、大体、一言で言えば、田舎では熊や猪の被害がひどく、特に猪は、今日愛媛県で、140キロの大型の猪が射殺されました。
数日前、その場所から約200メートルも離れていない場所で、近所の方が、猪に襲われて亡くなっていたのです。猪の害は年々全国的に悪化しています。
ここで書くのもおかしいですが、読んでいただけると幸いです。