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第17話、夢か幻か……祐也は、迷い込んでいくのでした。

「う、うぅぅん……」


 スリスリと甘えるように、腕の中で頬をすり寄せる。


「おい、お前は子犬か、子猫か‼全く……」


 まぁ、穐斗あきとの家ならばさほど遠くもなく、大丈夫だろうと思ったのが大間違いで、どこからか、取材カメラにマイクが集まる。


「あの事件の、安部あべさんですよね‼お話を聞かせて貰えませんか‼」

「特に、あのネットに流れている口論と、掲示板の文言についても‼」


 次々に来る言葉に祐也ゆうやは、


「申し訳ありません。この件につきましては、先輩から紹介して頂いた、大原嵯峨おおはらさが弁護士にお任せしております。大原弁護士には、先程正門にてお話をさせて頂きました。今もまだいらっしゃると思います。私の口からはこれ以上お伝えいたしません。これで失礼いたします」


頭を下げるとすり抜けていく。


「待って下さい‼安部さんの、これからについて、どうされるのでしょう?」

「大学は退学になったと……」


 祐也は振り返り、


「その件についても、私は元々勉強の為に進学しました。遊びの為ではありません。勉強……学びたい分野を深く掘り下げられればと思っていたので、今の状態は、そう言う点で言えば辛いです。ですから、これからのことについては、大原嵯峨弁護士にお願いしていますので、これ以上はお伝えできません。それに、私の実家や、友人や先輩方の家の回りをうろうろするのだけは止めて下さい。家族にも友人にも先輩方にもそれぞれ生活がありますので……失礼します」


歩き出そうとした目の前に車が止まる。

 4WDの大型車である。


「この前は、だんだん。祐也くん」


 ひょこっと顔を見せるのは、童顔年齢未詳の女性。

 一度だけ会った、


「あぁぁぁ‼あ、」

「しゃべったらあかんよ~?しー!やで」


にこにこと笑いながら、助手席の後ろを示し、


「その子、寝かしときんさいや。で、せもうて悪いけど助手席にお座りんさいや」

「構いません。ありがとうございます‼」


言われた通り乗り込むと、車は走り出した。


「さっきなぁ?祐也くんちにいってきたんよ~。うちの夏樹なつきのせいでこないなことになって、申し訳のうて……そしたら、お母さんにお願いされてしもうて……」

「えっ?」

「後ろに、着替えとかいれとるけんね。それと穐斗の子らも。しばらくうちにおりんさいや」

「いいんですか‼ご迷惑には……」

「かまんかまん。ゆっくりしいや。それより、だんだん。穐斗もそろそろ時期やけん……迎えに来るついでよ。祐也くんはうちの息子やけんねぇ」


 醍醐だいごのはんなりとも違う、方言ににっこり笑う。


「穐斗のお母さん……風遊ふゆさんも俺にとってもう一人の母さんですよ」

「だんだん」


 だんだんとは、ありがとうと言う意味の方言である。

 愛媛県中予えひめけんちゅうよから南予なんよの一部、特に松山市から松前町まさきまち伊予市いよしでよく使われていた方言である。

 しかし、最近は用いられることはほぼなく、廃れていく言葉のひとつである。


「祐也くん、お家に、いってこうわい(行ってきます)って言わんでかまんかったんかね?」

「えぇ、大丈夫ですよ」

「そうかなそうかな……」


 コロコロ笑う風遊は、穐斗の母。

 髪と瞳の色以外は瓜二つである。

 4WDを乗り回しているのは、山の奥の地域に住んでいて、近所のおじいさんおばあさんを連れて病院にいったり、買い物にいったりしている。

 それと、道が悪いのと冬は雪が積もるので、小柄な女性の身ながら大型車を走らせている。


「それにしても、いい車ですねぇ。俺も買いたいんですが、この街中では、駐車場が……」

「ほうやねぇ……こんまい方がエエよ。ここは」

「でも、穐斗とそっちに行くときは小さいのより、こういうのが乗りたくなりますね」

「じゃぁ、うちにおる間は、運転手は祐也くんに任せらぁい?おいちゃんらに、道を教えて貰いんさいや」

「えぇ‼良いんですか?」


 田舎の集落で、町の人間がぽつんと言うのも決まり悪く、前回夏に遊びに行った時には、余り話せなかった。

 折角だったのにと、残念に思ったのである。


「言うか、おっちゃんらはあの人見知りの穐斗が嬉しそうに笑とるのを見て、喜んどったんで?苛められとらせまいか言うて。で、昨日のテレビ見てなぁ……おっちゃんらが『祐也坊ゆうやぼんに何かあったらいかんけん、いってきなはいや~』言うてたわ」

「そうなんですか。じゃぁ、戻ったら、おじさんたちにお礼言わないと」


 にっこり笑う。

 元々人見知りもなく、夏休みもただ遊びに行ったと言うよりも、荒れた田畑を手入れする手伝いをしたり、山の木々がここ数年の台風などで小さい川を塞き止めていたのを取り除く手伝いをしに行っていたのである。

 最初は大柄な知らない青年が来たと、ビックリしていた地域の老人たちも、


「おじさん。こっちの木を退けとくけんなぁ?かまん?」


と、穐斗に習った言葉でこえをかけ、力仕事にいそしむ真面目な青年を好意的に見るようになり、約一月後帰る頃には、残念がって、


「またきんさいや‼待っとるけんな?」

「あんたの好きなもん、ぎょうさん作るけんの~?」

「おじさんもおばさんも元気で。じゃぁ、いんでこうわい」


と別れた。

 ちなみに、『いってこうわい』は『行ってきます』。

『いんでこうわい』は『帰ります』

『かえってこうわい』も『帰る』

 の方言である。


 愛媛県は長広く、ステテコとりさんのゆるキャラのいる今治等の東予とうよと松山市を中心とした中予、大洲市や宇和島市等の南予があり、方言も違う。

 東予の人と南予の人が喧嘩をすると、東予は口調が厳しく、南予はゆったりとしており、『逃げ腰。はっきりしてよ‼』と東予の人に言われ、南予の人は、『アァ言う風に言われると、どう答えてええかわからへんのよ』と困った顔になるのだとか。

 中予は丁度中間で、両方の言い分を聞き取り、通訳、仲裁をすることが多い。


 祐也と風遊は、楽しげに話をしながら、高速道路を使わず、下の道を使いながら風遊の住まいで、穐斗の故郷に向かうのだった。

人物紹介です。


清水風遊しみずふゆ……田舎生まれ田舎育ちで、現在両親と3人暮らし。この集落は高齢化集落で、風遊のすむ家は、大通りから道を曲がり川沿いの道をぐるぐると山に入っていく。

そして、川沿いや川の道から山に上っていく道がいくつもあり、昔は田畑が広がり田舎町で、小学校に中学校もあったのだが、穐斗と姉の夏樹の下には、3人の年子の女の子と、男の子が一人だったため、廃校になり、通学バスに乗り、通学している。

若い人はさほどおらず、高齢化地域であり、廃墟と化した家や、農作放棄地も多く、猪の被害に悩まされている。


穐斗は小柄で小さいので、余り当てにはしていないが、夏樹に婿を貰って戻ってきてほしいと願っていたが、この事件で諦めたらしい。


と言う設定です。


大型車を走らせていると言う設定は、私の知人の方がそうなので使わせていただきました。

方言は、正確には怪しいのですが、刹那の親戚の田舎の方言です。


よろしくお願いいたします。

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