第14話、穐斗の出生は……こうです。
疲労感が漂う空間に、
「先輩方、祐也……ごめんなさい」
べそをかく穐斗。
「姉が、あの仕事をしてるのを黙っていたのはわざとじゃなくて……姉は、性格があの通りで、父ににていて、大騒ぎになっちゃうんです……。それに、僕がいじめられッ子だったから……」
「と言うか、はた迷惑な人だな。穐斗は成長しているのに」
日向の一言に、
「ブラコンって、厄介ですもんね~」
しみじみと呟く醍醐。
醍醐も双子の兄たちに、何故か異様に溺愛されていて鬱陶しい限りである。
「本当は、姉に決められていた大学に来いって言われてて、絶対嫌だってここを選んだんです。皆は隣の県だから、海を越えて、別の県にって言われたんですけど、そうすると姉や父が来そうで……」
グスンっと鼻をすする……が、痛そうで、祐也は、
「泣くな。手術の傷に触るぞ」
「でも、どうしよう……せっかく、父に居所隠してたのにばれちゃう……。帰りたくないよぉ」
「普通に、『父さん帰れ‼』で良いと思うが?」
「大丈夫?」
「と言うか、18になる息子にあれこれ言う親も親だし、迷惑なのは俺たちよりも、穐斗だろう?」
となだめる。
「それに、先輩たちも、お前のことは心配してても、嫌いじゃないと思うぞ?ねぇ?ひな先輩」
「まぁ、穐斗は私にとっては弟みたいだな。兄弟のいない私には可愛い、真面目で素直な弟だと思う」
「あー、私も~‼あきちゃんは私の弟よ」
糺も微笑む。
「本当にすみません。父があんなに厄介じゃなければ良かったのに……」
「そんなに厄介なの?」
「僕の父はお金持ちの一族で、長い歴史を持つ旧家なんです……。生まれてくるのは、女の子が多くて、男が少なく、父は祖父の遅くの子供で、ようやく生まれた男だったので喜ばれたんですが……」
「がって、何かあったのですか~?」
醍醐の声に、
「父は、とても自分勝手と言うか、自分のしたいことばかりして、恋人は次々作るし、おじいちゃん怒って廃嫡寸前。あのマルガレーテ姉以外に、モルガーナ姉もいるんですけど、それぞれお母さん違うし……で、廃嫡の話が進みかけていたら、僕の母に会ったんです。初対面から母は父が嫌いで、『なんでこんなのを周囲は好きになるのよ。ついでに言えばこの男、ナルシスト‼好みじゃないわ‼』って言う感じで、でも父は、嫌がられる意味がわからなくて追いかけ回して、最後に僕ができちゃったと」
ちゃったで良いのか‼
突っ込みたがる4人の前に、
「モルガーナ姉が結婚が決まりかけて、僕が生まれる前に、又父の浮気が始まって、で、愛想つかした母が向こうを飛び出して、日本に戻ってきたんです。おじいちゃんは、孫息子~‼息子の出来た嫁~‼って言うんですけど、母はおじいちゃんは大好きなんですけど、父のことがどうしても嫌で、イングランドに行くのをやめちゃいました」
「良いのか‼」
「うーん。僕は、おじいちゃんやおばあちゃんや、一族のおじさんたち大好きですけど……父が嫌です。五月蝿いし暑苦しいし。もういっそ、父と母が離婚して、父が再婚して、子供が生まれたら良いのにって思います」
穐斗の視線は周囲を見ていない。
痛み止のせいと疲労で、大分現実逃避ぎみらしい。
『あぁ、生まれてくるんじゃなかった。多肉植物さんたちや先輩方、祐也がいなかったら……』
と呟かれては厄介と言うよりも、本気で逃避すると思われる穐斗に、醍醐が優しく、
「穐斗くん。大丈夫ですよ~?少ししてから帰って休みましょう。明日調子が悪かったら、確か重要な講義はなかったはずですよね~?祐也くんに存分に甘えちゃいなさいね~?」
「で、でも明日、確か祐也……」
「えっと、はい、合コンはキッチリキャンセルします‼」
「うぇぇぇん、ごめんね?ごめんね?」
「と言うか、その怪我に、お前のせいではないけど厄介事。一人じゃ無理だろ?」
実は本人も行きたくなかった為、幹事である同じ中学校の友人に電話を掛ける。
と、電話がすぐに繋り、
「おい、祐也‼テレビ見たぞ‼明日の合コン……」
「あぁ、それ、行かない」
「何でだよ‼LINEで回ってて、お前にあのMEGの弟を連れてきて欲しいって言うのもあってさぁ‼なぁ、MEGの弟連れてきてくれよ」
「そう言うのがウザいんだ‼じゃぁな」
電話を切る。
再びかかってくるのは、その友人で……切ると、今度は高校時代の先輩方……。
「あぁぁ‼ムカツク‼何で、俺の回りはアホだらけ‼」
「僕も?」
首をかしげる穐斗に、
「いや、お前はいいこいいこ」
「わーい‼」
「それなのに、中学高校時代のアホどもがぁぁ‼LINEうざいからやめてて良かった‼」
「僕とはしてるのに?」
「お前は良いの」
その会話を聞いた、男性先輩二人組は、
「大丈夫か?祐也と穐斗」
「良いんじゃないんですか~?家の兄たち、同居してるのにLINEでやりとり見ててアホやなぁと……見たいです?」
「いや、そっちの方がヤバそうだ。やめておく」
「そうしましょう。見ててわかりますが、祐也君はそっちの道に走るタイプではありませんので」
「そっちって……まぁ、問題だけは起きないように祈る」
日向と醍醐は囁いたのだった。