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第13話、穐斗のお姉さま登場です。

 一応、サークルには最後まで残ったものの、今度の木曜日は病院の終わる時間帯によって変わるとのことで、了承の先輩達と別れようとした時に、サークルの部室の外でざわざわとざわめく。


「えっ?嘘‼モデルのMEGメグじゃない」

「本当!」

「でも何でMEGが?」

「えっ?MEGって……」


 食い入るように本を読んでいた穐斗あきとは顔をあげ、


「わぁぁぁ‼姉貴が来たぁ‼」


 扉とは逆の祐也ゆうやにしがみつく。


「祐也‼お願いします‼僕いないふりするから、姉貴をお願い~‼」


 と言いつつ、夏の、木にしがみつくセミのように、抱きついていては意味はない。

 騒々しい声が飛び交うなか、


バキッ、メリメリメリ……


とすさまじい音と共に、扉が無惨にも破壊され、開かれる。


 高いヒールをはいた長く細い足が見えた。

 あのヒールで、あの細い足で、重厚な扉を蹴り壊したのか?

 青ざめるサークルメンバーの目の前に姿を見せたのは、金髪にブルーアイの美貌のモデル。


「えっ?モデルのMEG?」


 MEGはイングランド国籍の日本モデル。

 しかし両親ともイングランド人だが、母は父の正式な妻ではなく恋人。

 その恋人とも別れ、結婚したはずなのに、浮気を繰り返す夫を見限り、血の繋がりのない義理の娘と生まれたばかりの赤ん坊を連れて日本に戻ってきた女性に育てられた。


 日本名は清水夏樹しみずなつき

 本名は夏樹・マルガレーテ・清水。

 長身に足の長さ、スタイルのよさと性格は明るくお転婆。

 そして……、


「アンジュちゃぁぁ〜ん‼どこ~?お姉さまよ~ん‼」

「うわぁぁ~ん‼祐也~‼どっか、逃げてぇぇ‼姉貴、鬼は外‼」

「誰が鬼よ‼それならインキュバス……」


つい、突っ込む。


「すみません。男性の姿で婬夢いんむを誘う夢魔がインキュバスで、女性の貴女はサッキュバスの間違いではないでしょうか?」

「ギャァァァ‼祐也~‼ダメ~‼姉貴、そう言うの勉強してないアホだからぁぁ‼」

「何気に酷い事を言うわね。アンジュちゃーん」

「ギャァァァ‼祐也~‼助けてぇぇぇ‼」


 祐也に抱きついたまま、必死である。


「何が助けてなのよ‼あんたが大怪我をしたって聞いて、仕事を放り出して駆けつけてあげてるお姉さまに」

「いつも、仕事を中途半端にする上に、勉強ちゃんとしてないから、顔は一応良いのに、ちゃんとした仕事が来ないんじゃないか~‼僕のせいにするな~‼それより、わーん‼祐也~‼顔がずきずきするよぉ‼」

「はい、痛み止」


 袋を取りだし、時間を確認してから飲ませる。

 痛みなどのせいで、半分べそをかく穐斗をよしよしとなだめている。


「な、何なのよ⁉あたしは、あんたが怪我させられたって聞いたから、又いじめと思って‼」

「す、すみません。わざとじゃないのですが怪我をさせてしまったのは俺です‼後でちゃんと説明しますので、待って頂けませんか」


 祐也は声をかける。

 しばらくよしよしとなだめ、落ち着いてから、


「すみません。穐斗のお姉さん。俺は、穐斗の同級生の安部祐也あべゆうやです」

「あら、良い子じゃない。でも、何で家のアンジュちゃんを?」

「いえ、朝、挨拶をしようと思って背中を叩いたら倒れて、鼻骨骨折と、額や膝に怪我をさせてしまって」


 その言葉に、弟とその同級生とを見比べる。


「ふ、不憫だわ……家のアンジュちゃん小さすぎて痩せすぎてて、吹っ飛んじゃったのね」

「いえ、骨折まで負わせてしまった俺の不注意です。本当にすみません」


 頭を下げる。


「でも、MEGさんと言えば、首都圏の大学に通いつつ仕事をしている、とても有名なモデルさんじゃないですか。そう言えば今日の月曜日は確か、テレビに進出していて……」

「そうなの。でも、アンジュちゃんが気になって、テレビ放置して出ていこうとしたら、ついてきちゃった」


 えへっとMEGが笑う。

 えっと思い、扉のあった場所を見ると、テレビカメラがあった。


 すると、音声が響き、


「ねえ‼MEGちゃん。その可愛い怪我をしている女の子と、抱き締めている男の子って?」

「はーい、スタジオの皆さん。怪我をしてる子がMEGの弟のアンジュちゃんで~す‼怪我をしてますけど、とっても可愛いでしょう?この格好も、MEGの選んだアンジュちゃんに似合う格好なんですよぉ」


鼻にかかったしゃべり方になり、ウフッとウインクをする。


「うえぇぇ~‼MEGちゃんの弟君だから長身の美男子、イメージしてたよ~‼」

「そうそう。青い目とかスタイル抜群で、むちゃくちゃ……」

「五月蠅い‼」


 祐也は怒鳴り付ける。


「この番組は、大学の許可は得てんのか‼それにこのサークルは個人が集まって、それぞれが勉強している小さいサークルだ‼副部長に通してるのか‼それに、穐斗の姉さんとはいえ、学校の施設破壊して勝手に入ってくんな‼ついでに、穐斗は一般人で、テレビ番組でおもちゃにされる意味はない‼出ていけ‼」


 そして、すっと出てきた醍醐だいごが、


「私が副部長で、忙しい部長の代わりにこういったことに対処をするものですが、おうかがいしておりませんねぇ……部員のお姉さんがモデルのMEGさんであっても……許可なく、やめて頂けませんでしょうか?」

「えっと、MEGちゃん?」

「……私は松尾醍醐まつのおだいごと申します。確か、先日実家の菓子舖がお世話になりました。京都巡りの旅にお土産におすすめ、私は余り思わないのですが、ナゼか、『イケメン双子後継者』の店とか……」


その言葉に青ざめる周囲。

 先日取材した、菓子舖は何度も交渉して、ようやくテレビに出演してもらえたお店である。

 しかも、両親と双子の御曹司には、溺愛する弟がいると言っていた、それが彼か‼


「えーと、じゃ、じゃぁ、MEGちゃん?弟君と仲良くね‼早めに戻っておいで~‼」


と音声がぷちっと切れた。


「え~?何で?」

「何でじゃありませんよー?早く出ていってくださいませんか~?私はバカは嫌いなんですよ~?」


 醍醐は言い捨てると取材陣を部屋から追い出し、


「この扉の請求書と~、許可なく入ってきたことについては~、上からそちらにお送りいたしますね~?。それにこの放送以降、私どものサークルのメンバーに~何か起こった際の対処についても~、お願いできますよね~?特に、穐斗君と~祐也君に~嫌がらせとかあったりしたら……私の実家を通してでも、構いませんが?」

「わ、解りました‼突然の取材‼申し訳ありません‼」

「普通謝罪は、申し訳ございませんでした。ですよ。では、失礼します。実家に連絡しますので」


扉を強引に閉めた醍醐は、


「クズが‼」


と小声で吐き捨て、振り返るとニッコリと微笑む。


「穐斗君と、祐也君はもうちょっと休んでから帰りましょうね」

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