第12話、読書サークル入部編その2、かわいい子犬を飼いました。
醍醐が飼い始めた……ではなく、入部を誘った二人は、一人は醍醐の和菓子につられ、もう一人はその世話係……つまり、同級生だった。
最初は、日向は何だこの二人は⁉と愕然としたのは、少年……もさもさっとした野暮ったい髪型に、古臭い眼鏡の清水穐斗は、ボーッとしているか、本を熱心に読んでいるか、和菓子を大喜びで食べている……大学生には見えないマイペースさ。
ボーッとしている時に、
「何を考えてるんだ?」
と聞いたところ、
「家の多肉植物ちゃんの元気がなくって……心配なんです……ブロンズ姫さまは元気なのに、黄麗さまが……大丈夫か、祐也にお願いして、専門店につれていってもらえないかなぁと思って……」
とか、
「えと、もうすぐハーブティが無くなるので、困ったなぁって」
「ハーブティ?」
「はい。僕、カフェインに酔っちゃうんです……恥ずかしい‼もう、あのお店行けないです‼ジュース美味しかったのに‼」
突っ伏して嘆くので、祐也に聞いてみると、
「いえ、一応、カフェインに反応するからって言ってるのに、無理矢理飲ませた先輩とか同級生をぶん殴って、『人が嫌がることをすんじゃねえや‼この……』って、この後は、ドイツ語と英語と何か色々な言語で怒鳴り散らして、ばったりですね」
「殴った?」
「えぇ。って言っても、穐斗の力ですから、痛くもないし、逆に穐斗の方が、相手の歯に当たって、手を怪我してました」
どれだけ軟弱なんだ……不憫な……と、日向は哀れんだ。
ちなみに日向は、剣道や柔道の段持ちである。
教えてやった方がいいか……と一度祐也に言ったのだが、即、
「やめておいた方がいいです。本人は普通に思っているのでしょうが、運動神経良い方じゃないし、体力ないし、痩せてますから」
「えっ?そんなに痩せてるのか?」
「本人は162センチと言ってる身長も足りませんし、体重は45キロから増えもせず減りもせず……」
「はぁ⁉45‼糺はもうちょっと軽い‼」
「糺先輩も痩せてますから‼」
と突っこみが入った。
「まぁ、穐斗のしたいようにさせてるんですが、何か、他の奴らと、見てるのが違うというか……おい、こら‼図書館を出る時は正面玄関から‼」
窓を開け飛び出そうとした穐斗を捕まえて、叱りつける調教係になっていた。
「だ、だってぇ~‼にゃんこが~‼遊びたい‼」
「ダメ‼お前、猫アレルギーだろうが」
「うわーん。何でにゃんこダメなの?」
「アレルギーは悪化すると、気管支に入って、呼吸困難に陥ることもあるらしいぞ」
日向の一言に、ピタッと止まり、
「わぁぁん。息が出来なくなったら、やだー。ありがとう。祐也」
「よし。先輩にもお礼をいえ」
「ありがとうございます。ひな先輩」
祐也に抱えられたまま頭を下げる様に、内心……、
『子犬と調教師』
と吹き出すのをこらえつつ、
「穐斗は、もう少し、落ち着いて行動しろ。ボーッとしてたら突然走り出して、扉にぶつかってバターンがしょっちゅうだと……」
「ひなちゃん‼……いったぁぁい‼」
扉を開けるのと、頭を突っ込むのが同時になり、額を扉で強打した糺が、ヨロヨロ姿を見せる。
「た、糺‼大丈夫か‼」
「いたーい‼あぁネタ、小説のネタ、良い場面を思い付いたのに、忘れちゃう~‼ひなちゃん‼これから喋るのを、打ち込んで~‼」
「額は~‼」
「それよりネタ~‼行くわよ~‼」
妻に駆け寄れず、慌ててパソコンを開けて、画面を見て打ち込みはじめた自分が、何となく情けなくなる日向であった。
ちなみに、
「スゴーイ‼……ムグー」
祐也に口を押さえられ、
「仕事の邪魔はしちゃダメだぞ?穐斗」
と言い聞かせられている姿を、醍醐は笑うのを堪え見守っていたのだった。