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次の目的地は山?

 やがて車はトラックターミナルに到着した。そこはまるで巨大な蟻の巣の様に全次郎には感じられた、数えきれない程の荷物……でも不要な物なんて一つもない世界。異様な感じが全次郎を包んだ。


 桜花には荷物の先には待っている人がいるんだなって思えて、その数の多さが楽しみや喜びにリンクしてるみたいに感じていた。


「ここからは貨物トラックじゃ、着くのは朝じゃな」

 

 浅田目はターミナルの騒音に、少し声を上げた。


「こっちです、公安の奴等が来てます」


 ふいに声を掛けられた。声の主は掃除のモップを持った小柄な老人だった。


「どこです?」


 全次郎は見渡したが、荷物と人の洪水は判断を躊躇させた。


「いいから、早く」

 

 老人はターミナルの裏手にある事務所に案内した。


「で、どうするんじゃ?」

 

 事務所の机に座った浅田目は少し困った顔で老人に問い掛ける。


「車を用意します。あなたが運転して下さい」

 

 老人は全次郎にキーを渡した。


「公安が来てるという事はバレたんですかね?」

 

 全次郎は老人に聞いた。


「あなた方が到着する前に連絡がありました」


「と、言う事は……お留守番システム、ダメやったんやな」


 パットは浅田目に振り向いた。


「台風の接近で停電でもしたんじゃろ」


 浅田目は初めから知ってたみたいに平然と言う。


「大丈夫か?……この先」


 全次郎の中で不安はどんどん膨れ上がった、そして桜花の事が心配で視線を移す。


「大丈夫だよ……きっと」


 桜花は微笑んでいいたが、無理して笑っているのは全次郎にも感じられた。その証拠に桜花はパットの手を握り締めていた。そして、パットは全次郎に目配せをした……私が付いていると。


「それより、早くして下さい」


 老人は全次郎達を急かせ、車の場所へ案内しようとした。


_________________



「お揃いで、ご旅行ですか?」


 聞き覚えのある声に全次郎が振り向くと、事務所の入口に桜井が立っていた。そして桜井の後ろには、三人の人相の悪い男も腕組みしていた。全次郎が何か言おうとした時、パットが飛び出すのが視界に入った。


「はぁっ?」


 溜息交じりの全次郎……咄嗟の時に出る言葉なんて知れている。


「うちが相手になるで、最初に死にたいんは誰や?」


 パットは桜井達の前に立った。そして、背中のリュックから二本の短い棒を取り出して身構えた。


「それでやるのか?」


 少し呆れながら、後ろから全次郎は小声で聞く。


「大阪名物、メッチャ痛い棒や」


 自信満々のパットは棒を振り回した。


「大阪名物ねぇ……どこで習ったんだ?」


 呆れた様に呟いた全次郎だった。


「カンフーのDVDやっ!」


 叫んだパットは男達に飛び掛った。その動きは本当にカンフーの映画の様で、全次郎達は唖然とした。


「パットとケンカしない方がいいかもね……」


 桜花もその姿に、唖然と呟く。


「あの尻がたまらんのぅ、見よ! あの乳の揺れ」


 浅田目は激しく揺れるパットの胸や、形の良いお尻に鼻の下を伸ばす。


「エロジジィ……この期に及んでまでか」


 今更ながら呆れた全次郎だった。しかし相手はプロで、次第にパットは押され始めた。


「助太刀するか……」


「無理だよぉ」


 出て行こうとする全次郎を、桜花が泣きそうな顔で止めた。その時、手に手にホウキやスコップなどを持った老人達が集まって来た。


「突貫~んっ!」「全学連以来じゃ!」「名付けて東京駅の朝!」


「富士の樹海に身を沈めること幾星霜!」「抜けば玉散る氷の刃、名刀村雨!」


 訳の分からん掛け声を口々に叫び、老人達は突進した。流石の屈強な男達も多勢に無勢、流石に老人相手では本気を出す事は出来ず、次第に押されて隅へと追いやられる。


「今のうちです」


 始めの老人が移動を促した。揉みくちゃにされる桜井は何か叫んでいたが、そんなの無視して全次郎はパットを探した。その状況は老人の誰かが言った朝のラッシュアワーみたいだった。


「行くぞっ」


 そして全次郎は老人達を掻きわけ、まだ暴れ様とするパットの腕を掴んで強引にその場を離れた。


__________________



 車は少し離れた土手の下にあった。風雨は相変わらずだったが急に雷鳴が鳴り響き、暴風が一瞬止まった。


「いかんっ、建物の軒下に入れっ! ダメじゃ! コンクリートの方に行けっ!」


 浅田目は叫んだ、そしてプレハブの小屋に走ろうとした全次郎とパットに更に叫ぶ。


「何だってんだよっ!?」


 走りながら全次郎も叫び返す。


「雹じゃっ、当たれば怪我じゃすまんぞっ!」


 浅田目が叫ぶと同時に、野球ボール大の雹が一面を打ち付けた。地面に氷が炸裂し、近くの家屋の窓や屋根を破壊する。


「最近……多いな」


 コンクリートの軒下に避難した全次郎は、足元の氷塊に呟いた。


「この前なんかソフトボール位やったで……」


 やっとさっきの興奮も落ち着いて、パットは溜息をついた。


「ああ……死傷者が相当いたよな」


 全次郎は被害の大きさを思い出した。桜花は砕ける氷塊を不思議な感覚で見ていた、それは……”慣れ”……そんな自分が怖いって思っていた。すぐに雹は治まり、また風雨が増して来た。


「ボコボコだね」


 桜花は屋根がべコベコにへこんだ軽バンを触った。


「フロントガラスが大した事なくて良かったな」


 全次郎は小さく溜息を吐く。軽バンのフロントは角度が付いており、軽いヒビだけだった。


「奥さんは助手席に」


 老人の言葉にパットは固まった。動悸で胸は痛み、顔は鬱血で真っ赤に染まる。


「うち……のこと?」


「どうした、早く乗れよ」


 全次郎の言葉がパットに突き刺さる。


「どうしたのパット? 顔、赤いよ……鼻息も荒いし」


 パットの顔を覗き込み桜花は笑った。暴れていた時の顔とあまりにもギャップがあったから。


「新婚さんの邪魔じゃ、わしと桜花は後ろに乗ろうかの」


 浅田目は赤面して固まるパットに聞こえる様に言った。


「何やの、平蔵まで」


 耳たぶまで赤くなったパットだった。


「全次郎、ここへ向かえ」

 

 エンジンをスタートさせると、浅田目は全次郎に地図を渡した。


「内陸部じゃないですか?」


 全次郎は驚いて浅田目を見る。


「そこでいいんじゃよ、さあ出発じゃ」


 浅田目は笑いながら、桜花と軽バンの後ろの席に乗った。


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