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未来

「親父……聞いてたよな、岩次おじさんや正介おじさんが、酸素の作り方を教える」


 モニターに向かい、全次郎は連太郎を見詰めた。


「ああ、仕事増やしやがって……」


「やるよな?」


「ああ」


 ぎこちない笑顔の連太郎が微笑む。


「待ってろ親父……」


 モニターに背を向けた全次郎は、小さく呟いた。


 猿田川達は、全世界の青年地球特別救助隊と連絡を取り合い、持ってい合った資材だけで酸素生成装置作る計画を急ピッチで進めた。忙しく動き回る二人は、不眠不休どころか食事の時間も惜しみ作業に専念する。


 やがて試作品の目途も立ち、検証実験まで直ぐと言う時、強風の警報が鳴り響いた。


「わし等は手が離せん。強風は満身創痍じゃが、戦闘力は失っておらん……出来るな? 全次郎。連太郎を救う為にも、今、強風を失う訳にはいかん」


 仕事の手を止め、真っ直ぐに榎木林が善次郎を見た。少しの沈黙の後、全次郎は力強く頷いた。頭の中では作戦が開け廻っていた……今まで何も出来なかった自分は捨てる、出来る事を全力でやる……それしか考えてなかった。


「操船はワシ、武器制御はパット、索敵は桜花がする。お前が艦長じゃ全次郎」


 振り向くと浅田目が微笑み、その横でパットと桜花も微笑んでいた。


「素人だぜ、どうなっても知らんからな! 桜花、敵の位置は?」


 微笑み返した全次郎は桜花に叫ぶ、桜花は直ぐに索敵レーダーに付く。その様子を確認した榎木林と猿田川は大きく頷くと、直ぐに仕事に戻った。


「敵は、えっと西? かな?」


「桜花、モニターを時計と考えるんじゃ、上が12時、右が3時、下が6時、左が9時じゃ」


「了解!敵は9時の方行。近付いてくるの4つ、動きは速いよ」


 浅田目のレクチャーを直ぐに桜花理解し、報告する。


「戦闘機や、分が悪いで」


「平蔵おじさん、艦首を敵に」


「突っ込むんか?」


「ああ……正面向いた方が相対速度があって、回避運動し易いからね。パット敵の対艦ミサイル射程は?」


「150~320kmってとこやな」


「多分、前の戦闘で強風のレーダー撹乱に気付いてるはずだ」


「対艦ミサイルは、アククティブホーミングやで電波妨害は可能や。でも空対空の短距離ミサイルは赤外線誘導や、海の上なら熱源は強風だけや、当たる確率は高いで」


「まぁ、艦船に対空ミサイルを撃つとは思えんが……じゃが、強風を沈める為には手段は選ばんかもしれん……威力の無い空対空ミサイルでも、沢山当たればまずいのぉ」


 他人事みたいに猿田川は言う。


「迎撃ミサイルの数は?」


「残り五本や」


「電波砲は連続発射出来るか?」


「ビームと同じや、スイッチ押し続けばずっと出るで。でもな、コンデンサが焼き付くねん、精々十秒やな。それにデータ入力に、幾らうちでも十秒はかかるで」


「五秒で出来るか?」


「あのなぁ……」


「出来るのか? 出来ないのか?」


「やるに決まっとるやろ。それより迎撃ミサイルの信管抜いてええか?」


「どうすんだ?」


「ええ、考えがあるんや」


「任せる」


 強風は接近する敵に全速で向かった。


「十二時の方行、敵四機。真っ直ぐ向かってきます」


 桜花の報告に、全次郎は浅田目の方を見る。


「機関減速」


「何じゃと?」


 驚くが、浅田目は直ぐに減速した。


「すれ違い様、一機は堕とせるか?」


「二機や」


 全次郎の言葉に、パットは神速で入力する。


「あっ、敵機バラバラの方向に分かれたよ」

 

 桜花が報告する。直ぐに全次郎が反応し、パットがそれに答える。


「電波幻惑最大、全周だ!」


「了解。と、左二機にミサイル発射や!」


「何っ!」


 驚く全次郎、返事と同時にパットはミサイルを発射した。


「脅しや。当たっても爆発せぇへん」


「でもレーダー妨害してるんでしょ、当たるの?」


 不思議そうに首を傾げた桜花だった。始めは身体が震える程に怖かったが、戦闘状態の緊張が何時の間にか桜花の心を変化に導く。それはこの艦に乗る全員を助けたい、そしてそれは大好きな連太郎を助ける事になる。


 世界の平和とか地球の未来については、桜花には正直難しくて何が正しいかなんて分からなかった。だが、目前の人々を守る、そして誰も傷つけたくない……それだけは強く心に思っていた。


 そして、全次郎や浅田目、パット……榎木林や猿田川……今まで助けてくれた、青年地球特別救助隊の人々もきっと気持は同じなんだと、桜花は信じていた。


「ウチを誰やと思うてんねん、データ入力済みや」


 強風から放たれたミサイル四発は二機の戦闘機に向かう、チャフやフレアで回避しようにもレーダーや赤外線誘導ではないミサイルは戦闘機に向かう。パイロットは急旋回するが、ミサイルの追随は止まらない、咄嗟に高度を下げる。


「ここやっ!」


 高度の落ちた戦闘機を電波砲の照準が捉える、神速でパットはキーを叩く! 高度の落ちた機体はそのまま墜落、パラシュートの花を咲かせた。残る一機はそれを見て離脱しようとするが、直線的離脱は更に早いパットの入力の餌食だった。


 しかし、その隙に残りの二機が接近した。


「短距離ミサイルが来る! 急速潜行!」


 全次郎の叫びに、浅田目は潜行レバーをブッタ叩く、強風は急速に潜行するが全次郎は船体が沈み込むと同時に叫ぶ!。


「浮上だっ!」


「うそっ!」


 叫ぶ浅田目は、またレバーを叩く。浮上と同時にに二機が上空を通過する。相対速度が速すぎて、流石のパットも入力が追い付かない。しかも、仰角が限られた主砲は真上の敵は補足出来ない。しかし、熱源を隠す行動はパイロットの思考を混乱させた。沈没しかけた艦が、直ぐに浮き上がるのだから。


 全次郎の目的はそこだった。熱源を無くすという行動の先にある真の目的は、心理的動揺を誘う事にあった。


「横倒しは出来ますかっ!?」


 連次郎は榎木林に叫ぶ。


「無論じゃ、カウントは任せる」


 浅田目はに代わり、操舵位置についた榎木林は平然と言った。直ぐに全次郎の号令が飛ぶ。


「パット主砲、右側に指向、真正面を狙え! チャンスは一度だ!」


「任せてや!」


「総員、何かに掴まれ! 左転覆!」


 全次郎は桜花とパットに振り向く、桜花は近くの物に掴まり、パットは掴まりながらも入力体制をとる。涙目の浅田目や、慌てる猿田川も柱や計器にしがみ付いた。


「左、全バラスト、緊急注水! 傾くぞ!」


 榎木林の掛け声と同時に強風は左に転覆する、上空のパイロットは旋回した後、様子を伺いに接近する。思考の混乱はパイロットに判断ミスを促す。転覆=沈没と完結し、戦闘空域で不用意な接近という自機の危険行為を犯してしまった。


「いただきやっ!」


 上空接近と共に電波砲が炸裂し、一機を簡単に墜とす。残る一機も横向きになり、上部に指向出来る砲には簡単に補足された。二機のパイロットの脱出を確認すると、全員が安堵の溜息を漏らした。


 ゆっくりと強風は復元する。全員無事の様だが浅田目は体中を摩りながらボヤいた。


「無茶苦茶じゃ、二度と御免じゃからな」


「すみません……」


 謝る全次郎に、パットと桜花が抱き付いた。


__________________



 更なる敵から逃れる為、強風は海底にいた。榎木林のと猿田川はの奮闘で、酸素供給の目途は立った。数日間は長くて短い様でもあり、月での連太郎の作業を見守るだけの日々が続いた。


 確かに苛立ちや不安は存在した。だが、朝昼晩と笑顔で食事を出す桜花の姿は、全員のココロを正しく真っ直ぐに導いていた。


__________________



 そして、その時は来た。明け方、錬太郎よりメッセージが全世界に向けて送信された。全世界は驚愕し、パニックとなった。あらゆる憶測やデマが流れ、学者や有識者は討論を繰り返した。

 

 浮上した強風の艦橋から全員で空を見上げていた。パットは桜花に寄り添うが、時間的余裕が全次郎の気持ちの整理を少し戸惑わせていた。


「いよいよじゃ……閃光防御をしろ」


 榎木林は各自に渡したサングラスの着用を指示した。光は直上近くの月と水平線の間で炸裂した、視界は純白の光でホワイトアウトし、熱さえ感じた。


「耳を塞ぐんじゃ」


 榎木林の叫びの瞬間、数秒遅れで轟音が鳴り響いた。そして、宇宙空間のデモンストレーションは世界を沈黙させた。


「……世界は信じるかな?」


 全次郎は祈る様な気持ちで言う。


「そうじゃな……わしら科学者も連携しとるし、政治家や企業家にも青年地球特別救助隊のメンバーは大勢おる」


 榎木林は楽観的だった。


「後は、お前達次第じゃ」


 浅田目は全次郎を優しく見た、猿田川も全次郎の肩を叩いた。


 暫くの後、連太郎から通信が入った。


「状況は成功した」


「終わったんだな」


「いや、始まったんだ」


 全次郎に掛ける連太郎の言葉は、限りなく落ち着いていた。”始まった”という言葉が何度も全次郎の脳裏を駆け巡った。

 

 ふいに連太郎が話を変える。


「全次郎、パットの頼み了解したからな」


「何だよ?」


「息子さんを下さい、必ず幸せにしますってやつ」


 錬太郎はパットに微笑む。


「何だとっ?」


 全次郎は慌ててパットに振り返る。


「……嫌なんか?……」


 パットは涙を拭う。


「……そんなのは、男の台詞だ」


 全次郎は小さな声で呟いた。


「それじゃなぁな、後始末が済んだら帰る」


 錬太郎は微笑んで、通信を切った。静寂が艦橋を包んだ、波の音と登る朝日が物語の終わりではなく始まりを予感させた。そこには守るべき人がいた、桜花はパットに小さな声で言った。


「やっぱり、ママかな?」


「うちは、お母ちゃんがええな」


 パットは桜花を抱き締めた。


「俺……入るよ、なんとか救助隊……でも、テロには賛同しない」


 全次郎は浅田目に向い、照れ臭そうに言った。


「そうか……貫け、全次郎」


 浅田目は微笑んで頷き、榎木林も猿田川も笑っていた。


「……それよりな……あのな全次郎……答えは?……」


 全次郎の背中に、耳たぶまで赤くなったパットが消えそうな声で聞く。


「そうだな……桜花には弟を頼む」


 全次郎の言葉にパットの瞳に涙が溢れた。


「……うち、がんばるから……三人でも四人でもがんばる……」


「大家族にしようね……」


 桜花はパットの胸に顔を埋めた。


「……さあ、親父の帰還地点に移動だ」


 全次郎は出発を促した……そして、自分自身に言う様に付け加えた。


「これからだな」……と。 


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