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1-5 電波被害

 道化を装い平穏な学生生活を送りながらもプライベートに干渉されず受験勉強ができる最高の環境をを築いてきた尾栗だったが、たった一人の電波少女によって最悪へと一転した。

 いつもは休み時間にクラスメイトと陰謀論や世界の不思議なことについて話すことで次の授業へのリラックスと、クラスメイトからの評価をあげることに費やせていた。しかし夢乃がきてから一週間経つが、そんな時間は全く取れていなかった。彼女が問題を起こすと、保護者のように呼び出しを受けてしまうからだ。保護者、というよりは飼い主の境遇に近いのかもしれない。

 その夢乃の奇行を記すことにしよう。

 授業中に熱心にノートを書いていると思いきや、ページ全てに「異世界に行きたい」という言葉が埋め尽くし、それを教師が叱ると黒板に大きく『異世界に行きたい』と書いてから教室を飛び出す。そして教師は困り果てた顔で困り果てた顔の尾栗を見るのだ。

「あいつは何なんだ? 尾栗」

「見当もつきません」

 次も授業中の事だが、教師が夢乃に授業の答えを求めたことがあった。

「ここ濱倉は近年、避暑地として文人たちから好まれていて、その作品の舞台になることも多く、そういった形でも有名な観光地となっていたのだけれど、夢乃さん? この濱倉の有名な文人って誰だかわかるかな?」

「濱倉は寺や神社がたくさんあるお蔭で力が集まりやすい。その力が引き金になって異界への扉を開けやすい土地として有名やねん。きっとその文人も異界に行って情報入れるためにこの辺住んでたんやろ。避暑地ってのは表の理由で裏の理由は異界に行きたいから」

 それはお前だろう。心の中でクラス全員が総ツッコミ、尾栗を睨む。若い国語の女教師は悲しそうな目で尾栗を見た。

「これは尾栗くんの入れ知恵ですか?」

「何も入れてません」

 夢乃が何かをすると相対して尾栗の評価も下がっていった。作り物の電波でも電波は電波なのだ。理不尽だけれど、これも日ごろの行いの結果だろう。

 夢乃は尾栗に注意されてもその場で作業を中断するだけで、三十分もすれば再開していた。教師に注意されても時間は限られていると血相を変えて訴えた。こうして机をマジックペンで幾何学模様に埋め尽くしたのだった。

 一週間を経っても彼女の口から出る言葉は異界関連の事ばかりで、何もないときでも授業中にボソボソと「異界に行きたい」とつぶやき始め、その気持ちはエスカレートするばかり。さすがにクラスメイトの気分も悪くなり始め、夢乃にわくわくしていた人たちも徐々にその電波さについていけず、徐々に彼女を見ないようにする人が増えていった。

 尾栗はそれでも夢乃を積極的に止めようとはしなかったし、関わろうともしなかった。彼女が早く学校からいなくなって電波としてオンリーワンになれるのが最良だと思っていたからだ。

 しかし尾栗が関わりたくないと思っていても、相手から直接こられればどうしようもない。

 夢乃が転校してきてから十日目の放課後だった。

「異界に関する情報を少しくらいくれてもいいんちゃう?」

 放課後の誰もいない教室で居残り勉強をしている尾栗の元に、夢乃は毎日現れた。

「毎日毎日熱心やな。そんな勉強してどないするん?」

 話しかけるなという雰囲気を出しても夢乃は平気で踏み入ってくる。土禁を読めない欧米人のようだ。

「大学に行くためだ」

「それだけ?」

「それだけだ。大手に就職するに必要なのは学力なんだ。勉強の評価方法は不変で効率がいいからな」

「いつも気になってたんやけど、それは何なん? 儀式?」

 夢乃の言うそれとは尾栗の机だった。

 勉強中といえば集中するために余計なものを置かないようにするのが普通だ。授業中でも関係ないものが机の上にあれば注意されるのは当然のこと。

 しかし尾栗の机の上にはお菓子やジュース、ブリキのおもちゃや漫画雑誌が置かれていた。

 集中を阻害するようなものばかりだ。

「こんな娯楽品で儀式って愉快すぎだろ。これは俺なりの集中方法だ」

 尾栗の言葉に嘘はない。電波ぶって机の上を散らかしているわけではない。

「勉強が嫌いなわけじゃないけどどうしても毎日ってなると嫌気がさす。だからできるだけ楽しいことにしようって思ってさ、これは楽しいことなんだぞって暗示の為にも机の上を楽しいものだらけにするんだ」

「へえ。異界の考えはおもろいなあ」

「しつこい。俺は異界人じゃない」

 尾栗は夢乃と二人きりの時は電波ぶることをしなかった。異界人だと信じられるのが嫌だし、何よりも本物を前にしてその真似をすることを滑稽で恥だと思えた。下手なもの真似をしているのにご本人登場的な恥ずかしさだ。

「ほななんで異界人っぽいことするん? 憧れてるんか、異界人に?」

「憧れなんてないよ。馬鹿になれば簡単に群れにいれてもらえる。それだけのこと」

「なるほど。隠すんじゃなくてあえてそれをキャラにすることで溶け込むんか。本物の異界人はいちいち説得力あるなあ」

 いくら否定しても無駄なので、尾栗は無視をして頭の中に歴史の出来事を詰め込む作業に没頭することにした。

 気づいたころには夢乃の姿はなくなっていて、かわりに机の上に板チョコが増えていた。

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