1-3 関西電波少女仲介人尾栗亘(仮名)
クラスメイト達は夢乃に近づくための方法として尾栗を利用することにした。
何を考えているかわからないけれど面白そうという評価を得た関西電波少女だが、クラスメイト達が無策で挑んだところでコミュニケーションを取ることはままならなかった。
「どこからきたの?」
「……方言でわかるやろ。出身聞いてどうするん。それでなんかわかるん?」
「何が好きなの?」
「……異界人や不思議なことの情報以外は入れたくないから黙って」
かたくなに心を開こうとしない夢乃にうんざりする生徒もいたが、本物のコミュ障の存在に心が躍る生徒も少なくなくなかった。そんな少なくない生徒らが用意した武器は尾栗だった。
ファッション電波のお蔭で尾栗は夢乃の心をつかんでいる。だから彼を仲介してコミュニケーションを取ろうとした。正直尾栗は、道具扱いされることに不快さを感じていたが、ここで拒否をすればクラスメイトからの信用を無くし、ボッチになってしまうかもしれない。そのデメリットと勉強時間が減るデメリットを比べ、関西電波少女仲介人になることにしたのだった。
休み時間。クラスメイトが夢乃の席を囲んでいる。夢乃はいつも通りの仏頂面だがそのクラスメイトの中に尾栗がいることに気づくと表情が若干ゆるんだ。
尾栗はあらかじめクラスメイトから渡された質問リストを手に書いていたので、それを横目でカンニングしながら質問することにした。
「夢乃さんはどこからきた?」
「関西の湊町からやで」
「ああ、中華街の近くだよね。この町も中華街から近いんだ。でも実際近所だとあまり行かないよね」
「ほんまやね。洋館とかもあるけど自分で行くことなかったな。遠足とかでなら行ったけど」
輪になったクラスメイトが少しざわつき始める。普通に会話が出来ている驚きで。
「尾栗くんはいつからこっちの世界?」
いつ越してきたの的な軽い感じで訪ねてくる夢乃にドン引きする尾栗だが、表情を引きつらせながらも道化を演じる。
「明確には覚えてないけれど、十五歳の三月くらいからだな」
「最近かと思ってたけどそうでもないんやな。行方不明者が増えたの最近やからそれくらいにと思ってたけど……」
「順応に時間がかかってな。最近までは生きることで精いっぱいだったんだ」
「それは失礼なこと言うたな。ごめんなさい」
「いや、いいんだ。君は初めての転校か?」
夢乃はうんと頷く。
「環境の変化というのは同じ国内であっても難しいものがある。異界からという特殊なパターンの僕でよければ頼ってくれ」
その言葉に夢乃は伏し目がちにボソボソと「よろしく」と言った。
やり取りを見ていたクラスメイトはいきなり軽く拍手を始め、口々に言った。
「電波同士仲良くやってくれ。俺たちはその様子を楽しむことにするから」
「電波には電波の気持ちがわかるんだなやっぱり。夢乃さんの事はカメイに頼むよ」
「本当にこの世界の人じゃなかったんだな、尾栗って」
尾栗はその言葉に戸惑っている間にクラスメイト達は自分たちの席に戻る。
もしかしてこれは面倒を押し付けられたのではないのか、などと不安に駆られる。
みんなで厄介を分散しようじゃないかと持っていきたいところだが、夢乃にその気持ちがない限り難しいのは確かだ。
その夢乃は机に何かしらの幾何学模様をマジックペンで書き始める。どうして今なのか、どうして机に書くのか、その幾何学にどういった意味があるのか疑問は湧いて出てくる。こんなわけのわからない奴の面倒をこれから見るのかと、尾栗は頭を抱えた。




