1-2 召喚されたい彼女の挨拶
息を切らして教室の扉を開けると、数人のクラスメイトから期待のまなざしが尾栗に向けられた。その期待がどういったものかなんて尾栗は考えるまでもなく感じるだけでわかった。いつも早朝から登校して勉強している尾栗が教室にいないとなると、それがどうしてかをクラスメイト達が訊くのは特別なことではない。
息を整えながらゆっくりと自分の席に向かい座る。そして右隣の席の男子が待ってましたと言わんばかりに声をかける。
「なあ尾栗、どこ行ってたんだ? 転入生の事を調べてたのか?」
「ああ。教室は騒がしくて集中して電波を集められないからちょっと外をぶらついてた」
「ねえねえ、男子女子?」
左隣の女子が割り込んで問いかける。
「女子だ。しかも関西地方らしい」
おお! とちょっとしたどよめきが起こった。
「しかしあまり人間的に関西人らしくはない」
「へー。まあ関西人がみんな芸人みたいだと怖いよな。その子はどんな感じなんだ?」
右隣の男子からの異性への好奇心がにじみ出る質問に尾栗の言葉が詰まった。
どんな感じか。尾栗の印象ではヤバいやつなのだけれど、それは彼女の性格が厄介、というのもあるのだけれど、更にもう一つ上のモノがあった。
「端的に言えば俺と同じようかもしれない」
そんな奴いないだろ! というクラスメイト達の総ツッコミが尾栗に浴びせられ、その最中に間が悪く教室の扉が開いた。席を立っていた生徒たちは担任が朝のホームルームを行いに来たのかと思い、反射的に席に戻るが、扉に立っていたのは担任ではなかった。
型崩れのない綺麗な制服、それとは不釣り合いな寝ぐせだらけで跳ねまくる髪型、眠そうな目つき、しっかりとした下半身。
夢乃咲がそこにいた。
遅れて担任も現れ、「先生より早く来る転校生なんて初めてだな」と夢乃に笑いかけるも、夢乃は無視をして教室見渡していた。
担任は教壇まで行くとキョロキョロとプレーリードッグのように挙動不審に辺りを見渡す夢乃を呼び寄せた。
「みんなおはよう。噂で聞いてたかもしれんが、彼女が転校生だ。じゃ自己紹介をよろしく」
夢乃咲はこくりと頷いてから誰もいない中空を見つめて言った。
「異世界に来るためにこの町に来ました。情報を持ってる人がおったらわたしのところまでお願い」
クラスメイト達はキョトンとし、拍手のタイミングを逃して出した手をさりげなく元の位置に戻す。
夢乃は自己紹介ではなくただのお願い事をすると、再び室内を二回見回し、やっと尾栗を見つけると、じっと見つめたまま彼の席の前まで進んだ。そして視線をそらさず夢乃は睨み付けた。
尾栗の目は完全に泳いでいた。どうして睨まれているのだろうか、過去に出会ったことがあっただろうか。素早く記憶を探っても夢乃咲に該当する情報は出てこない。ということはやはりさっきの盗み聞きが癇に障ったのだろうか。
教室の空気が止まる。ファッション電波と本当の電波の対面に期待しているのだろう。
「尾栗亘は異世界から来たんやろ?」
行方不明の母の手がかりを探し、ついに母の友人の一人と接触できた。そんな状況とそん色のない真剣さで夢乃は尾栗に訊ねた。
「は?」
ファッション電波な尾栗は唐突なアドリブに弱い。は? と返したところで会話は終わってしまい、変な間が出来てしまう。
なんて返せばいいのか尾栗は戸惑う。助け船を出せないクラスメイト。面倒な生徒が来たとため息をつく担任。教室には秒針の音が響く。
その静寂を破ったのは、静寂を作った本人であった。
「ごまかそうとしても無駄や。尾栗のことは先生から聞いてる。それに最近淞南地域で行方不明者が多いのは異界に召喚されてるからやろ。わたしが推測するに尾栗は言わばスカウトや。良質な地球人を探して、異界側に伝えてるんやろ」
聞き取れるか聞き取れないかのギリギリの音量による高速マシンガントークによって心を打ち抜かれた尾栗は覇気なく口にした。
「お、おお前がだろう」




