第一話 入学式と出会い。
プロローグでかなりの年数をすっ飛ばしましたが、高校生活メインなのでよろしくお願いします。
春風というやつだろうか、桜の花びらを舞い散らせるようにふく風が少々冷たい感じがする。俺はそんなちょっと冷たい風を受けながら駅へと向かう。俺が今から行こうとしているのは私立青桜学園。
私立と聞くとエリート揃いのように聞こえるがこの辺で受けれる並の高校は私立が多いので青桜学園に行くことにした。ちなみに大学も兼ねているのでエレベーター組となる。ちょっと得した気分だ。
青桜学園は駅で電車に乗り2つ目の駅で降り徒歩10分というところだ。なぜちょっと遠いところを選んだのかというと、遠いところにしか高校が無いというわけではない。中学や小学の同期と会いたくないだけだ。
早めに出たので散歩をしながら俺は駅につき電車を待っていた。青桜学園の制服の生徒はいない。まぁいなくて当然だろう。聞き耳を立てて誰も遠いという理由で入らない高校を選んだのだから。
電車が到着し、乗り込む。1つ目の駅に向かって進みだす。
俺はまだ空いていた席に座った。
「そういえば一人で遠くに行くのってこれが初めてだな。」
俺はそう呟いた。車窓から流れる景色を眺め、ぼーっとする。たまに周りを見渡すが、移動に電車を使用するほど都会では無いので中はそこまで混んでいない。
車窓から景色を眺めたりしているうちに1つ目の駅についた。
大人たち数人に青桜学園の制服を着た人たちが何人か混ざって電車に乗ってくる。車内はそこまで混んではいないが座席はもうすべて埋まっていた。
大人の中におばあさんがいた。そのおばあさんは周りを見渡すとしぶしぶ吊り革を掴んだ。
俺は根暗でコミュ障で人間不信とは言ったが、それは同年代に対してであって、かなり年下や大人の人とは普通に話せる。なのでおばあさんが可愛そうだったので席を譲ってあげた。
「おばあちゃん、ここ座っていいよ。」
「おぉ、すまないねぇ。ありがとう。」
俺は吊り革を掴んだ。一つ目の駅で乗り込んだ人たちが落ち着くと電車は2つ目の駅に向かって走りだした。
「わっ・・・ごっ、ごめんなさい。」
列車が動き出した瞬間に俺にぶつかった子がいた。
「あ・・・い、いえ・・・・・」
本当は「大丈夫?」まで言おうと思ったのだが言えなかった。
ぶつかった子を見ると青桜学園の制服を着ていた。藍色のブレザーに白のシャツを着てチェックのスカートを穿いていた。
彼女は見た目150cmくらいの身長でウェーブのかかった焦げ茶のロングヘアーにかなりの童顔だった。
彼女は俺に一礼した後向こうの吊り革に行った。どうやら友達と乗っていたらしく向こうには女子生徒が一人いた。
俺は「大丈夫?」と言えなかったことを後悔しながら次の駅に向かう列車でつり革を握りしめた。
・・・列車は二つ目の駅に着いた。俺は登校初日に見ず知らずの同じ学園の子とぶつかるという本来ならばリア充まっしぐらのイベントなんだろうが、今までの経験からにしてそんな事はまず起こらないだろう。
そう考えながら俺は電車を降りて学園に向かった。まだ早かったのでゆっくりと散歩をしながら行くことにした。俺は筋トレをしていて昼飯を意外と沢山食べるので、途中のコンビニで弁当の足しにパンとかを買うためにコンビニに入った。
ドンッ
「ん?お前・・・・いやなんでもない。いや、隠れ筋肉ってやつか?・・・・」
入り口で人にぶつかった。俺はお父さんと鍛えているので平然と立っていた、ぶつかった人もまた同じく平然と立っていた。見た目かなりのゴリマッチョだ。身長は175cmくらい、短髪の黒髪。スポーツマンって感じだ。彼がぶつくさ何かをつぶやいていた。
「あ・・・ご、ごめんなさい・・・・・」
「ああ、すまんな。それじゃ」
俺が謝ると彼も軽く謝って学園の方に歩いて行った。よく見ると彼も学園の制服を着ていた。
ささっとパンとかを買って俺も学園へ向かった。
そして俺は学園に到着した。あまりの敷地の広さに驚いたが、高校と大学が一緒なのでこのくらいが丁度いい大きさなのだろうと思った。
小学や中学のようなことが起こらないようにと願いながら俺は校門を通り校舎に入った。クラスは1~4まであり、なかなかの人数だ。俺は1年3組だったので教室に向かう。
クラスの入り口に立つと、俺は深呼吸をして落ち着かせながら扉を開いた。
中にはまだ初めてなので殆どの人が同じ中学の人と話していたり、読書をしていたり、携帯をいじっていたり。俺の席は窓側の一番後ろ。中学から位置があまり変わらない。苗字が桐谷だしな。
席に座ると驚いたことにいきなり話しかけてくる奴がいた。前の席の奴みたいだ。
「あ、お前朝の!名前なんて言うんだ?」
「えっと。桐谷・・・り、鈴・・だけど。」
「女みてぇな名前だな。アハハハ」
いきなり名前をバカにされた。しかしなぜだろう、小学や中学の奴らとは雰囲気が違うのだろうか?馬鹿にされているのだが胸に刺さる感じがしない。いや、でも馬鹿にされているんだ。やっぱりどいつも一緒なのか。
「ん?怒ってるのか?すまん。それより鈴、今朝俺とぶつかったろ?自分で言うのもなんだが、俺にぶつかってよろめかなかった奴なんてほとんどいないぞ?なんで平然と立ってられたんだ?」
「えっと・・・・お父さんと、筋トレ・・・・して、る、から・・・。」
「やっぱり隠れ筋肉か!なぁ、俺と一緒に合気道同好会入らねぇか?できればでいいんだが・・・」
俺は戸惑った。人から誘いを受けるなんて初めてだったから。誘いを受ける嬉しさの反面、俺をいじめる気なんだろうかという疑い。しかし中学の頃から武道に憧れはあったし、いじめられても反抗出来るかという軽い思いが頭のなかでグルグルしていた。
「・・・い、いいよ・・・・」
俺は答えていた。本当は人と関わるのは嫌いだった、中学も部活には所属していたものの、いじめを受けていたので幽霊部員となっていた。いつも学校が終わると部活ではなくジムに行っていた。
なぜ俺は誘いを受けたんだろうか?分からない・・・・・・
そう考えていると、
「まじか!合気道って人気なくてさ。一緒にやれる人探してたんだよね。大会は無いけど演武会ってのがあるんだ。そこで練習の成果を見せるだけなんだけどこれがまた感動するんだぜ!」
なんか語りだした。そういえばこいつの名前聞いてなかったな。どうするかな、聞こうかな。
「ああ、そういや俺の名前教えてなかったな。俺は遠賀大樹だ。大樹でいいぜ、これからよろしくな。」
俺がどうするか迷ってるうちに紹介された。まぁ結果オーライだ。
「よ、よろしく・・・・だ、だいき・・・。」
「なんかお前たどたどしいな。もっとはっきりしゃべれよ。アハハハ」
俺はそんなにたどたどしいか?それは過去のせいだ。コミュ障になったのも根暗になったのもあいつらのせいだし・・・・
はぁ、普通に喋れたらどれだけ楽か。未だに同年代の人間が怖い。
「まぁいいさ、今日の放課後良かったら俺んち遊びにこないか?俺んち道場あるんだぜ、合気道教えてやるよ!」
さらっと遊びに誘われた。俺はついていっても大丈夫なのだろうか・・・・
でも遊びに誘われるのは久々だな。悪い気はしない。でもどうしても信用出来ない。怖いんだよな。
「も、もち・・・ろん・・・・」
俺はまた知らず知らずに答えを出していた。遊びに誘ってくれたのが嬉しかったのだろうか、怖いけど今日くらいなら行ってもいいかなと思った。
大樹と話をした後、チャイムが鳴り先生が入ってきた。
先生は今日の予定を言うと体育館に行くように言った。クラスのみんなで移動して体育館に並ぶ。他のクラスも集まると入学式が始まった。
俺も大樹も自分の返事の後は眠っていた。なんだろう、こういう時って眠くなるんだよな。
入学式が終わってホームルームに戻りレクリエーションみたいなのが始まった。
自己紹介をするらしい。なんて自己紹介をしようかと考えているうちに大樹が自己紹介を始めた。
「俺は遠賀大樹。好きなのは筋トレ、合気道、飯です。あ、ちなみにカレーが一番大好き。以上。」
さっぱりとした自己紹介だった。なんというかあいつらしい。俺も大樹と同じ感じにすればいいと思い自己紹介をした。
「えっと・・・桐谷・・・り、鈴です。好きなのは、き、筋トレ、とど、読書、インターネットです。よ、よろしくおねがいします。」
ふぅ。と溜息混じりに声を出しながら座る。周りも前のようにざわついたりイジったりしてこなかったので、少し安心した。
自己紹介が続く中、見覚えのある子が立った。
「あ・・・あの子・・・」
「なんだ?知り合いか?」
「け、今朝電車でぶ、ぶつかったんだ。」
「なるほどなー」
大樹に聞かれたので事情を話していると彼女は自己紹介を始めた。
「高瀬葵です。好きなのは、かく・・・あっと、ヘアピン集め、服集めです。えっと、よろしくお願いします。」
俺は「かく」と発した時に、ん?っと思ったが普通の女の子の趣味だった。彼女が何を言いたかったのか少し気になったが、聞くほどの仲でもないし・・・・
なんて考えているうちにみんなの自己紹介が終わった。
今日は入学式を含めた授業だったのですぐに帰ることになった。
俺は大樹に引っ張られるように下校していた。
電車に乗り、一つ目の駅を通りすぎて二つ目の駅で・・・・あれ?
「悪いな、俺、電車で二つ行ったところなんだ。帰り大変だろ?」
「い、い・・や。お、俺の家もこ、ここだ、から・・・・」
「え?そうなの!?じゃあ明日から一緒に学園に行けるなー。」
なんか強制的に一緒に学園まで登校する事になってしまった。まぁ、友達がいないわけだし別にいいんだが。いじめさえしてくれなければいいんだが。
俺と大樹は大樹の家に向かった。俺の家よりちょっと反対に行ったところで、となり町だった。どうりで中学は一緒じゃないわけだ。
俺は一人で納得しながら大樹に付いて行くと、余り会いたくない奴らに遭遇してしまった。中学の同期である。
あいつらは俺のことを見ると、大樹に群がってきた。
「ごめん、名前なんて言うの?」
「え?大樹だけど・・・」
「あのさ、じゃあ大樹。隣にいるのってもしかしなくても桐谷鈴か?」
「よく知ってるな。ん?中学の時一緒だったのか?」
「そうだよ。だからさ、俺達から大樹に忠告。あいつとつるむの辞めたほういいぜ。」
「なんで?」
「あいつさ、中学の時いじめられててさ、根暗だし、コミュ障っぽいし、キモいからさ。大樹見た目イケメンじゃん?辞めたほういいって、あいつに道連れにされるぜ?」
俺はその話が聞こえてきたので、分かっていたが今更どうしようもないので大樹に断りを入れて帰ろうとした。
でも俺の大樹に向かおうとしたその足を止めたのは意外な言葉だった。
「いや、お前らがどう思ってるかは知らんがつるむかつるまないかは俺の勝手だろ?いじめられてた?お前らは何で止めなかったんだ?」
「・・・・え?」
俺はそんな事を言われたのは初めてだった。中学でもちょっと話してくれた人は居たが、今のあいつらのようなセリフを言われた時から話してくれた人の態度が急変して無視されるようになった。
俺は久々に頭が真っ白になった。でも、今回は吐き気とかじゃない。なんか胸が苦しいけど悪い感じがしなかった。
俺がそんな状況で棒立ちしている中、あいつらも不思議な顔をしていた。
「ちょ、鈴の肩もつのか?あいつキモいじゃん。」
棒立ちの俺にもあいつらの声が聞こえてくる。くそ、好き勝手言いやがって全く。
しかし、それに反応する大樹の声がだんだん低くなり、冷たい感じがしてきた。
「・・・お前らは鈴をいじめてたんだんだな?」
「え、そ、そりゃ、キモいから・・・・。だってそうだろ?普通あんな奴とつるみたくねぇじゃんか。お前おかしいんじゃねぇの?」
ガシッ!っという音とともに大樹と話していた連中の中のひとりの頭を鷲掴みにする。さっきまでヘラヘラしていた大樹はどこに行ったのかと思うくらいの変わり様だった。連中は鷲掴みにされてない奴らも含めて足が震えていた。
そりゃそうだ、あんなゴリマッチョに鷲掴みにされたら俺だってびびる、ヘタしたらちびる。
多分怒り状態の大樹を俺は棒立ちで眺めていると、
「・・・お前はキモいって理由でいじめをしていたのか?ふざけるなよ?お前らはいじめられた奴の気持ちが分かるか?まぁ、お前たちみたいなクソガキには分からないだろうな。お前らみたいな奴のせいでな!夏樹は!・・・・いや、今のは忘れろ。とにかく、今度鈴をいじめたら許さん。」
大樹はそう言うと手を離した。
「な・・・なんだよ・・・・。知らないからな・・・こ、後悔しても。」
そう言い残すと奴らは帰っていった。
気づくと俺の胸の苦しさは消えていた。だけど・・・
「鈴、気にするなよ?ああいう奴らは相手にしないことだ。まぁ筋力のある鈴がいじめられてるとは思わなかったけど・・・・ってなんだ!泣いてるのかお前。あいつらのことなんて気にすんなって。おいおい、やめてくれよ、俺が泣かせたみたいじゃないか。」
苦笑いしながら大樹は俺に話しかけてきた。俺の目が熱いと思っていたのは泣いていたからだったらしい。「また泣いちまった。格好悪ぃな。あぁ筋トレしてぇ。」などと考えながら涙を拭いた。
初めてだった。小学、中学と進んできて、ああいった言葉を聞くとみんな俺を冷たい目で見てきた。そして次の日にはいじめる側のグループについていて俺を笑いながらいじめてきた。俺はみんなそうなんだと思っていた。
・・・でも大樹は違かった。というのは過信かもしれない。でも俺は大樹なら信用してもいい気がした。味方をされてから大樹に対する恐怖が薄れていたのがあるからかもしれない。だがこういったことは今回が初めてではなかった。味方をしてくれたと思ったら裏切るなんてのは中学ではよくあったことだ。
俺は頭のなかでどうすればいいか葛藤していると、
「お前、俺の事信用してないだろ?でも、とりあえず俺んち来てくれ。そうすれば少しは信用してくれると思うから。」
そう言われた。よく分からないがついていくことにした。
家に着いたのはいいが、敷地の広さにびっくりした。道場と普通の一軒家が並んで建っているだけだが、低い塀で囲われていたので豪邸に見えた。
俺は少し眺めた後、大樹についていった。
「ただいまー」
「おじゃましまーす・・・・」
俺と大樹は大樹の家に入った。大樹は「ちょっと待っててくれ」と言うと二階に登っていった。数分後大樹は降りてきた、後ろに女の子がついてきた。
一瞬恋人かと思ったが、どうも雰囲気が大樹に似ていたので妹かなとも思った。
彼女は大樹の後ろに隠れてちらちらとこちらを見てくる。愛らしいと言うのだろうか、可愛かった。
「夏樹、さっき話した鈴だ。んで、鈴。こいつは俺の妹の遠賀夏樹だ。駅近くでのあの事があって、なんというかお互いに会わせたかったんだ。鈴も夏樹も同じ境遇っていうのか?そんな感じだからな。」
「「・・・・え?」」
俺と夏樹ちゃんの声がハモった。俺の境遇で身に覚えのある事といえばいじめくらいだが、この子もなのか?
夏樹ちゃんは、ぱっと見ちっちゃく見えるが、クラスで見た高瀬さんよりちょっと高いと思う。155くらいかな。黒髪のストレートのセミロングで童顔というよりはすこし幼さの残る愛らしい顔立ちというところだろうか。
こんな可愛い子がいじめ?いや、可愛いからこそハブられたとか?うーん・・・
俺が考えていると夏樹ちゃんが話しかけてきた。
「あ・・あの、夏樹です。えっと、り、リンさん?もいじめられてたんですか?」
「うん、小学5年から中学卒業するまでずっとね・・・・。じゃあ夏樹ちゃん?でいいかな。夏樹ちゃんもやっぱりいじめられてたの?」
「そ、そうなんです・・・・。私、人見知りで。周りの人が怖くて自分から話しかけられなかったんです。気づいたら一人ぼっちになっていて。その頃から靴を隠されたりとかされるようになって。わ、私・・・怖くて、実はもう学校行ってないんです。通信で中学の勉強をしているんです。」
俺の予想を超えるヘビーないじめだった。俺以外の奴が受けてるいじめなんて軽いもんだろと思っていた自分に喝を入れたい。
夏樹ちゃんはどうやら俺の2つ下らしく、本来ならば中学二年生らしい。彼女がいじめを受けていたのは小四から。本当だ、俺によく似ている。まぁ、俺のいじめられる原因を作ったのは虎だが、彼女も苦労をしているようだ。人見知りが根暗とかコミュ障にみえたんだろうか。ぼっち、根暗、コミュ障・・・・・
完全に俺だな。同情するぜ大樹シスター。いつだか俺、同情なんていらねぇって思った時もあったな・・・・
「大変だったろ?俺も同じいじめられっ子だからっていうと何か癪だけど、俺は夏樹ちゃんのこと嫌ったりしないよ?よろしくね。」
「まぁ夏樹に何かしようもんならたとえ鈴でもぶっ飛ばすけどな。アハハハ・・・ん?分かってるって、そんな怯えるなよ鈴。」
「お兄ちゃん!あんまり人を怖がらせないでって言ったでしょ!」
「す、すまん夏樹・・・ごめんな、兄ちゃんを嫌いにならないでくれ。」
こんな会話を家族以外の人と話したのは久しぶりだった。てか大樹ってシスコ・・・これ以上は何も言うまい。この事もあり、俺は大樹を信用してみようと思った。
入学初日に大事な友だちが出来た。大樹と夏樹ちゃん。俺は胸がいっぱいになった。
大樹と夏樹ちゃんと大樹の家のリビングでお菓子を食べながら雑談して、その後は道場で合気道の基礎を習った。手刀とか力0?の部分を教わって、護身術に使えるようなレベルまでとは行かなかったがそれなりに基礎は出来てきた。
途中、何度か失敗して軽いパンチを食らうはめになった。「へぶぅ」とか声をあげて膝をついたが、友達と遊ぶ事が久しぶりだったのでとても嬉しかった。声をあげるたびに、見ていた夏樹ちゃんが笑っていた。夏樹ちゃんも家族の影響で護身術のために合気道が出来るらしく、夏樹ちゃんが相手すると言った時に俺が「手加減した方がいい?」と聞いたが大樹も夏樹ちゃんも笑っていた。まさかとは思ったが、案の定、俺のパンチは手刀で防がれ、夏樹ちゃんのパンチを食らうことになった。
次第に暗くなり、そろそろ帰ろうかと思っていた時、
「晩飯食ってけよ鈴。」
「そうだよ、鈴さん。食べてってよ。」
二人に夕食を食べていくように勧められた。断ろうとしたが、途中で大樹のお母さんが来た。
「あら?夏樹もいたの!・・・・・へぇ、そっか。鈴くんだったかしら?夕飯はおばちゃんがごちそうしてあげるから食べていきなさい、夏樹のあんな笑顔久しぶりよ。鈴くん、夏樹に何したの?」
うふふ、と声を出しながら夕食に誘ってくれたので俺は大樹の家で夕飯をごちそうになることにした。
親に連絡をすると、お父さんとお母さんから「友達ができたんだね」と最後にぼそっと言われた。薄々俺の事情は知っていたらしい。
連絡を終えて俺はリビングに向かった。大樹と夏樹ちゃん、そして大樹のお父さん、お母さんの五人で夕食を食べた。
大樹のお母さんから何度も「ねぇ?夏樹に何したの?」と聞かれた。そして大樹のお父さんは少し涙目になりながら、「よかった・・・」と呟いていた。それほど夏樹ちゃんは重症だったのだろうか。今度機会があれば大樹にでも聞いてみようと思った。
夏樹ちゃんは、
「もう、お母さん!友達が出来たってだけじゃん!何もされてない!」
と顔を真っ赤にしながら言っていた。中学二年生だもんな、反抗期かな?照れてるのかな?と思いながら俺は微笑ましくも見ていた。
大樹はと言うとカツにがっついていた。遠賀家では良い事があるとカツになるらしい。大樹のお母さんのカツは絶品だ。
「大樹、いつもそんながっついてんのか?からだに悪いぞ。大体筋肉を増強したいのならな・・・・」
「ん、今日はカツだからだな。てかお前も俺と同じ筋トレ好きだったな、やっぱり筋肉増強には・・・・」
大樹とは仲良くなれて信用もしているおかげか、同年代なのにすんなりと話せるようになっていた。夏樹ちゃんも同様だ。
筋トレの話をしていると大樹のお父さんもやはり親子なのか筋トレが大好きらしく話に入ってきた。なぜか話の流れで三人で筋肉を見せ合うために上半身裸になるという話になり、俺と、大樹と、大樹のお父さんで筋肉を自慢し合った。
大樹のお母さんは苦笑いだが、やはり親子で趣味があうのだろう。止めるどころか、俺の筋肉を見て感想を言ってきた。
夏樹ちゃんは顔を手で覆い隠しながら指の間からチラチラと見てくる。歳相応の反応だが、やはり筋肉が気になるようだった。
俺は大樹の家族と他愛もない話をした後、帰路についた。大樹のお母さんが、お土産にとカツを三枚くれたので明日もあの美味しいカツが食べれると思うとよだれがでそうになる。
家に帰ると両親が笑顔で「おかえり」と言ってきた。「だだいま」と返した時、二人はびっくりしていた。どうやら俺の顔が幸せそうな顔をしていたらしい。
俺は家に入ると風呂に入り、あがったら歯磨きをして寝た。歯磨きをしている時に目の前に鏡があるので俺の顔が見える。俺の顔はかなりニヤついていた。
明日から友達と一緒に登校して、友達と話をして、友達と遊んで、家に帰る。俺はこの日をどんなに待ち望んだのだろうか。明日が楽しみでたまらなかった。旅行前の子供ようにうきうきしながらベッドで眠った。
俺はその日夢を見た。その夢はついさっきの事だった。大樹と出会い、夏樹ちゃんと出会い、遊んで、夕飯をごちそうになる夢だ。でもこれは夢じゃない。夢だけど夢じゃない。本当にあったことなんだ。今まで頑張って生きてきて本当に良かったと心から思えた夢だった。
朝起きると目がカピカピしていた。また泣いていたらしい。でもなんかスッキリした。
俺は朝食にカツが出ているのをみて、夢じゃないと嬉しさいっぱいになりながら朝食を食べ、身支度をして、大樹と待ち合わせの駅へ向かった。