エピローグ 鈴の過去
誰もが記憶というものを鮮明に覚えていられるようになるのは平均小学校中学年から高学年あたりからだと言われている。
鮮明に覚えていられる人の人生という記憶と経験は様々だが人間の人生の華と言われているもの。【恋愛】
恋愛とは互いに、異性として好きになるということだ。しかし恋愛とは最低限の人間関係があってこそのものである。
しかし人間関係がうまくいかない人だって世の中にはいる。
桐谷鈴もその中の一人”だった ”・・・・・
■■■■□□□■■■■
「やった!スーパーレアカードだ!」
「すげぇじゃん。・・・・は!?金龍ゴルドランとかずるっ!」
僕が今当てたカード、金龍ゴルドランとは今流行っているトレーディングカードゲームのスーパーレアカードだ。金ドランと言われていて当たる確率がかなり低い。金持ちの友達が3箱買ってようやく1枚出たというのを聞いていた。
「俺によこせよ!」
僕にそう言ってきたのは覚えてはいないが親の話からにして幼稚園からずっと一緒だった安藤虎、虎だ。金ドランだと分かった瞬間に怖い顔で僕に言ってきた。
「と、虎でもさすがにあげれないよ・・・・」
「なんだと!よこせっつんでんだよ!」
虎が僕を叩いてきた。僕はだんだん頭がモワモワしてきていつの間にか叫んでいた。
「なんで僕が当てたカードを虎にあげなきゃいけないんだよ!うわあぁぁぁぁん」
なぜか僕は泣いていた。そして何も考えられなくなって僕は虎を叩いた。多分これが生まれて初めてした喧嘩だと思う。
「お前ら!何やってるんだ!」
そう怒鳴ったのは僕のお父さんだ。お父さんは僕と虎に拳骨をすると事情を聞いてきた。それに答えたのは虎だった。
「鈴くんのお父さん、僕が金ドラン、・・・このカードを当てたのに鈴くんが僕から取ったんだ。だから返してって言ったのに叩かれて・・・・」
僕はこの時頭が真っ白になった。何言ってるんだよ?取ったのは虎だろ?真っ白になった頭でそう考えた瞬間
ゴンッ!
頭に衝撃がきた。衝撃の後、
「なにしてるんだ鈴!そうやって人の物を取るのがどれだけ悪いことなのか分かってるのか!」
お父さんは僕に怒ってきた。僕はもう何がなんだか分からなくなった。でも僕が悪いわけじゃないのは分かったんだ。だから僕は、
「僕は取ってない!僕が金ドランを当てたんだ!嘘つかないでよ虎!なんで嘘つくんだよおぉぉぉ」
僕は泣きながら言った。しかし返ってきたのはまたもや僕の頭を頭を真っ白くさせる言葉だった。
「そうかのか?虎?鈴からカードをとったのか?」
「違うよ、鈴くんのお父さん。僕がとられたんだ・・・・鈴!なんでそんな事言うんだよ!とったのお前だろ!」
僕はもう何も考えられなくなって僕の部屋に走った。
微かにだがお父さんと虎の話し声が聞こえた。
「虎、鈴が悪いことをしたな。あいつにはちゃんと言っておくから今日はもう帰りなさい。今日は本当にごめんな。」
「ううん、こっちこそ鈴と喧嘩してごめんなさい。」
「ちゃんと謝れていい子だな虎。それじゃあね、気をつけて帰りなさい。」
「はーい、鈴くんのお父さんさようなら。・・・お邪魔しましたー。」
バタン!というドアの閉まる音がした後、僕の部屋をお父さんがノックしてきた。僕はとてもむしゃくしゃしていた。こんな感情は初めてだった。だからつい、
「うるさい!お父さんなんか嫌いだ!こっちに来るな!」
と言ってしまった。しかしお父さんは入ってきた。僕がベッドに突っ伏していると、
「どうしたんだ鈴?お前があんなに怒っているのは初めて見たぞ?まさか本当にとられたのか?」
「さっきからそう言ってるじゃないか!」
僕は即返した。むしゃくしゃしていたこともあって強い口調でお父さんに言ってしまった。僕は怒られてしまうと思いドキドキしていると、
「・・・・そうだったのか。ごめんな鈴、またカード買ってやるからお父さんを許してくれないか?」
すごく柔らかい口調で僕に話しかけてきた。僕はその口調のせいか心がフワッとする感じになってすぐに胸がキュッとする感覚になった。
目から涙が溢れてくるのが分かっていたが止まらなくなった。
僕はお父さんに抱きつくと
「ごめんなさいお父さん!僕、嘘つかれたのが嫌だったから!なんかモワモワしてきて!お父さんにも怒鳴って!ごめんなさい!うぅぅぅぅ」
僕はそう言っていた。お父さんは僕の背中を優しくさすりながら「ごめんな」とばかり呟いていた。
そんなことがあった次の日。
「おはよー」
僕はいつもどおりに挨拶しながら教室に入った。僕は5年A組。A、Bの2クラスでそこまで生徒が多い方ではないのでみんな話したことがあるし友達という感じになっていた。僕の席は窓側で一番後ろだ。一番前に虎の席がある。いつもどおり虎は早く来てクラスのみんなとトレーディングカードゲームの話をしていた。僕が席に座ると虎の話が聞こえてきた。
「見ろよ!金ドランだぜ!?すげーだろ!昨日当てたんだよ!」
「「「「「「すげぇ!本物だ!」」」」」」」
僕はその言葉に疑問を思い虎の方をみた。すると虎と目があって虎は少しニヤついたかと思うとみんなの方を見て言った。
「おい!みんな聞いてくれよ!昨日金ドランあてたんだけどさ、鈴が俺から奪おうとしたんだよ!頭にくるよな!」
クラスにいる人達は僕を見た。ひどい目だった。どの人も僕を冷たい目で見てくる。怖かった。
「だからさ!俺こいつ嫌い!お前ら鈴と話したら殺すからな!」
僕は頭が真っ白になった。なんで・・・・・?そんな感情でいっぱいだった。いつもワイワイしているクラスが冷たく見えてきた。
クラスは一瞬静まると、またワイワイしだした。何事も無かったようなので僕は安心していた。
午後の授業が終わって家に帰ろうと学校の玄関に行く途中にクラスの人達がほとんど僕に話しかけてきた。ただ、話した内容がみんな同じだった。
「ごめん、虎怒ると怖いからもう鈴くんと話せないよ、ごめんね。」
僕はそれでもまだ良かった。僕を嫌いになったわけじゃないと思えたから。
でも予想を超えた生活が待っていた。
あるときは靴が無くなっていたり、あるときは机の中が空っぽになっていたり。
僕は前のような胸のチクチクよりもお腹から全身にかけてくるようなズキズキがくるようになっていた。虎の言った僕の噂はいつの間にか広がり、隣のクラスの中の良かった子が全く話してくれなくなった。その日から僕は帰るとベッドで泣くというのが習慣になっていた。でも僕がおかしくならずにいられたのは前にみんなに言われた言葉だった。僕は嫌われてはいないと信じて疑わなかった。
■■■□□■■■
僕は小学6年生になって半年が過ぎた。相変わらず話してくれる友達はいないが嫌われているわけではないと思っていたので特に気にしていなかった。
ある日、僕は宿題を忘れた。明日絶対提出なのでまだ校門だったこともあり、教室に戻った。扉を開けようとした時に虎の声が聞こえてきた。
「お前らさぁ?黙ってるだけじゃ面白く無いだろ?なにかしろって。」
「えー、だって虎がひと通りやっちゃったじゃんかー」
「そうだよ?せっかく私も提案してあげたのにすぐそれやっちゃうんだもん。」
僕はまた頭が真っ白になった。とたんに吐き気がきた。僕は学校のトイレに入り、嘔吐した。僕は授業中に忘れ物をした時なんかに隣の人に見せてもらったり他の人から借りたりなんかもしていたが、ここ最近無視されるようになっていた。気のせいだとは思っていたが胸に突っかかっていた。そして今悪い意味でとれた。学校が嫌になった。
でもある日、周りから聞こえてきた話だが、進学する中学校は他の学校の生徒も集まるらしい。さらに僕は幼い頃から虎と一緒だったので虎の家の事情は知っている。虎は小学校卒業した後仕事の都合で外国に行くそうだ。そこに会社があるらしく、虎はそこを継ぐらしいのでもう戻ってこないだろう。僕はそのことも知っていたので、なんとか生活してこれた。もう少しで卒業なので頑張ってみることにした。中学からやり直せると思っていた。
・・・小学校を卒業し、中学校へ入学した。虎がいないと思うだけで心踊る気分だ。
”俺 ”はウキウキしながら新しく始まるクラスに入った。
数日がたち、クラスの雰囲気が安定した頃
「・・・・おは・・・・よ・・う・・・」
俺は中学同時に心を入れ替えたつもりだったが、小学校のこともあり、周りが信用出来なかった。なので挨拶もたどたどしくなってしまった。正直なところ周りが怖かった。しかしそれでは始まらないので挨拶をしてみた。
ザワザワと声がして一瞬こっちを見るがまたクラスに出来たグループでワイワイはじめる。
俺は小学校で孤立してからはお父さんの勧めでインターネットと読書、筋トレをしていた。インターネットは掲示板を見たり、アニメを見たり。読書はラノベを読んでいた。なので少々痛い子になっている。俺は自分でもそれは理解している。
この状況は考えなくてもわかる。俺は小学校の些細なことで人間不信になってしまい、コミュ障になり、周りからは根暗なぼっちな人として認識されている。
はぁ・・・・・俺を救ってくれるMyエンジェル!はいないかねぇ・・・・
そう考える俺だったが、いざ人を前にすると臆してしまう。人が怖い。
この状況だと3年で待ち構える修学旅行がやばいと思いながらも友達一人くらいはほしいなと思った。
・・・結局友達が出来ないまま2年生になってしまった。だが事態は急変した。
わかるだろうか?反抗期である。俺は人が怖くて話せないので頭が痛くても周りに知られることもなく過ぎていった。俺の反抗期は親にはちょっと引き目で見られたくらいであって、親から言わせるともう俺の反抗期は過ぎたらしい。
俺のことはどうだっていいんだ、周りが問題だった。
「・・・ねぇ、あのぼっちの子、鈴くんだっけ?キモくない?」
「おい!きこえちまうだろ!アハハハハハ」
「「「アハハハハハ」」」
聞こえてるよクソ野郎。信用しようとしてみたが、やっぱりどいつも同じじゃねぇか。結局俺をまともに見てくれる奴なんて存在しないんだよ、ああ、二次元に行きたい。
そう呟く鈴を尻目に周りは徐々にエスカレートしていく。
「やべっ、手が滑ったわ」
そのセリフとともに飛んでくるケシカス。
俺は小学の事件で抗体がついたのだろうか。その後も靴を隠されたり、掃除を俺一人に押し付けたり、何かあったら俺のせいにする。俺は人が怖くて反論出来ず先生に疑われ怒られる。
俺の人生ってもう終わりに等しいよな。いっそ終わらせてくれよ神様。
・・・・・なんて呟くのがほぼ毎日。
中学も半分を終え、お年ごろになり彼女の一人も欲しくなる。だが俺には女友達どころか男友達すらもいない。俺は根暗でコミュ障、人間不信。
はぁ、死にたい。
・・・そんな入学当時の願いもかなわず修学旅行が来た。もちろんぼっち。移動時のバスや新幹線は先生の隣。座席表を見てもおかしい。多分生徒たちで回したんだろう。
あ、俺も生徒だけどね・・・・・うるさいやい、同情なんていらんわい・・・
修学旅行の醍醐味といえばやはり告白だろうか。俺はぼっちなのですぐに泊まりのホテルに戻る。自由行動という時間だが、俺は悲しくなるだけなので部屋にいることにした。だが部屋を開けようとすると、
「俺、お前の事好きなんだ。愛してる。だから付き合ってくれ。」
「・・私も大好きだから・・うぅ、夢かな?夢じゃないよね。・・・はい。」
愛の告白が聞こえてきた。何だお前ら結婚する気か?もうこれ以上俺をいじめないでくれ、精神的に。
俺はそいつらがいなくなったのと同時に部屋に入り寝る。そして起きると夕食の時間に夕食の会場へ向かう。もちろん自由席なのでぼっち飯だったが、帰り際に同じクラスの可愛い女の子から
「鈴くん、お風呂の時間終わった後の自由時間にホテルの入口にきて・・」
とささやかれた。俺はフラグを立てた覚えはないし・・・とは思ったが俺もお年ごろなので心が動かされてしまった。
風呂に入った後ドキドキしながらホテルの入口に行った。するとその子が待っていた。彼女は僕を見つけると駆け寄ってきて、
「好きです、付き合って下さい!」
と言われた。俺はもう嬉しさMAXで飛び上がりそうな気分を抑えながら、しかし俺の抱える精神的病は消えてないので、
「お・・・おれで・・い、いいの?・・・」
とオドオドした感じで言った。俺はもう神様に今まで死にたいなんて言ってすいませんと願っていた。・・・・が、
「え?ダメに決まってるじゃん。」
と冷たい声が返ってきた。
「・・・・え?」
俺は頭が真っ白になった。久しぶりの感覚だった。俺はどうやら直感できるまでにいたぶられていたらしい。すると影から声が聞こえてきた。
「「「「アハハハ、もう無理、我慢できねぇよ。アハハハハ」」」」
男数人と女数人が腹を抱えて出てきた。告白した子も爆笑していた。
俺は「そうだよな。」と納得して呟いた。
「アハハハ、でもさ、女の子から告白されるってほぼ皆無に等しいよ?私から告白してあげたんだしさ、思い出にしときなって。まぁそんな根暗でコミュ障な君が女の子から告白されることなんて無いと思うけどねー」
「「「「「同感だわー、良かったな鈴!アハハハハ」」」」」」
俺はトドメを刺された。男からのいじめならまだしも女にもここまで言われるともうだめな気がした。いや、俺はもう無理だって分かってた。
もうやめてくれ、それ以上俺にかかわらないでくれ。煩いんだよ。なんでちょっかいだすんだよ。俺に何の恨みがあるんだよ。なんでおれなんだよ。・・・・・・・・・・・・
俺は無言でホテルの部屋に戻り寝た。久々に夢を見た。いい夢なんかじゃない。そう、虎との5年から6年の卒業までの2年間の夢を見た。悪夢に等しいが俺を睡眠から起こしてもくれず、2年間を思い出す羽目になってしまった。
朝起きると目がカサカサしていた。寝ながら泣いていたんだろう。この歳で泣くとか自分が嫌になる。
とりあえず顔を洗って朝食を食べてみんなでバスに乗り帰る。
バスの中でその頃を思い出してお父さんに相談したことを思い出した。
俺は精神的に強くなるためにはまず肉体からとお父さんに言われていた。いじめを受けていると感付かれないようにさらっと聞いたら、お父さんは「体を鍛えればなんとでもなる。」と言ってきた。お父さんは大工で設計だが、納得行くものを組み立てるときは自分で材料を運ぶそうだ。なのでお父さんはムキムキ。土方で金髪のあんちゃんたちを大人しくさせることも出来るくらいの人だ。
なので俺はお父さんと一緒にジムに通っていてかなり無駄に筋力がある。着痩せしていて筋肉を披露することもないので自己満足だが。
お父さんに影響されてか筋トレが好きになってしまい、むしゃくしゃした時はダンベルを振り回したりしていた。
なので今回も早く帰って筋トレがしたかった。夢といい泣くといい、むしゃくしゃしているんだろうか。
なんて考えていると解散場所までついた。俺は帰宅ついでに筋トレもしようと思い、荷物を持って全力疾走で家まで帰った。
次の日、俺の症状が悪化しているのに気づいたのは学校に来てからだ。どの話も俺の悪口に聞こえてくる。そこにいるのが嫌になってくる。でも学校は休まなかった。それは誰でも夢に見る高校生デビューを果たしたかったからだ。今度こそ信用できる友達を作るんだと思い、頭が悪い奴が来ないような、だがエリート揃いのような場所じゃない、普通の高校に行くために勉強をした。
そして試験も終わり合格も決まった。
俺は根暗、コミュ障、人間不信、被害妄想のバッドステータスがある。でも克服して高校では普通に暮らしたい。
・・・数カ月後、卒業を終え、みんなはお疲れ会しようと言っていたが俺に招待は来なかった。わかっていたが最後の最後まで俺の精神的ダメージを与え続ける奴らだった。どうせ高校も同じだろうが仕事に生きるためにも高校は通らなくては行けない道なので開き直るしか無い。
「はぁ、いじめられないように頑張るか。」
覇気のない諦め染みた声で鈴は自宅で筋トレしながら決意をすると、プロテインを取り出しまた筋トレに励むのであった。