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鬼のユメ  作者: 縹まとい
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第四幕:影追い 前編

 胸が、痛い。

 チクチク、キリキリ、どうしてこんなに痛いんだろう?

 目を、開けなくちゃ。でも、あれ?もう目は開いてるのかな?

 変だよ、何も見えない。

 ここは何処なんだろう?どうしてこんなに暗いんだろう?

 私は何をしているんだろう?

 ふと、直ぐ傍で人の気配が動いた様な気がした。

「な、ぎ…?」

 恐る恐る、その名を口にしてみる。

『どうしたんだ?京』

 元気な凪の声、一瞬でさっきまでの胸の痛みも、不安も吹き飛ぶ。安堵感で思わず笑みがこぼれ出した。

「もう、やだな、脅かさないでよ。ねぇ何処に居るの?変なんだよ、ここ、暗くて何も見えない…」

 手探りで凪の姿を探す。

『ここだよ、ここ』

 直ぐ傍で聞こえる声。

「どこ?本当に、見えないんだよ…?ねぇ、凪、一体、何処なの?」

『俺は、ここだよ』

 少し、声が遠くなる。

「凪?」

 不思議に思っていると、更に声は遠くなる。

『ここだよ…』

「ねぇ、どうしたの?なんだか、遠い」

 少しの沈黙。

『…さよなら』

 ズシンと、心と体に響く言葉。ショックで顔から音を立てて血の気が引いていく。

「嫌だ、どうして!?待って!凪、なぎぃ!」

 空を切るように私の手のひらは地面を叩いた。

「なぎ…」

 そうだ、私は凪を見つけられなかった。記憶が一気にフラッシュバックする。

「ふっ…え…」

 傍に…直ぐ傍に居ながら、見失った。

 こみ上げてくる嗚咽で喉の奥が痛い。収まったはずの胸の痛みが、再びキリキリと心臓を締め付ける。

 こんな事は一度もなかった。

 私が凪の気配を完全に見失うなど、今まで一度たりとも、決してなかった事だ。例えどんなに離れていようとも、私たちはお互いの存在を肌で感じる事が出来ていてた。まるで表裏一体のように、それこそ確かに私たちは目に見えない何処かで繋がっていた。

 なのに、今度ばかりはそうではなかった。

 まるで、糸がプツリと切れてしまった様に、凪の存在が感じられなくなってしまった。どんなに思い起こしても、どんなに考えても、まるで原因が分からない。

 ひょっとしたら凪を失った実感すら、今の私には何処か希薄なのかも知れない。自分なのに、違う誰かの身に起こっている様に、遠く遠く感じている。

 可笑しな話だ。

 凪を見失ったショックの余り、無意識に時無しの沼…しかも妖異ですら滅多に踏み込まない、光もなく時の流れもない最深部に逃げ込んでおきながら、ホントの所はその感覚が麻痺しているだなんて。

 私は一体何をしているんだろう?

 ゆっくりと頭を巡らせる。止めどなく頭に浮かんだ言葉を一個一個吟味しては、ふるいにかける。

 凪。

 ハタとそこで思考が止まる。

 私はこの時無しの沼で、どれ位の時間を過ごしてしまったのだろうか?

 急がなければ、凪が待っている。こんな所でのんびりと油を売っている訳には行かない。

 私は振り切るように涙を手の甲で拭うと、立ち上がった。

 もう一度、行ってみよう。

 凪を見失ったあの場所へ…。


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