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夕暮れ時のリビング。
見知らぬ外人。振り上げられたナイフ。
ガラスの割れる音。トマトが砕けるのに似た、異音。
飛び散った液体。
そして、血に塗れた白人。
頭痛を感じた。右手を額に当て、目を閉じた。
瞼の裏の闇にも、真っ直ぐこちらを見つめる白人の青い瞳が蘇った。その瞳が徐々に澱み、鮮度の悪い魚の目のようになっていく。
あの後、どうなったんだ? 額に当てた手をゆっくり下ろし、顔を撫でる。
強烈に刻まれた人の死に顔だけが記憶を支配し、肝心の、いまなぜ自分がここにいるのかがわからない。どうやら死んでいないことだけは確かなようだが、なぜ自分が助かったのか、なぜあの男が死んだのかが、わからなかった。




