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一瞬、本当にトマトが潰れたのかと勘違いした。だが、ないものが潰れる道理はない。
確認するため、降りかかった液体に手をやる。その間にも乾いた音がさらに二、三度続いた。
額にやった右手の先に、生暖かい液体が触れた。
わずかに粘り気を感じる。
ゆっくりと額から手を離し、視界の中に持っていく。
焦点が像を結び、色を伝えるまでは刹那。
俊哉はそこに、真っ赤に染まった指先を見た。
血。
この状況ではそれ以外思いつかず、またそれ以上の想像力も俊哉は持ち合わせていなかった。
では誰の、と続いた思考が、消えた男の影を追った。




