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逃げなければ。
とにかく逃げなければ。
あのナイフが何をするためのナイフなのか。それは火を見るよりも明らかだった。
他人の家に忍び込み、家のものに見つかっても逃げ出さず、力任せに投げ飛ばした挙句、取り出したナイフが子どものおもちゃという冗談もない。
殺される。
意味も、理由もわからず、この場で、この外人に、おれは殺される。
どうやら自分が叫んでいるらしい、と気づいたのは、闇雲に身体を動かし始めた後だ。
まともに動いてくれない身体で、俊哉の両手は無様にフローリングを掻いていた。
だが、足をもがれた虫のように、身体はその場から、まったく動かなかった。




