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本能が訴えるものなのだろう。強烈な暴力と圧倒的な腕力の差を見せつけられたいま、白人の体格はそれまでの倍以上に大きく見えた。
床に突いた手が震え、肘から力が抜けていく。
立ち上がろうにも腰から下の感覚が鈍い。自分のものとは思えないほど遠くに感じられた。
恐怖が身体を蝕んで行くのを、俊哉は感じた。
ただ見ることしかできない視界の中で、男が動いている。
右手が上着の中に入ったと思った瞬間、その手には大振りなナイフが握られていた。恐怖は視覚情報にまで影響するものらしい。男の動きが断片的に見える。
口角を吊り上げ、笑みを深めた外人が、ナイフを片手に歩み寄ってくる。
だがそれさえも、ダウンロードの遅いネット動画のように、飛び飛びに見える。
果たして男がいま、自分とどれほどの距離にいるのか、もう俊哉には正確に判断することができなかった。




