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まさかこの男、母さんに何かしたのか?
あざ笑う男の表情に、俊哉が行き着いた答えはそれだった。
その瞬間、スイッチが押されたかのように、全身が熱くなった。
「誰だ、てめぇ!」
擦れた声しか出せなかった喉に力が戻り、怒気が迸った。
その勢いを乗せて、俊哉は床を蹴った。
相手の上背は、自分と同じか少し大きい程度。肩幅は広かったが、それはスーツのせいだ。実際近づいてしまえば、体格差はほとんど感じなかった。
言葉の通じない外人ということで、不気味さは一入だったが、それでも一対一だ。いざとなればどうとでもなる。
自信に根拠はなかったが、俊哉の身体は止まらなかった。持っていた通学カバンを男に投げつけ、特に喧嘩慣れしているわけでもない身を闇雲に走らせた。
上半身を折り曲げ、男に頭から体当たりをかける。下腹部を狙って頭突きを入れつつ、その流れで足を取り、転倒させる。
以前、格闘技のサイトで見た、うろ覚えの知識を呼び出し、体現して、男を取り押さえる。
その、つもりだった。




