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その外人の男が、口元を吊り上げた。
どうやら笑ったらしい。
短く刈り込んだ茶色の髪に手をやり、大仰な仕草を取った。何かが可笑しかったらしいが、それがいったい何のことなのか、俊哉にはまったく理解できない。
そもそもこの男は何者なのか。なぜ自分の家にいるのか。
何一つ理解できなかった。
大体、母さんはどうしたのか。
そこまで考えた瞬間、驚愕に固まりかけていた身体の筋肉が、突然自由を取り戻した。
そうだ。母さんはどうしたんだ。
この時間ならば、家にいたはずではなかったか。
「……お前、誰だ」
感覚を取り戻し、蠕動する喉の筋肉が、どうにかそれだけ搾り出した。自分でも驚くほどに乾いた口の中に舌が張りつく。
男は何も答えなかった。
ただ黙って、口を吊り上げて笑っている。
声一つ上げずに、嗤っている。




