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「息子が帰りましたよー」
玄関からリビングまでは、十歩も歩かない距離だ。
その奥のキッチンまででも二十歩は使わない。
すぐに廊下との仕切りになっている扉に辿り着く。擦りガラスのはめ込まれた扉なので、奥の様子がうっすらと見えた。
ドアノブに手をかけながら、中の様子を窺う。
人影が動いたようだった。
なんだ、いるんじゃないか。
キッチンの奥などではなく、しっかりリビングにいたらしい。
返事ぐらいしてくれればいいのに。
さすがに愚痴の一つも思い浮かべつつ、俊哉は扉を開いた。
その瞬間、言葉を失った。




