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パートなどには出ず、専業主婦として夫の仕事を支えている母。
それが捜査官同士、結婚に際して仕事と家庭のあり方を相談した結果なのだろう。おかげで俊哉は十七年の生涯の中で、家に帰っても誰もいない、ということは稀だった。それゆえ、家の鍵を持ってはいたが、今日のように玄関が空いていることも、そう珍しいことではなかった。
「ただいまー」
キーケースをカバンに戻しながら、扉を開いた。普段通りの声を家中に響かせる。
しかし、何の反応もない。
キッチンにいて、聞こえなかったのだろうか。これまでもそういう経験はあった。
玄関から奥へ伸びる廊下とリビングの間には、仕切りになる扉があった。扉が閉まっていれば、声が届かなくなることもある設計だった。
一応、帰宅報告だけは済ませておきたい。それが習慣なので、俊哉は特に不満らしい不満も抱かずに、リビングを目指した。
履きなれたローファーを脱ぎ、廊下に上がる。




