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思わせぶりな視線を残した由利だったが、結局その後、話らしい話はなかった。
明るく、活発な彼女のことだ。友人との会話やら何やら、いろいろと忙しかったのだろう。午後の授業が終わるまでに何度か話しかけてきたにはきたが、他愛無い会話に終始し、あの時何かを言おうとした視線に繋がる言葉はなかった。
放課後になり、吹奏楽部の活動がある由利は、気がつけば教室からすでにいなくなっていた。
まあ別に、その程度の用事なのだろう。明日でも、いつでもいいってことか。勝手に想像した俊哉は、コートを羽織って、教室を出た。
駐輪場に向かい、自分の自転車を探す。
全校生徒が一同に利用する駐輪場には、かなりの数の自転車が並んでいる。進学校でありながら、部活動にも熱心な学校として知られる高校だけに、まだほとんどの生徒が校内に残っているのだ。
どのあたりに停めたか、朝の記憶も曖昧なため、探し出すにはいつも苦労する。一分以上掛かって見つけ出し、肩がけのカバンを前カゴに投げ込んだ俊哉は、そこでコートのポケットに手を突っ込んだ。
二つ折りの携帯電話を取り出し、開いてみる。
受信メールは、なかった。




