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サラダの端に彩として添えられた感のあるプチトマトを、指先で摘んだ。申し訳程度にでも手を伸ばしておかないと、健康を気にする母のこと、野菜も食べろ、といつものように言われかねない。
「被害者は日本中。年齢にも一貫性がない。だったら本当に無差別だろう? 母さんが狙われない、って保証もない」
椅子から立ち上がりつつ、父の冷静な事件の捉え方を真似た言葉を吐いてみる。両親が刑事という影響は、やはり強いものだ、と俊哉自身感じる。
「まあ、そうね……」
結局こちらは振り向かず、母は事件の情報収集に没頭している。父から聞いた最新の捜査情報と照らし合わせているのかもしれない。
結婚後、刑事を辞めた母は、現役を離れてすでに二十年近いはずだが、情報の整理はもう職業病の一種なのだろう。こうした凶悪犯罪が起こるたびに、これと同じ光景を見てきた俊哉には、別段疑問もなく、
二個目のプチトマトからヘタをはずして口に運んだ。
噛み潰して、すっぱい液体が口の中に広がる。
「ごちそうさん」
「あら、早いのね」
そこでようやく振り返った母と一瞬だけ顔を合わせて、俊哉は居間を離れた。
階段に足をかけた瞬間、殺人事件がどうの、と言った瑣末な情報は一切消え去り、頭の中はこれからの『フライトプラン』で満たされていた。
午後七時二十分。
日付が変わるまでとしても、後四時間以上は、『W.A.R.』の空を飛び回れるはずだ。




