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『プレイヤーの皆さん。『W.A.R.』を通して遠くの誰かと共闘し、繋がってください。そしてその誰かのことを、自分と同じ人間なのだと想像してください。身の回りにいる親しい友人や肉親と同じ、一人の人間なのだ、と想像してください。
『W.A.R.』が描いているのは戦争です。しかしそうして想像し、信頼し、繋がることで、本物の戦争はなくなると、私は確信しています。
『W.A.R.』開発責任者 ユニオンソフト社 ロバート・ウィーヴァー』
「ロバート……」
あの気弱そうな眼鏡姿が脳裏を過ぎった。友人たちが背後でざわめく声を上げ、由利に至っては心配して、声をかけてくれている。
これは間違いなく、あのロバートの言葉だった。あの事件を共に乗り切ったからこそ、この言葉が紛れもなく彼のものだとわかる。
なぜ、とは思わなかった。つまり今、この画面に映っている『W.A.R.』は、これまでの『W.A.R.』とは別物なのだ。新型機パイロット育成と選定を目的にしたフライトシュミレータ、などという闇を抱えたものではない。画面に表示されているロバートの言葉通り、あくまで純粋に楽しみ、遠く離れた誰かと繋がるための一つのツールとして、ロバートの手によって生まれ変わったのだ。あの事件にかかわったものたちすべての、希望の具現として。
俊哉の手が、キーボードを滑る様に移動した。新たなミッションを選択し、参加をクリックする。その手が、今度は座席の横に据えられた『W.A.R.』専用のコントローラーに運ばれる。ローディング画面になった黒いディスプレイを見ながら、俊哉はミッションが始まるのを待った。
あの空へ戻る。すべてが変わり、新たな希望を宿した、仮想現実の空。でもその中にいる人々の想いは、決して仮想ではない、あの空へ。
この空であいつと出会った。あいつとこの自由な空を飛びまわった。
あいつはもういない。それでもあいつの想いは、新たな希望となって生き続ける。疑心や疑念に支配された世界ではなく、遠方にいる見知らぬ誰かのことも、自分のことのように感じられる、想像力に満ちた世界。人と人の間に生まれる世界。その世界が現実のものになっていく希望。
会いにいこう。あいつと、希望に。
ゲームデータのロードが終わった画面が、光を取り戻す。映し出されたのは空と海。鮮烈な青と、青の世界だった。(了)




