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「《X―2》からトシヤが脱出した時、手助けをしたのは、君だったのか?」
『ジョージ・ワシントン』に攻撃を加え、グレイグ・リーの開発したシステムを破壊。第三次大戦の勃発を阻んだトシヤ・ウチカワは、その攻撃直後、意識を失った。パイロットの制御を離れた《X―2》は海面に墜落。そのまま海底へ没した。
しかし、どういうわけか《X―2》の緊急脱出装置が作動し、機体は救命ボートと一緒にパイロットを排出した。その後、海面に浮かんでいるところを『エイブラハム・リンカーン』が収容したのだった。
意識を失ったトシヤがどうやって脱出装置を使ったのか、今も検証が行われている。これまでわかったところでは、着水から数秒だけ、《X―2》にも搭載されていたが、回線を遮断してあったはずの、無人機用『B・M・I』が稼働していた可能性がある、とのことだった。
だがあの時点で、グレイグの『B・M・I』はほぼ機能を停止していたはずだ。『B・M・I』を搭載した《F/A―18》は、トシヤがプラットホームを攻撃した直後、制御を失って次々と墜落した。
「あの状況で何かできるとしたら、君だけだと思うんだ。君が彼を救ってくれたのか?」
グレイグは何も答えなかった。風のそよぐ音と遠く波の音だけが聞こえていた。
「……あるいは、奇跡、か」
そんな言葉が音になって漏れた。もしグレイグでなかったとしたら。ロバートはそのことを考えていた。彼でなかったとしたら、誰がトシヤを救えたか。
「〝ライオンハート〟だ」
その声は風のそよぐ音に乗ってロバートの耳に届いた。波の音を邪魔せず、それでもはっきりと、ロバートの耳に届いた。
「奇跡などではない。偶然でもない。あれは、私の制御を離れ、再起動した〝ライオンハート〟が機能を停止する直前、自らの意思でやったことだ」
「グレイグ!」
身体は動かなかった。顔はこちらを見ようとはしなかった。だが彼は応えてくれた。それが嬉しかった。ロバートは思わず椅子を蹴って立ち上がった。
「ロバート。貴様の言う通り、人はどこからでも、どんな状態からでも間に合うのだとすれば、あれは……あの少年はきっと、間に合ったのだ」
グレイグは遠くを見ていた。遠く、海の彼方を見ながら、涙を流していた。
それを見て、ロバートは小さく、息を吐いた。そしてゆっくりと椅子を引き寄せ、静かに腰かけた。
大丈夫だ、グレイグ。君も間に合う。今、自分の犯した罪に気づき、その重さに押し潰されそうでも、どんなところからでも人はやり直せる。必ず、間に合うんだ。
君の償いの傍に、ぼくもいよう。共に罪の重さと向き合い、共に罰を受け、共に償おう。もう君から、逃げ出したりはしない。
空を行く一条の雲が長さを伸ばし、病室からも見えるようになっていた。どこまでも伸びていく白い雲が光り輝き、未来へ続く道のようにロバートには見えた。




