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視界が変わる。一瞬で、雲を抜けた。
光の帯はまだ俊哉を導いている。雲を突き抜け、陽光を反射させる海面へ向かう。
六機の〝ライオンハート〟はぴったりと追随してきていた。必中の位置、距離に入られれば、一斉に攻撃されることは間違いない。だが俊哉は進撃することだけに集中した。無論、恐怖はあった。だが今はそれを無視した。
機首をほとんど垂直にして、頭から落下していく《X―2》の速度は、信じられない早さで増加していた。現在の能力で出し切れる限界はとうに超え、コックピットには《X―2》の悲鳴が鳴り響いていたが、俊哉はこれも無視した。
もう少しなんだ。もう少しで、間に合うんだ。今だけでいい。限界なんて越えろ。超えてみせろ。脳にそう刻みつけるが、《X―2》の悲鳴は鳴り止まなかった。
機体限界警報に接近警報が混ざっているのだ、と悟ったのは刹那の後だった。海面が近く、速度が出過ぎているのだ。海面へ突き立つ光の帯を見据え、おれに水中を行けとでもいうのか、と問いかける。
その瞬間だった。きらきらと銀色の輝きを反射させる海面に、光の帯が伸びているのが見えた。反射光に紛れて見えづらくなっていたが、それは海面すれすれを一直線に『ジョージ・ワシントン』へと伸びている。
なるほど、そういうことか。ここまでの判断に一秒はかかっていない。俊哉はすぐさま機首を起こして、海面上を行く光の道に機体を乗せた。
先端から海面に没しようとしていた《X―2》の機首が急速に上向く。平行飛行へ移行した機体が、残された垂直降下の力に押され、尻を下げたのも一瞬だった。海水を水柱に変えて高々と打ち上げ、超低空飛行を維持した《X―2》は、『ジョージ・ワシントン』に向けて飛ぶ。性能的に追いつけなかった二機の〝ライオンハート〟が、そのまま海中へと没する音を俊哉は聞いた。
すでに『ジョージ・ワシントン』の巨体は目の前に迫っていた。ものの数秒で縮まる距離に巨体を横たえた原子力空母からは、対空火器の細い火線が上がり始めていた。
その光景を見た時、俊哉はどこか奇妙な感じがした。どこかで見たことがある様な気がする。この光景、どこかで。
だが考えている時間はなかった。光の帯が導く先に見えた巨艦との距離は、すでにこちらの有効射程に入っている。
火器管制装置(FCS)が起動し、画面に展開する。俊哉の意思を読み取った、『B・M・I』の仕事だ。手を動かすまでもなく、さらに俊哉の意思を読み取ったシステムは、二発だけ搭載された空対艦ミサイルを発射待機状態にしたことを告げた。
コクピット画面正面に照準レティクルが現れ、対象をロックしようと動き始める。だが相手はほとんど動きのない空母だ。レーダーロックはすぐに行われ、レティクルが赤く染まる。
発射準備、完了。




