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行かなければ。自分たちの想いを背負ってくれた若者のために今、我々大人が行動を起こさなければ。戦争を起こしてしまう罪。それを止められなかった罪。それ以上に、自分たちは後悔する。彼の今の瞳は、まるで鏡に映した自分の瞳のようだ、とロバートは思った。
ネルソンのその言葉が始まりだった。感情の堰を切った声が次々と上がり、CDCを埋めていく。行こう、行きましょう、行かせてください。誰もが自分たちの置かれた状況を正確に理解した上で、それでもトシヤを守りたい、救いたい、と叫んでいた。
変えられたのは、自分だけではなかったのだ。疑いようもなく、ロバートはそう感じた。
「大戦が起きる、起きない、止める、止めない、と我々は、我々大人の都合だけで争ってきました。どんな理由があるにせよ、我々はそれを彼のような子供に背負わせてしまった。そんな我々が、まだ間に合うかもしれないのに助けにいかないなどと言うことが、あっていいはずありません」
ネルソン中佐は直立のまま、真っ直ぐにロバートとヘイゼンを見つめている。他の士官たちも、同じように動かなかった。
閉鎖的で、排他的。それでも誰もが誰かと繋がりたいと望み、手を伸ばさずにはいられず、その方法や技術を追い求め、力一杯手を伸ばした。無理をし過ぎているとわかりながら止められず、結局その過程で争いが起こり続けてきた世界。そういう世界を作った我々大人が、トシヤたち新しい世代たちへ、それをそのまま継承させていいはずがない。
一人の大人として、取り返せない過ちも、無数の業も背負った一人の大人として、彼らに伝えられるものとは何か。ロバートと同じことを、ネルソンも考えていた。そして彼だけではなく、この場に居合わせたすべての人たち、『エイブラハム・リンカーン』の全クルーたちが、同じ『想い』を抱いて、声を上げていた。
「……『エイブラハム・リンカーン』艦長、ロナルド・ヘイゼンから全クルーへ、達する」
そして、その『想い』が最も強いのはおそらく、彼だ。
「我々はこれより、《X―2》パイロット収容のため、戦闘区域へ進出する。第十五駆逐隊からはハープーン対艦ミサイル、及びこれに類する本艦の大破爆沈を目的とした攻撃が予想される。各員、第一種戦闘配置。対空対潜防御を厳となせ」
一瞬、空母全体が振動したようだった。だがそれも一瞬で、CDCの各オペレーターたちは、すぐさま自らの持ち場につくと、必要な情報整理を始めていた。
ロバートは何と言っていいかわからず、ヘイゼンの顔を正面から見つめた。
「私にも、大人をやらせてはくれないか」
そう言って制帽を外し、蒸れた髪に風を通したヘイゼンの表情は、晴れやかに笑っていた。




