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吹き込んできた風は、どことなく湿っぽく、肌に張りつくような粘り気があった。
だが、それだけだった。何が見えたわけでもない。俊哉の視界いっぱいに広がったのは、墨汁を垂らしたかのように、のっぺりとした闇だった。どこまでも広く続く、闇。
扉の外は、畳一畳分ぐらいのバルコニーになっていた。どこかの建物の、何階かのバルコニー。俊哉は呆然とした思いでそこに足をつけると、目の前の手すりまで歩み寄った。
暗さになれた瞳が、濃淡なく見えた景色を、次第に色分けし始めていた。
中心に一直線の横線が引かれると、それより上に見える世界が心持ち、白んで見えた。同じ種類の漆黒に間違いなかったが、その黒の上に薄いベールのようなものがかかっている。それより下に見える世界では、時折何かが蠢いていた。
さらによく見ようと俊哉は手すりから身を乗り出した。
その時だ。自分がいる建物を支えている土台が目に入ったのは。




