夕陽の招待状
「あれが、空の都アズローレンです」
さらに一週間後、馬車での旅が三週間目に突入した初日。馬車の窓に切り取られた、冬季真っ只中な景色に灰色の壁が見えた時、釣り目の弓使いがそう言った。
その言葉を受け取ったのはリサーナで、彼女は素直に窓から身を乗り出し、感嘆の声を上げながらはしゃぐ。
吐く息は白く、冷気が肌を刺すが、お構いなしな彼女は勿論、その腰の部分を当たり前に掴むゼフと、同じ様に景色に見入るクランクに、これが本当に悪魔一行なのかと一瞬不安を感じた男達であったが、その奥で光る全員の目はしっかりと警戒の色を強めていた。
「王城は都の中心にありますので、後少しのご辛抱を」
「やっとかぁ。二度と馬車で旅したくは無いなー」
アズローレンの規模は、ウェントゥスに比べれば劣るが、ムスイムよりは断然大きい。
馬車に目立つよう施されている王家の紋章により、中を覗かれる事なく首都入りを果たした悪魔。すれ違う民の誰が、恐れる悪魔を招き入れたのが敬う自国の王だと思うだろうか。
流石に、無駄な混乱を避ける為カーテンを閉めて大人しく座ったリサーナだが、耳を打つ活気に心躍らせた。そして、何を思ったか、男達の目の前で一瞬だけ無表情になり全身の力を抜けば、瞳の色が薄まって変化し毛先から茶を帯びていく。
ぎょっと、人間の魔力では出来ない芸当に驚く顔が面白いのか、リサーナは小さく身体を揺らすと、今度は馬の嘶きと共に突然馬車が大きく揺れる。
「うわ、っと」
「リサーナ様!?」
その揺れは、構えた全員の予想以上で馬車が傾く程大きく、細身で軽いリサーナの身体は踏ん張りがきかずに扉がある壁へと叩きつけられた。
けれど、慌てて体勢を整えてやらなければと伸ばした剣士の手が何かを掴むことは無く、まるでそれが当然のように扉が開く。
スローモーションで流れる景色。剣士が、この時ばかりは期待を込めて二人の精霊王を見遣るが、そこにはただの空席だけがあり、さらに慌ててリサーナに視線を戻すと、彼女は爽やかな笑顔を彼に向けていた。
「っ――」
「空の国王には、晩餐までにはちゃんと会いに行くからと伝えておいてね。もし来なかったら、夾を殺すも精石を捨てるも、お好きにどうぞって」
やられた。男二人に浮ぶのは、その言葉以外ない。
誰かが馬車の前に飛び出してきたとでも考えていた彼等だったが、しっかりと考えれば、周囲から悲鳴が零れたのは馬が嘶いて馬車が傾いてからだった。
リサーナは、軽やかに地面へ着地するまでに、隠し持っていたフード付きの外套を着ており、二人に対しヒラヒラと手を振りアズローレンの喧騒の中へあっという間に消えていく。その両隣には、してやったりの顔を浮かべる精霊王が付き従い、これが計画的な行動だと窺わせた。
けれど、まさか精石目前にして、最も簡単にそこまで近付ける手段を自ら手放すとは思いも寄らない。怪しさ満点だったのは確かだが、それでもだ。
落ち着きを取り戻し、道のど真ん中で止まった馬車の中、目標を逃がしてしまった二人は、暫く自身の迂闊さを呪って、なんとか気を取り直す。追ったところで、精霊王が付いている悪魔を探すのは困難が極めるのを身を持って知っており、どのような人物かある程度把握した今、簡単にその他大勢に紛れ込むリサーナが見つけられるとも思えない。
だったらと、彼等に出来るのは、自分に降り掛かる火の粉を如何に最小限に留めるかだった。
「とにかく、ここまで来たのなら、陛下にご報告するしかないだろう」
「……あー、また殺されかけそうだ」
今までの様子から一転、国王の側近として顔を青くさせる御者に冷たく指示し、招くはずだった客を失った二人は馬車を城内に入れる。
彼等にとって、自分が生き残る道を常に進んでいく生き方が何より一番重要だった。それだけ、空の国王の側近を勤めるのは困難を極める仕事なのだから。
「ふふ。見た? あの二人の顔。笑いが堪え切れなかったんだけど」
「そりゃあ、やっとご機嫌取りから解放されるってホッとしていただろうからねー」
「良い気味だ。しかし、本当に捨てるかもしれないが、大丈夫なのか?」
適当な場所まで離れてから、リサーナは切れた息を整えつつ楽しそうに言った。
ゼフとクランクも、実体に戻って外套とフードで全身を隠しながら続き、頂点しか見えない城を見やるが、ゼフの懸念にリサーナは首を振る。
「会いたいって言うのなら、それを叶えてくれる唯一をそう簡単に手放すと思う? 脅された側は、脅しを利点に変える努力をしなきゃ」
そして、今までで最高な重さとなっている麻袋を手に、「準備が成功の鍵ってね」と今度は目的を持って歩み出す。
ゼフが、アズローレンに辿り着くまで傍を離れたのは、たったの二日である。それ以上は、相手の警戒を強めてしまうとのリサーナの判断だったのだが、その間に彼が突き止めた空の国王の真意は殺す気は無いということのみ。けれど、リサーナ達悪魔が、最も注目し警戒する真意がそれだ。
とはいっても、ゼフが探ったのは空の国と他国との関連性や城内の警備の具合、空の国王の人物像。最終的に真意を決めたのはルシエであり、彼等はその直感に従い、アズローレンにてしっかりと準備を行う為、密かに精霊化した二人が馬を興奮させて監視の目を逃れる先程の計画を立てたのだった。
「それはそうだが……。だったら、何も真正面から相対する必要は無いだろう?」
「出来ればそうしたいところだけど。他国に、私達を殺す以外の目的で会おうとしていると知られれば、戦争が起こってもおかしくないのにここまでする相手よ。肌身離さず持っているだろうし、逃走を阻む障害が用意されてて当然」
三人の雰囲気は、いつもと変わらずだが、様々な状況を予想してきた頭は経験と共に目まぐるしく働いて、今回の件は慎重に動けと強く訴えてくる。
リサーナの言葉に、二人は反論しなかった。
何故、ただ会おうとするだけで他国の問題にまで発展するのか。殺す気があれば殺したいから会いたいで済むが、そうでない場合、その理由に出てくるのがどういったものかを考えてみて欲しい。
悪魔のような存在に求めるとすれば、人柄や地位は当てはまらないだろう。そう、その能力以外に何を望まれるというのか。特に、ルシエはこの世界の象徴である精霊王と契約している。それは、人間にとって眉唾ものだ。
そうなると、会いたい理由に当てはまるのは捕縛。そして、利用だ。
「私達が今するべきは、逃げることに全力を注げられるよう、最善な策を取っておくことだよ」
ただでさえ、味方の居ない世界で生き抜いてきた悪魔。その予測能力、相手の悪意を読み取る感性は群を抜いていた。それが、会った事が無い相手であってもだ。
けれど、必ずしもそれが正解だとは限らない。だからこそ、リサーナは幾つもの手段が取れるような用意ばかりをする。
一つの建物に足を踏み入れた三人を眺めていたのは、その頭上で揺れていた小さな看板。そこは、古物商が営む店であった。雷の国王の槍や上質な服など、嵩張るものを主に金銭へ換え、リサーナは小さな装飾品等はゼフとクランクに分けて持たせていく。
さっくりと取引を済ませて背中を店主に見送られる中、その作業を行ったリサーナ。彼女の考えは、二人からしてみれば些か構えすぎに思えたりもするが、彼等もまた城の方向から肌を刺されるような感覚を感じていた。
「必要な物というよりかは、もし万が一、それぞれが個々で動かなきゃいけなくなった場合、私以上に二人は人間の常識に疎いだろうからね。しっかり持っていて」
「それって、そうなるような行動をしようとしてるってことだよね」
「……どういうことだ」
けれど、その感覚について考える前に、リサーナの言葉に対するクランクの返しが空気を変えた。
足を止めた二人の鋭い視線に溜め息を吐いたリサーナが、「どこか、人の居ない場所に行ってから、話をしようとしてたのに」と、言葉にせずとも態度で読み取るのが上手くなりすぎている彼等を褒めるが、それに照れてくれることは無かった。
「フィザーレイロには一人で会いに行くべきだと、私は考えているよ」
そして、仕方なく急ぎ足で近くにあった宿の一室を借り、その部屋に腰を落ち着けたリサーナは、すぐさま言及しようとしてきた二人を黙らせる言葉を吐いたのである。
「何かあったらどうするの!?」
「何を馬鹿な事を言っているのだ」
当然、ゼフとクランクは食い下がるが、今までの空気が変わったのは彼等だけでは無く、リサーナすら意外にも真剣であった。
「嫌な予感しかしないのよ。あったらじゃなくて、確実に何かある。下手をすれば、今この瞬間に起こっても可笑しくは無いでしょうね」
太陽は猶予を与えず、その役割に則って段々と沈んでいく。その限られた中で、ゼフとクランク相手に全てを納得させるのは難しいだろう。
今まで散々、危ないと分かる出来事に立ち向かってきているのだ。なのに、今回だけは一人になるべきだと言ったところで、根拠があるわけでも無い。その危険性を一番分かっているのは、弱さを自覚している本人。けれど、それでもそうするべきだと、悪魔全員が思考を共有していた。
「空の国王そのものもそうだけど、あの場所を見るだけで嫌な感じを受けるんだけど、二人は?」
借りた一室は偶然にも、城の方角に窓が備え付けられていて、全員がそちらを見て背中をゾワリと震わせる。思わず眉間に皺を寄せた二人を見たリサーナは、薄暗くなってしまうのも構わずにカーテンを閉め、ベッドの上へ麻袋の中身をぶちまけて、必要最小限の物だけ選別していきながら話を続けた。
「……その感覚だけは、河内紗那の培ってきたものじゃなく、精霊化してるから感じる悪寒なんだと思う」
「私達を脅かす存在など、あるわけが無いだろう?」
壁に凭れかかっているゼフと小さなテーブルの上に座るクランクは、あり得ないと笑ったのだが、「この世界が精霊の為に作られたものだったのなら、そうでしょうね」との言葉にそれは消えていった。
「絶対じゃないなら、可笑しいことじゃないでしょう? 在るものは無くせる。有から無へは、糸も簡単に移ろえるんだから」
「……言いたい事は分かったよ」
行動を制限しない程度、身体の至る所に武器を仕込んだリサーナは、外套を着なおしてベッドに座り、再び二人の厳しい視線と向かい合う。
事実、悪寒を感じるのだから、ゼフとクランクも否定できないし、リサーナの言う事は最もだ。戦力を担う彼等が、万が一にでも動けない状態になってしまえば、悪魔が頼れるのは自身を蝕む力だけになる。
だからといって、危ないと分かっているのに単身で対抗させるなど出来るわけもないのだが、リサーナはそれ以外の簡単な策を何故か提案しなかった。
クランクはそれが不思議でならず、深く考えもせずに口にした。
「だったら、俺達が精霊化して構えていればいいだけじゃない?」
「それができれば良いんだがな」
そうなのだ。二人はルシエの契約精霊なのだから、精霊の領域で待機し、呼びかけに応じて現れるようにすれば良いだけなはず。しかし、それを否定したのはリサーナでは無くゼフだった。
自嘲の笑みを浮かべながら、「これは確かに、今まで通りでは難しいな」とあろう事かリサーナに同意するような発言さえする。
クランクが驚き、どういうつもりだと詰め寄ろうとするが、その前に彼と視線を合わせたゼフが尋ねた。
「精霊の領域に戻り、今の私達が再び姿を現せる保障があるのか?」
「それ……は! だけど」
「それこそ、本末転倒では無いか」
忘れていたと身体を強張らせ尻すぼみするクランクへ、ゼフは冷たく窘める。予想しつつも招いた結果として、彼等は現在、精霊であり精霊王でありながら眷属を従わせられない。精霊の領域に入れば、今度はどういった状態になるか分かったものでは無いのだ。
ただ、ゼフもリサーナに同意するつもりは無かった。ならば、どちらも回避できる策を全員で練ればそれで済むのだから。
しかし、ゼフがそれを伝えるも、リサーナは首を振った。
「手を尽くすのは良いけれど、時間を掛けるのは無理よ。これ以上、人間にもアイツにも、何かを仕出かす暇は与えていられない。解放された精霊王が増えることが、どれだけ私達にとって危険を孕むか分かってるの?」
「だから、それで自身に万が一あれば本末転倒だと!」
「裏切り者が辿るのは、その報いよ。時間は、刻々と迫っている。誰にも止められやしない」
リサーナの視線は、カーテンの隙間を縫って部屋に輝く、色を変えてきた太陽の光を捉えている。けれど、その視線の先にあるのは、恋焦がれる別の何かだ。
これ以上、話をしても無駄だと思ったリサーナの口から出るのは、説得する言葉では無く考えに基く策となっていった。
「そうね、……三日。それで戻って来なければ、二人の判断で動いて良いわ。その代わり、その間は城を見張って、もし私達が別の場所へ無理矢理移動させられたりするなら、助けて頂戴」
「私は同意した訳じゃない」
「それは俺だって同じだよ」
覆らない両者の意向。そうして取ろうとされた行動が、不敵な笑みを生み出した。
「なら、俺達は自由にさせてもらう。――実力行使でいくか?」
立ち上がったサイードの手は剣を握り、直ぐに動ける構えで二人を見ている。リサーナが敏感に感じ取った、ゼフとクランクの力尽くでも彼女を止めるべきかの考えによって、彼が出てきたのだ。
「それで困るのは誰だ」
「俺だ、と言って欲しいのか? 生憎、精霊化を恐れていたら何も出来ない身体だからな。今更、使うのを躊躇したりしないさ」
「で、俺達と戦って動けなくなりたいんだ」
仲間割れというよりかは、自己主張のぶつかり合いでしかない険悪な雰囲気。けれど、それを醸し出すのが精霊王と悪魔なだけで、部屋の至る所からピシリと空気が張り詰める音が響く。
ゼフが凭れる壁から身体を放すのと、クランクがテーブルを降りるのは同時で、それぞれの鋭い視線が、火花を散らさんばかりに混じった。戦いに身を置き続けているせいで、全員が好戦的になっているのだろう。
けれど、結局甘いのは精霊王。ゼフとクランクは、サイードが悪魔の中で最も、周囲と折り合いをつける賢い選択をしないと、嫌という程知っている。だから、その狡さが一番腹立たしかった。
ルシエが出てきたのであれば、気付けば流されていたと諦められるというのに、サイードであれば自らが自覚して譲らないといけないのだ。
二人は、息をぴったりに溜め息を吐いた後、サイードに向けて二本の指を立てていた。
「二日だ」
「二日だけだよ」
声も合わせるのだから、最強と最弱な組み合わせも案外良いものなのかもしれない。
そうして、その要求へぎらつく視線のまま頷いたサイードは、深くフードを被って赤に染まった光の中へと飛び込んで行った。
「何も、窓から出て行かなくても良いのに」
「人間がキーテと言うのも、納得するしかないな」
風に揺れるカーテンを避け、それが作る影を踏みながら二人がその背中を眺めれば、サイードはあっという間に見えなくなってしまう。けれど、二人は彼等が魔力を使える状態にある限り、その気配を感じることが出来る。魔力を使えば、直ぐに呼びかけに応じられた。
万一、命の危機に晒されたとしても、悪魔の全員がそう感じた時点で呼ぶと、その賢さと貪欲さを信頼している。
ただ、それを考えられるのであれば、どちらかで良い。出来ない状態になってしまったらと、考えなければいけなかった。
困ったように見たその背中、ゼフとクランクにとって純粋に大切となった悪魔と再び旅が出来るのは、二日どころか四ヶ月後だったのだから。
しかも、その旅すら直ぐに終わり、あっという間に別れは訪れる――
時を同じくし、丁度リサーナ達が城の方角を睨んでいた頃。
その内部の限られた者しか入れない一室にて、陶器の割れる音が響いていた。
「それで、君達はのこのこと報告しに戻ったわけなんだ。空っぽの馬車と一緒に?」
「申し訳、ございません」
「しかし、夕刻には自ら訪れると……っ!」
転がる人間は二人。素直に謝罪を述べる者と伝えるべき事柄を口にする者、どちらにも再び調度品を投げつけたのは、彼等の帰還を誰よりも待ち望んでいた者だった。
蒼い瞳と同色の、翼をモチーフにしたアクセサリーで白い髪の右側を耳の上から留めている、サイードとはまた違った気品漂う印象の麗人。何を隠そう、空の国王フィザーレイロである。
フィザーレイロは、ルシエに同行を求め、招き入れる寸前で出し抜かれてしまった二人の部下へ、怒りを顕に容赦なく物を投げつけていた。
弓使いは肩を押さえ、剣士は唇を切って血を流すのだが、まるで物に対して物であたるようにその手が緩むことは無い。
「僕が、どれだけこの時を待ち望んでいたか、君達が一番知っているよね? そのはずだよね?」
任を成し遂げられなかった部下に対する叱責が落ち着く頃には、二人とも全身に痣や傷が出来ていて、例え王だとしてもその行為は常軌を逸していたのだが、彼等はそれをあたり前に自身の失態だと受け入れていた。
「けれど、僕は彼女が来ると言ったのなら、その言葉を信じるよ。だから、君は晩餐の用意をしておいて。それも、特別に贅沢な、彼女を喜ばせるものをね」
「畏まりました」
そして、フィザーレイロも、悪魔を彼女と親しみを込めて呼びながら、先程とはうって変わった柔らかな表情を浮かべて弓使いへとそう指示をする。彼は、痛む身体を引き摺りながら、何の不満も抱かずに名すら覚えてもらえない腹心の部下として従う。
残された剣士の方は、その間に立ち上がって自身の血によって汚してしまった絨毯の染みを眺め、ゆっくりと散らばった様々な破片がフィザーレイロを傷つけないよう片付け始める。
他国の王にとっては想像できない空の王の姿であるが、この光景は城内に於いて二人の部下だけでは無く、全ての人々にとって当たり前のものであった。
近くの椅子に座り、腕に頭を預けて足を組み、剣士の様子を黙って眺めていたフィザーレイロ。けれど、彼の表情はふと思い出した、と瞬きをして唇が動く。
「そういえば、この前の報告で負傷したとあったけど。君を殴れる者が居たのかい?」
剣士は、この空の国で最も腕のある者として名の通った存在。そして、その裏で天空の巫女と契約しているからこそフィザーレイロの目に止まり、暗殺者として傍に仕えていられる側近だった。
一枚の皿だった破片。それも、それだけで家が一件建てれる程高価だったものの残骸を手に取ろうとしていた指が跳ね、剣士が弾かれたように顔を上げた。
「……悪魔。そうです、あの時悪魔は私に触れていた!」
思いもよらない形で遂行できていた、剣士にのみ与えられた任務。
この国で最も強大な力を持ち最も美しい美貌の男は、誰をも魅了する笑みを映し、剣士に手招きして囁いた。
「鳥籠の用意は、万全だろうね」
特別な晩餐会は、もう直ぐ始まる。