トレフォイルの花束を
島の端でひっそりと、それは地に殆どを埋める形で彼等を覗き見ていた。砕ける物の無くなった平野には、荒々しくも戸惑い、控えめに近寄ってくるアウラネルク達の歌が波の音となって響く。
群青色の、たおやかなラピスラズリ。大人の女性の親指の爪程の大きさのそれは、一度ルシエに視線を浴びせられながらも静観していた。
「別に、もう終わったから、そう叫ばなくても止めるよ」
「違う、そうじゃない。この先、ずっとだよ」
はらはらと、クランクの眦から溢れる涙。彼は、ルシエを無知にさせた陽の精霊王を恨んだ。
しかし、ルシエはきょとんと首を傾げている。どうして、と問う前に、クランクはルシエに走り寄って全身を確認し始めた。
「身体に異常は? ていうか、まず炎を仕舞って。ああ、もう! 服が邪魔だし、ルシエに赤は似合わない」
ルシエはべたべたと身体を触られながら、大人しく従って炎の手を消した。そうすることで変化した色は戻り、肩下まで伸びた髪も縮む。
「気持ち悪くは無い? どこか、痛かったりとか」
「クランク、別に戦闘したわけじゃないんだから」
ルシエの言葉に、クランクの手が止まる。
彼の口からは、小さな謝罪が零れ落ちた。――ごめん、と。
「どうしたの? 謝る前に、説明して欲しいな」
自然な上目遣いによる質問に、クランクの目が泳ぐ。責めない微笑が、叱責以上に心を貫いた。
「陽との契約……」
「うん、君とは全然違うよね」
何から言えばいいのか、それが分からないクランクは、一言零すのが精一杯であった。
しかし、対してルシエはすんなりと返す。
驚きに目を最大限開くクランクにとって、ルシエの瞳は鮮やかな月に染まったダイヤモンド。硬度が高いその鉱石だが、その実割れや欠けにはさほど強くないというのに、彼は強固な壁を感じてしまった。ああ、君は誰も受け入れないんだねと。
しかし、それは違うだろう。何も、他人との壁を作るのは相手だけでは無い。
勿論、本人が歩み寄らなければ他人との距離が最短になることはないし、そのくせ理解してもらおうなど叫ぶものなら、ただの甘えた我侭だ。
だが、少なくとも自分が誰かを分かりたいと思うのであれば、生い立ちや思考の仕方、そんなものは二の次だ。今の気持ちを知ろうとしなければ、相手は誰も望んでいないのだとクランクの様に決め付けてしまう。そして、自らで限界を勘違いする。
理解しようなど、到底思うな。その時点で、相手の気持ちに立って考えるという道徳的な思考は、お飾りでしかなくなる。
何故、受け入れる必要がある。納得したがる。君達は個人なのだ。だったら、優しく問いかけて聞き出そうとする輩より、反発して喧嘩して、そして吐き出し合う方が何倍も美しく真っ直ぐではないか。
クランクもゼフも、差し出した手を取らなかったのはルシエだと嘆くだろう。
しかし、ルシエはそれに対し、君達の作った自分に興味は無いと返すはずだ。
「知って、たの?」
それなら君は愚かすぎる。そう絶望するクランクに、ルシエは言った。
右手に持つサイードの愛剣の刃を指でなぞり、静かにそれを指輪に戻しながら、ルシエは笑い続けた。
「いや? 陽の精霊王は、全ての精霊王と契約しなきゃいけないって言っただけだったかな。デルからまったくそういった説明受けてなかったからさ、驚いたら彼女が怒り出して大変だったよ」
くすくすと、その時の事を思い出しながら説明するルシエの言葉のほとんどが、クランクの頭に入ってこなかった。
それを遮って真実を告げようとしても、楽しそうに語るルシエはとまらない。いや、だからね、聞いて。と、翻弄されるクランク。
そんな彼に、純真無垢な輝きは、その名の由来を携えて突き刺さった。
「君の様子から、やっぱり良いものじゃないみたいだね。……まぁ、前から違和感はあったし、君達と契約した後は特に違うと感じたよ。そもそも、魔法の発動方法が違うし」
ダイヤモンド。その名は、ギリシャ語の征服されざるものから来ているそうだ。クランクがそれを知っているわけでは無いが、ルシエは確かにその言葉通りだった。
2人の様子をずっと苦々しく見つめていたゼフは、さらに眉間の皺を深くしてルシエを見る。
そしてクランクは、止まらない涙を拭って、キツイ表情で目の前のルシエと相対した。
「ふふ、君はきっと、誰よりも人に愛される精霊王になれるだろうね」
しかし、ルシエは静かにそう言ってクランクの美しい髪を指に絡め口付けを落とす。
その姿の、なんと麗容なことか。残念ながら、クランクは皮肉と受け取ったが、ルシエは心から優しい人なのだと思った。
思いやりがあり、相手の痛みを知ろうと出来る者。空回りや勘違いは多いだろうが、それでも、隔てなく想おうともがける人なのだ。
優しさというものを、ちゃんと分かっているんだね。デルが言ったその言葉、それはクランクにこそ当てはまるのではないか。
「でもね、それは生きる者に向けるべきだ」
陽の精霊王との契約と、クランク達との契約の違い。それは、力そのものか、力の行使権を得るかの差だ。前者の方が、響きは甘美であろう。自身の限界関係無く、強大なものを得られるのだから。
しかし、どちらにせよ代償は高く付く。そして、どちらが大きいかと考えれば、よりメリットのある方が高い。
それは、魂がリンクするというだけでは生温い支配だった。
精霊王。その存在が、どれだけ世界にとって必要不可欠かは最早語らない。しかし、その力の貸与についてはまた別だ。
クランクは、無駄だと分かりつつも訴えずにはいられなかった。
「君は、君を失いたいの!?」
彼等の影で、ラピスラズリが囀っていた。――僕等の中で同意できるのは、僕だけだろうに。水も馬鹿だね。
力の貸与と、行使の許可。それは、魂の支配と魂のコーティングという、命にもなり人格の要ともなる不可思議な塊の扱い方に違いがあった。
力とは、強大になれば成る程、得るにも使うにもリスクが伴ってくる。
どちらも、魂に干渉する点で差異は無い。しかし、使用と使役が違うように、契約者に与える影響は雲泥の差である。
クランクの力を使う際、ルシエの魔力は彼の力の増幅器として機能し、詠唱というルシエの命令に従ってクランクの意思により発動する。
しかし、陽の精霊王の力は違う。その力は、ルシエの魂に巣食う異物。貸与されたそれは、本来の持ち主が存在する限り永遠にそこに居座り、宿主の自由に使う事が出来る。
そうして喰らうのだ。不治の病の如く、癒着した病巣の如く。その魂を喰らって別のものへと染め上げる。
「力を使えば使うほど、君の魂は陽の精霊王の力に侵食される。精霊化すれば、元には戻れないんだよ!?」
クランク達のような契約での代償は、その時にだけ払えばそれで済む。血液であったり、未来の時間だったり。しかし、陽の精霊王とのものでは、使う度に払い続けなければならないのだ。
だからこそ、ゼフを解放した時にオーバーヒートにも勝らない力を出せ、大地の国でも大掛かりな魔法を使うことができた。本来であれば、それ等はルシエの魔力では不可能なものだった。
「精霊になるのは、正直嫌だなぁ」
「そんな生易しいものじゃないよ!」
リスクの大きさを必死に伝えたクランクを待っていたのは、ルシエの暢気な感想だった。
精霊化。それは、言葉は精霊になると思わせるものだが、実際には精霊の奴属に下るということだ。
1人の人間が複数の精霊と契約することは不可能だと、以前語ったことがあるだろう。その理由もこれに繋がる。
「魂が消えるんだ、自分が消えるってことだよ? 人格も、思い出も、何もかもが無に帰って、後悔も寂しささえも感じずに、死すら精霊の掌の上に……」
「成る程ね。だから、オリジナルのあの子は、こんなにすんなりと消えたのか」
じゃあ、もうこの身体は人間とはいえないってことだね。ルシエはそう言って、レイスに嘘をついちゃったなとずれたことを考えた。
ルシエは本当に分かっているのだろうか。その真実の重要性と重大さを。
そして、その言葉で、今まで陽の力を使う度に払っていた代償が、河内紗那であったことが分かった。
サイード然り、ルシエ然り。彼等が、彼女に対し第三者の目で評価していたのは、それがあってのことだったのだろう。
「でも、一気にじゃないなら構わないよ。陽の精霊王だって、全部を解放するまでは殺そうとはしないだろうし」
「君は駒として死ぬつもりなの!?」
驚愕に思考能力が低下するクランク。ルシエの肩を掴んで訴えかける彼が口にしたものにより、暢気なルシエの表情が一変した。
音も無く表情が消えうせ、指に絡ませていた空が遠慮無しに鷲掴みにされる。
「ほんと、分かってないよね。巻き込んだ側が、巻き込まれた側以下の覚悟しか持って無いなんて、どいつもこいつも甘ったればっかりだ」
痛みに顔を顰めるクランクに、ルシエの声が恐怖を孕ませた。
細い身体の内に秘められた本心は、もしかしたら精霊王でさえ消化できないものなのかもしれない。
「生きたければ、初めからこんな選択はしない。それに、ゼフ!」
「……私まで巻き込むな」
クランクの髪から手を放し、ルシエは突然傍観していたゼフに声を掛けた。
ゆっくりと2人に近付くゼフの拳は、ひっそりと震えている。彼は、新たな恐怖を知ってしまっていた。
気付いていることを態度で示されることもまた、悲しいことなのだ。言葉にさえしてもらえないことも、あるのだ。
ルシエ達にとって、自身は道具だった。そして、精霊王もまた、道具でしか無い。
「君達は勘違いしている様だけど。サイードはね、この中で一番嘘が下手だ。特に、感情が昂ったら、それに忠実になってしまう。ねぇ、ゼフ? 心当たりは無いかな」
あるよね、と確信を持って問いかけてくるルシエにゼフは頷き、思い当たる言葉を咥内で転がした。
「修正も上書きもされず零れ落ちて無くなるだけ、なんだな」
「惜しい、その後が大事だ。向こうにとっては君達も、同じように消耗品。どうして君達は、それに納得しているのかな。それが腹立たしいし、思い上がりを助長させる一旦だと思うんだけど」
それが分かっているから、精霊化というリスクがあろうと自分は構わないのだと、ルシエは諦めとは違う何かを抱いていた。
揺らぐことの無い決意、と言って良いのだろうか。それとも、自身を犠牲にしても成し遂げたい捨て身の戦法なのか。
真実を決して口にしないその心には、一体何が残っているのだろう。
河内紗那。君は、何を想ってアピスへと渡ったのか。
ルシエは、彼女が消えたと言った。しかし、彼等が精石を壊し続ける理由は、悪魔で居続けるその理由は、どう頑張っても世界を救いたいからという正義感とは思えない。
ということは、やはり彼等は河内紗那に繋がっているのだろう。
彼女に問えるものなら、是非聞きたい。――君は、今、自分が好きかい?
その答えに、全ての答えがある気がする。
「じゃあ、君は何の為に、使命を遂行しようとしているの!?」
クランクも同じ事を考えたようだ。
彼は、心の中でゼフの弱さを罵倒しながら、釘を刺されたというのに深入りを止めない。
消されても構わない、という覚悟は本物だったのだろう。
そして、その問いは、ルシエにとって何よりも地雷だったようだ。
「引け、水の!」
ルシエは無言だった。しかし、その手には一瞬にして炎の塊が出現し、にこやかな殺気が生まれる。
身を強張らせ、空を曇らせるクランク。考えるよりも先に、2人の間に入って彼の腕を掴み距離を取りつつ盾を展開させるゼフ。
「ルシエ、止めろ!」
ゼフは、精霊のみの空間にクランクを避難させようと、彼を背中に隠しながら叫んだ。
その願いは残念ながら届かず、手から炎は放たれる。凝縮された熱気は、人間であれば恐らく一瞬にして消炭となれるだろう。
消える事が出来ない。ゼフは、盾を展開させたことでルシエの魔力を遮断されてしまい焦った。
そう、先程はルシエの側で契約を語ったが、行使権を与えるということは、精霊も魔法を使う際に許可を求めなければならないのだ。
精霊王故、通常とは異なりある程度の自由は効くが、契約している以上主はルシエだ。
こと傍を離れる事に関しては、彼等は鎖で縛られている。
炎は、盾により防ぐことが出来るだろう。しかし、次に攻撃を受けた際、彼等は無防備だ。
ここが、呪われた島で無ければそうはならない。ルシエが島を本来の姿に戻したお陰で、恐る恐る海の精霊王の機嫌を窺いながらアウラネルクは近寄ってきているが、眷属でない他の精霊はそんな危ない橋を渡らない。彼等の自由に出来る、自然界の魔力は無い。
「ルシエ!!」
炎と盾が衝突した衝撃が彼等を襲う中、ゼフは自分たちの懐に入ろうと足を折ったルシエを見た。
その手には、新たに炎で出来た剣が握られている。そして、その目にはクランクしか映っていない。
「くそっ、貴様が仕出かした事だろう! しっかり相手を見て逃げろ!」
「っ……でも、どこに」
「海に飛び込め。そうすれば、我が眷属が居る」
そうしている間にも、ルシエは2人に接近している。
ゼフの背中では、クランクが走り出す足音が聞こえた。空っぽな物が無くなり、上陸した当初よりその面積が3分の1以下になった島。
それでも、海に辿り着くまでには少なくとも10分は走らなければならないだろう。しかも、海しかないここで、オンディーヌが居るかどうかゼフには分からない。
だから、自身も素早くクランクに続いてシルフに彼の身の確保を命令しなければならなかった。
しかし、果たして今の自分にルシエを制御できるのか。
ルシエは、ゼフの背中の向こうで遠ざかっていく空色を一瞥してゼフの前で止まった。
「邪魔しないでくれるかな」
心臓を突き刺される感覚に陥るほど、ひんやりとして抑揚の無い声。無表情なのが、何よりも恐ろしかった。
それでも、ゼフは引けない。例え、クランクに良い感情を抱いていないとしても、彼はまがりなりにも精霊王だ。人間のように、消えても世界に影響が無い存在では無い。
「落ち着け」
「今までにないほど落ち着いているよ?」
クスクスと、据わった瞳のままで唇だけが歪んだ。
中身のない笑い声が、ゼフの頭に響いた。クスクス、クスクス――消耗品の癖に。
「笑うな!」
ゼフの腹で渦巻く感情は絶望だろうか。いや、失望だった。
サイードと衝突した際、彼が珍しく感情を顕にしたのは、言われた通り図星だったから。仲間だと、言葉には決してしなかっただろうが思っていたのだ。
揺れる、揺れる、翡翠が揺れる。彼等の不運は、選ばれた人間が捻くれ以上の歪んだ人物だったことだろう。
「私達は、駒になどならない!」
心の底から放った言葉に、ルシエの笑い声が止まった。
瞬きを繰り返し、ゼフから唐突に視線が外れる。黙ってそれを見守るしかない彼だが、それでもルシエの雰囲気が徐々に変化するのを感じていた。
そして、空虚な鉱石が閉じられ、色の薄い唇からは1つ、小さな吐息が零れた。
「だったら、まじでルシエを怒らせるなよ……ほんと、お前等最悪だわ」
それは、心の底から安堵した瞬間だった。
炎の剣を持っていたはずの手が、本人の頭に添えられる。言葉は非難であったが、サイードは確実に世界の危機を救ったのだ。
「サイード……」
「取り合えず、足の遅い水の精霊王様を呼び戻せ」
確かめるようにゼフが腕を伸ばすが、それは有無を言わさない威圧感に抑えられる。その威圧感さえ、今のゼフには安心感を与えた。
クランクは、大した距離を逃げられていなかった。足が遅いというよりも、ゼフが心配で仕方が無かったのだろう。
なら、始めからルシエを怒らせるなとサイードは思うのだが、起こったことを嘆いてもどうしようもない。彼が溜め息を吐いて、内側で暴れるルシエを宥めている間に、クランクはゼフによって連れ戻された。
「サイー」
「クランク」
そして、安堵に微笑むクランクを待っていたのは、彼の罪悪感を刺激する声。しかし、彼は今回に関して、ゼフを巻き込んでしまった事は反省しても、ルシエを怒らせたのを謝罪するつもりは毛頭無い。
むしろ、精霊王という立場を利用して、叱責さえしたかった。
「頼むから、あいつだけは突っつくな」
だが、そんな彼に降り注いだのは、予想に反して懇願だった。眉間を揉みながら、サイードは頭を下げるというあり得ない行動に出た。
これには、ゼフもクランクも唖然である。あのサイードが、である。
「俺等は、お前等が思う以上にアンバランスだ。言っただろ? 狂ってるって。特にルシエは……あー、デリケートなんだよ」
サイード本人も、何で俺がこんな事をと思っていた。それでも、彼等にとって使命は絶対だった。
何故かと聞かれれば、それが彼等にとって全てだからだ。生まれた理由も、存在する理由も、全てが使命と河内紗那に繋がる。
しかし、そのオリジナルが居ないのだ。例え、彼等が偽りの人格だとしても何だとしても、其々が葛藤しているのかもしれない。3人というべきか、3種類か。とにかく、動かせる身体は1つしかないのに、其々はまったく毛色の違う行動をするのだから。
サイードは、自分が女だと分かっている上で男として生き、リサーナは女の利点を存分に使い、ルシエは破罪使として人を捨て。オリジナルの覚悟と意志を根に、花を咲かせる操り人形。
「じゃあ、1つだけ教えて。そうしたら、俺はもう余計に掻き回したりしないから」
クランクは、あまりの切実さにそう絞り出すのが精一杯だった。きっと、彼等が分かり合える日は来ないのだろう――頭を下げ続けるサイードの口角は、上がっていたのだから。
「俺等が歩みを止めない理由か?」
「……うん」
サイードは、頭を上げて2人に背を向け、とっくに見つけていた海の精石の方へ歩きながらぽつりと言う。
「約束、だ。全部がそこに繋がっている」
それは、どの意味を持っていたのだろう。決め事を示していたのか、生まれる前から定まっている運命を言っていたのか。
図りかねている精霊王を背中に、精石の前にしゃがみこみながらルシエは種を落とした。
「空っぽだったから、分かることだってあるんだ」
歌が響く。
荒れた波音を伴奏に、込めようの無い気持ちを抱いた歌い手は歌う。
『巡る巡る 欠片を合わせ
内に秘めるは様々な吐息
生を糧に 死を糧に
そこに宿るはただの種
何も持たずに生は紡がれ
作った事で死を孕む
さあ 目覚めよ
純真な凶器を罪無き手に
――いざ参ろう 雄大な無を蒔きに』
ねぇ、紗那。君にとって、その約束は何だったのだろう。
全てだったのかな。それとも、耐えられなかったのかな。
君は只、そこに居たかっただけなのにね。それだけ、だったのにね。
君が罪だと言うのなら、全ての命を罪と呼ぼう。
君は、人に生まれるべきじゃ無かった。そしたらもっと、自由に息が出来ただろうに。
ずっとずっと、抱いていられたはずだ。