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その背に黒の羽根を  作者: 林 りょう
第二章:捻くれX異世界=意外に普通
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利用されて利用する



「精霊よ、契約の下我に従え!」


 それは一瞬の出来事だった。

 サイードを五つの心許ない武器が襲い、それに対抗して行動を起こそうとした間際、急に響いた第三者の声と共に飛んできた火玉に全身が包まれ、ごろつき達は断末魔を上げながら地面へ崩れた。

 それに驚く余裕も無くサイードは、放っておいても直ぐに止まるであろう心臓めがけ、デルに用意させていた小剣を突き刺した。

 殆どは小剣を飛ばして対処したが、直接そうした時にごろつきの身を焼く炎が手を掠め、熱さで痛みを感じる。

 辺りには人の焼ける臭いが立ち込め、その不快な臭いが布を越えて鼻へと届く。徐々に炎を消し燻る塊が作った円の真ん中で、サイードは痛みを感じた手をプラプラと揺らしながら第三者を睨んだ。


「何者だ?」


 余計な世話をしてくれたものだ、と苛立ちながら予期しない他者の介入による動揺を隠す。

 サイードにとってこの事象は、自分の経験値を上げる良い機会だったのだ。それを台無しにした相手へ助けられたとは感じず、横槍を入れられたと思って当然だろう。


「手出しは無用だったみたいだなー?」


 視線の先に居たのは、真っ赤な短い髪をしたサイードと年の近い青年だった。


「あぁ、お陰で手に火傷を負った」


 金の瞳を細めての威圧的な態度に、青年はヘラヘラと笑う。

 サイードは、手の痛みが説明出来るのなら力説したいと思った。言うなればその痛みは、体育館でこけて摩擦熱で傷ついた痛みの様に地味なもの。それでも痛いものは痛い。むしろ、地味だからこその痛みだ。


「それは、あんたがわざわざ火だるまに剣を刺しにいったからだろ?」


「断末魔は嫌いなんでね」


 暗に自分が悪いだろと言う青年へサイードは意味あり気に返し、二人の間では得体の知れない者同士が見極めるために作る沈黙と視線が交わされる。


 スタート早々、思いがけない事態だった。

 赤い髪、そして青年の様に髪と同じ赤い瞳を持つというのは、ムスイムの民の証である。


 陽の赤、水の水色、風の緑、大地の茶色、雷の金、海の青、光の白、闇の濃紺、星の金に、空の白と蒼。その髪と瞳の色を持つ人間は純血種と呼ばれ、より強い魔法が使えるとこの世界では重宝される。雷と星は同一の色を持つが、この二つは肌の違いで見極めることが可能だ。

 ただ、だからといって赤の髪をして水色の瞳をしていれば、その人間は陽の国と水の国の血が通っているとはならず、混血種だと魔法に期待出来ないと蔑まれるわけでもない。

 当然それは地球と同じ様に、その時代時代で差別されてしまうことがあり、人種や国の出身者とその背景で変わってはくる。


 何よりサイードが警戒したのは、先程の攻撃が精霊の力を借りた魔法であるということだ。現時点で青年は、横槍という手助けをした点で敵とはいえないが、無害ともいえない。


「俺はティルダ。あんたは?」


「悪いが、名乗るつもりは無い」


 なので、利用価値を見出せない間は、こちらの素性を明かすわけにもいかない。サイードの返答に、ティルダと名乗った青年は訝しげに眉を顰めた。


「じゃあ、何でこの国に? 見たところあんた、この国のもんじゃないだろ?」


 お互いに情報が足りないのだろう。しかしサイードは、青年の物言いに賭けてみてもいいかもしれないと感じた。少なくとも、ごろつきには見えない。


「精石について調べながら、旅をしている。その為にこの国を訪れた」


 こういったものに関しての駆け引きや判断は、どうしても経験が必要になってくる。仮に賭けに負けたとしても、今度は戦闘に対する経験も積めるので、サイードにとってはどちらに転んだとしてもメリットがあった。

 しかしそれは、負けと判断するタイミングがとても重要であるので、決して簡単なことではない。

 サイードの理由を聞いた途端、ティルダはにやりと笑った。いいものを見つけたと言わんばかりに。


「なぁ、あんた、俺達と手を組まないか?」


「俺達……?」


 目の前には、ティルダ一人しかいないはずだった。他にいたのは、今やこげた肉塊となったごろつき達だけだ。

 しかし、言葉の直後、周囲にあった建物の上や細い路地の隙間から何人もの人間が現れサイードを包囲する。手には剣や弓を持っていた。

 これでは、逃げるのに相当苦労するだろう。しかし、サイードは表面上でも内面上でも焦らなかった。


 自分の命がただ危ないかもしれないというだけでは、これといって心が揺れないのだ。周囲の人間に、今のところ強い敵意が無いのも関係しているのかもしれないが、根っこの部分で、世界平和の為、絶対に精石の破壊を完遂させてやるという使命感が無いのが一因だろう。

 命あるモノ、死ぬ時は死んでしまう。当然なことだけれど、悟りともいえる命に縋らない考え方、責任感の薄さもそうだ。


「俺達は反乱軍でね。戦力はあればあるほど良い。勿論、あんたにメリットもある。詳しい話はアジトでリーダーとしてもらうから、着いて来てくれない?」


 サイードは思った、賭けには勝てそうだと。

 そして、マントの下で構えていた小剣から手を離す。ちなみにだが、投擲技術の高さはデルに備えさせたもの。サイードの眼は、以前に比べかなり視力が高くなり、しなやかな腕には一切のブレも生じない。

 こういった技術の向上は、ひとえにデルのおかげである。だから、これから先重要になり必要なのは、サイードが再三求めている経験なのだ。流石に感覚というものは本人が感じて考えていかなければ意味がない為、他にも備えさせたものはいくらかあるのだが、現時点では宝の持ち腐れに近い状態だった。


「……サイードだ」


 怪しさ満点の反乱軍に名乗ることで、申し出に了承した。この国に反乱軍がいるというのは知っている。それが目の前の連中だという確かなものは無いが、もし本当であればこれに乗らない理由はない。たとえ、利用されるだろうと感じても、それは仕方無いと割り切り利用するのだ。


 どうやら運に恵まれた、とサイードは密かに笑った。






 通常、ゲームで例を挙げれば、キャラクターのレベルが上がるにつれて攻略しなければならないものの難易度も高くなっていく。

 それは物語にもいえることで、クライマックスに近付くにつれて、やることもでかくなってくる。

 しかし、そういったものは、主人公が認められていく過程で可能になることで、現実はどうかというとそうではない。身構えていなくとも、いつだって理不尽な状況や諦めるしかない定めと遭遇することが多々あるのだ。


 かといって、自分からそういったものを作り上げるとなればまた話は別だ。なのにルシエは、考えた上で敢えて難易度が高いものから始めようとしていた。

 結果的に若干のトラブルがあり、例えるならラスボス一歩手前といえる微妙なスタートにはなってしまったが、何故そうしようと思ったのか。

 それは、難易度が高いと判断された理由が関係していた。デルが最もそうだと判断したのは風の国である。それ自体は、ルシエも同様に考えた。

 風の国は、アピスで最大の規模を誇る国であり、尚且つ最強の戦力を所持しているのだ。

 しかし、ルシエが相手取るのは、ゲームのようにレベルが決められていたり、アイテムを手に入れなければ先へ進めないわけではない。

 弱いから適わない、というのは当然あるが、だからといって弱いから出来ないには繋がらないということだ。感情や思考のある人間、しかも集団と戦うのであれば、弱いなりに考えて策略を練り、そうして行動していくことができる。


 さらにこれから先、壊した精石の数が増えれば増える程、存在の認知度は上がり警戒も大きくなる。だからこそルシエは、最も難易度の高いところを真っ先に攻めて隙を突きたかった。

 経験も何も無い今の状態で壊せるのであれば、警戒がいくら強くなろうとも力が付いてからでも出来るのではないか。素人考えなのかもしれないが、否定もできない。


 とはいっても、予定が狂ってしまった今、その考えをいくらか組み変えていかなければならないのだが、最初に抱いた最悪な気持ちはこれはこれでよかったのかもしれないと変化していた。


 ティルダに案内された先で思わぬ隠れ蓑を手に入れたサイードは、そこからの展開の速さで若干幸先が不安になりながらも、賭けはこれからの自分の行動が勝敗を左右するだろうと確信した。

 いくつもの路地を曲がり、一見普通の家の地下にあった反乱軍のアジトで全てのメンバーから信用してないという視線をもらいながらも、指示された椅子に座ってほくそえむ。


「サイード、会う準備が出来たって! リーダーのところへ案内するよ」


 今回の話をふっかけてきた張本人は、纏わりついてくる点や言動が微妙にデル属性で苛立ちはするが、感情を表に出す分下手な相手よりもやり易い。


「おーい、サイード?」


 目の前で手をひらひらと振って意識を自分に向けようとするティルダに気付きながらも、サイードはわざと反応を示さなかった。

 ちなみに今更だが、サイードが人を初めて殺したというのに何故平然としているのか、と疑問は持たないで欲しい。

 ルシエはまともな神経と性格をしていない。故に、ルシエが作り出したサイードもその部分は同様であり、だからこそデルに選ばれているのだ。


「今なら顔見てもバレないんじゃね?」


「……死ぬか?」


「じ、冗談だって! 本気にするなよ」


 どこまで粘るのか見ていればティルダが余計な事をしようとしたので牽制すると、大きく慌て取り繕う。流石にここで顔は晒せない。

 実際、今の状況は願ってもないものだが、当然これには裏があるだろう。大方、囮や身代わりとかそういうもので、身元不明の人間はそういうのにもってこいだ。


「で、リーダーのところにいくのか?」


「んだよ、聞いてたんじゃん。ほらこっちだ」


 慌てるティルダを無視して立ち上がり促せば、少し不機嫌になりながら地下のさらに奥へと案内された。このアジト、地下のくせして結構な広さがあり色々な部屋がある。

 待機させられていたのは集合部屋であり食堂でもあったらしく、他はメンバーの寝室や武器庫なのだろう。


 周りを観察しながらついていけば、ティルダが内情をいくらか説明してくれた。聴く限り、内容は万が一漏れても支障が少ないレベルではある。

 それでもこの状態でサイードに話すということは、ここに来た時点で逃げるのは無理だということを暗に告げているのだろう。

 しかし、だ。驚いた事に、目の前を歩くティルダは反乱軍の副リーダーだという。


 サイードはそれを聞きあることに気付いた。途端ティルダが愉快に見え、バレない様にクツクツと笑う。

 その間にアジトの最奥に来ていたらしく、見張りを置いて厳重に警戒された扉があった。明らかに重要な人物がいると分かる感じで、見張りの男がサイードへ威圧的な視線を送る。

 扉からも、中に居る人物の腕が本物だという張り詰めた空気が漂っていた。


「悪いけど、武器を全部預けてくれないか?」


「断る」


 ティルダにしてみれば当然の指示だ。しかし、サイードはきっぱりと拒絶し、警戒を強めた見張りとティルダを睨む。


「断るってお前! こっちは、いつでもお前を()れるんだぞ?」


「なら殺ればいい」


 駆け引きはもう始まっている。サイードのこの行動は、ティルダは勿論、扉の中に向けての牽制だ。本当にそうなのであればそうすればいい、と――

 高圧的な態度と共に投げつけた言葉で、ティルダは少しばかりサイードを選んだことを後悔し、驚きで動きを止めた。


「……はぁ。ほら、縛れ。それでいいだろ」


 相手にそんな提案をされるなど、本来副リーダーとしての力量を疑うものだ。自身でも反省しなくてはいけないはず。しかしティルダは、サイードがマントの上から背中で腕を組み差し出せば、戸惑いながらも素直に従ってしまった。


「なぁ、何でお前は俺に手を組もうと言ったんだ?」


「リーダーの命令。腕っ節のある旅人がいたら、連れて来いって」


 成る程、何故こんな未熟な者が副リーダーと名乗っていたのか。ティルダは、都合の良い駒なのだ。先ほどサイードが気付いたのがそれだ。大方、彼が契約している精霊の力が強いからだろう。


「ティルダは従順なんだな」


「あぁ、リーダーを尊敬しているからな!」


 可哀想なティルダは馬鹿にされているのにも気付かない。傍でそのやり取りを見ている見張りのほうが何倍も察しが良く、渋い顔をしていた。それをサイードは一瞥し、マスクの下で口角を上げる。


「少し痛いかもしれないが、我慢してくれ。あと、必要以上に動くなよ?」


 縛り終えたティルダは、軽い忠告をして見張りに縄の具合を確かめるよう指示していた。サイードは頷き従いながらも考え事をする。


 平和な世界に生きていたはずの自分の方が幼い頃から人を殺めているかもしれない奴より歪んでいるのも不思議だが、そういうものも結局、本人次第なのかもしれないな、と。

 実際、簡単にとは言わないが、縛られたぐらいでは完全に動きを封じられたわけではない。サイードが出した譲歩案は確かにマントの下に隠している小剣を取り出せなくはしたが、足は縛っていないから蹴り倒すことも可能ではあるのだ。よって、ティルダの考えは緩すぎる。勿論、見張りの人間もだ。

 そうして、引っ張られるように開かれた扉をくぐり部屋へと連れられた。

 サイードは頭を切り替え、どうやって利用しているのを悟られずに流れを自分に持っていくかに思考を絞る。


「お前がティルダの連れて来た旅人か」


 女を一人含んだ四人、サイードとティルダを含めれば六人となった部屋はそこまで広くはなく、真ん中にテーブルを置いてそれ以外は書類が散らばり、壁には武器があるだけで閑散としていた。

 テーブルの上にどっしり構えた男は、サイードを見て言う。

 褐色の肌に赤い髪、橙色の瞳をし、筋肉隆々でたくさんの傷跡を恥ずかしげも無くさらした上半身裸の三十代の男。腕と覚悟は本物だと見て取れ、彼がリーダーのようだ。

 他の三人は恐らく、本当の副リーダーと幹部にあたる者だろう。サイードは彼等を見た瞬間、嫌悪感を抱いき顔を顰めていた。


「怪しい臭いが、プンプンするわね」


 リーダーの横に張り付き、いつでも迎撃できる状態でサイードを観察している中、女が(おもむろ)に近付いてサイードの顔へと手を伸ばす。

 いくらか荒れてはいるがすらりと伸びる指に視線を向ければ、美人に分類されるんだろう顔が妖艶に笑う。近付いてきたせいでこみ上げたのは我慢ならない吐き気と、こちらでは隠す必要の無い殺意だった。


「……触るな」


 低く、淡々と。凡そ素人とは思えない声がサイードの口から自然に零れた。彼にとって、これほど初見で嫌悪する人間に出会ったのは初めてのことである。

 布に掛かる一歩手前で女の手が止まった。見たくもないくすんだ瞳が、驚きに揺れている。


「これまた、大物を釣ってきたみたいだな。ティルダ、てめぇは出とけ」


 黙って様子を眺めていたリーダーは、何故か嬉しそうに笑って邪魔者を除け者にした。

 可哀想なティルダは、馬鹿みたいに素直に頷いて部屋を出て行く。


「リル、下がれ。射殺されるぞ?」


 クツクツと笑う姿はサイードの抱く嫌悪を助長させ、部屋は剣呑とした雰囲気に支配された。


「サイードとか言ったか? 精石を調べながら旅をしているらしいな」


 名乗らないのは自らを上と宣言しているようなものだ。実際、態度も言葉も偉そうに見える。しかし、それは仕方の無い事だとサイードは我慢して、リーダーの意味の無い言葉の数々を流していった。


 やれ精石の情報をやるだとか、報酬はたんまり出すとか。上目線は我慢できるが、舐められるのはそうはいかない。

 どうしてくれようと思い始めた時、サイードの態度に痺れを切らしたのか、リーダーの横に立つ男の一人が口を挟んだ。


「聞いているのか?」


「悪い。あまりにくだらなくて、危うく寝そうになっていた」


 明らかな挑発。ここは流石というべきかそれに乗ってくる者はいなかったが、全員がサイードの物言いで拒絶を示した。


「俺は、見下されたり利用されたり、ましてや騙されるなんて我慢ならない性質でね。いつになったら、この無意味な時間は終わるんだ?」


 腕を縛られ、敵と見做されれば逃げるのも難しい状況だというのに、リーダーに引けを取らない上目線。口元を隠していても、小馬鹿に笑っているのが雰囲気で分かるだろう。さすがに本人も無意味な時間とは言い過ぎたと思っているようだが、それでも怯えは一切無く、ただの旅人であれば聊か不自然な態度だ。何かしら、情報や自信が無いとそんなこと出来やしない。


 反乱軍は直ぐにはサイードを殺さない。いや、殺せない。何故なら、アジト内部を少しではあるが観察しメンバーの動きを見る限り、彼等は近々大きな何かをしでかそうとしていると感じたのだ。

 さらに、切迫している気がするからそれは先延ばしには出来ないのだろう。そんな状態、タイミングで外部からの駒を必要としていて、尚且つサイードが選ばれたということは、他に誰も捕まらなかったことを意味するのではないか。

 そして、そうまでして求めるということは、計画の重要な部分を担っているはず。

 サイードは、その重要な部分にも大体の見当をつけていた。


「くっ、くはははは! ……何が言いたい?」


 本性を晒したらしいリーダーは、テーブルから立ち上がって鍛え抜かれた体を近付ける。至近距離で見た瞳がサイードには腐ってるとしか思えなかった。


「失敗した時の保険にしたいのなら、すればいい。但し、逃げないのを約束するかわりに、俺も好きなようにさせてもらう。此方は命が掛かっているんだ。こんな妥協案ぐらい呑めるだろ?」


 利用させてやるかわりに利用させろ。暗に、それとも自信が無いのかという挑発を潜ませながらの驚く程に直球な交渉だった。

 自分でも自覚しているのか、感情的になるのをどうにかしなければならないなと、それがいつか命取りになってしまうだろうと危惧した様だ。


「信用がならないな」


 サイードの要望を聞いた反乱軍側は、挑発に対してではなく本人に自分達が考えていた用途を悟られたことで、今までで一番警戒を強め臨戦態勢に入った。それが肯定を意味すると気付かぬまま。

 しかし、リーダーだけが面白そうに薄ら笑いを浮かべるだけで動かない。サイードも動けなかった。今指一本でも動かせば、すぐさまその首は飛ぶだろう。


「信用する必要は無いだろ。お互いの目的が明確な分、単純に考えれば良い。お前等は万が一の際に俺の命を使い、俺はお前等が城を落とそうとする際の混乱に乗じて精石を調べる。後はそうだな、力が物を言うだけだ」


 相手の表情や動きで自分の予想が当たっていると確信したサイードは、自信ありげに自らの考えを述べた。

 この国はどう頑張っても限界だった。そんな国に潜む反乱軍という存在。その目的が王の首と国の再建以外にあるだろうか。

 そして、実際に見て感じ、考えた結果、サイードは反乱軍がいよいよ王を討とうとしていると判断した。その影で保険を欲している。万が一それが失敗したとしても、保険(サイード)をリーダーの代わりに差し出すことで、再び戦えるようにする為に。身元不明の旅人であればいくらでも素性を偽装できるはずだ。


 けれどそれは、正義を掲げつつもその王と何ら変わりがない。そういった矛盾が積み重なり、サイードは今ここにいる。


「成る程な。まぁ良い、その話に乗った」


「リーダー!」


 誤魔化しが効かないと判断したリーダーは、先ほどとは打って変わって不機嫌になりながらも了承し仲間に抗議されている。

 それを無視して伸ばした手がサイードの首を掴み、ダンッと大きな音を立てながら壁に叩きつけた。

 その攻撃が見えていた(・・・・・)サイードだが、敢えてそれを受け入れる。衝撃により零れた咳は布に吸収されて気付かれない。

 動じないサイードにリーダーは動揺することなく、傷跡のせいで若干形の崩れた唇を動かした。


「ただし! 全てが終わってどちらも生き残っていた際は、こちらも好きにさせてもらう。こんなに腹の立つ奴は久し振りだ」


 そう言って笑った。ひどく歪んだ瞳で、サイードにとって吐き気がするほどの正義を翳して。そして、サイードが陽の愚王と同列だと吐き捨てる。


「お前の瞳は、死を招く光を持ってるな? 吐き気がするねぇ」


 あまりに自分勝手な感性ではあるが、それを察したのだけは褒められるだろう。たとえ、自分までその光に呑まれているのを気付いていなくとも――


 決行は三日後。最後にそう告げたリーダーは、用はもうないとサイードを部屋から追い出した。






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