into the light 3 脱出
公彦は彩香の両肩を強く握り、覗き込んで言った。
「一倉立て!早く此処から逃げるんだ」
振動はさらに大きくなる。
「いや!もういいから・・私に構わないで!一人になるのはもう嫌なの!」
彩香は公彦の手を振り解こうとしたとき、胸の辺りにジワリと熱さが広がるを感じて手を当てた。
見ると煙のような白いものが胸の辺りから立ち昇ってくる。
―ありがとう
煙の中から小さい声だが、確かにそう聞こえた。
山で逢った女の子の声だ。
煙はゆっくりと上がりながら女の子の容になった。
彩香はそれが以前の、たぶん前世の自分であると考える前に感じ取った。
周りの煙に混ざっておぼろげな容の女の子がドアを擦り抜けて倉賀野のいる部屋に入っていくのを呆然と見上げた。
「ありがとう・・」
その声は胸の辺りをくすぐる様に響いて、思わず顔が緩んだ。
「おれ、レイジに会ったよ」
彩香は驚いて振り返った。
「此処まで導いてくれた、お前を無事、連れ帰るようにって」
そう言って公彦は彩香を見つめながら頷いた。
その時、ドカァンとすぐ近くで爆発音が響き振動が床を伝った。
「お前が行かないなら、おれも行かない。おまえがいない学校には、おれも行く意味がない」
彩香は目を丸くして驚いた。
公彦はニコリとしてその顔を見詰め返す。
「さあ、行こう、こっちだ!」
強引に彩香の手を掴み、強く握り締める。
彩香は頷いて立ち上がった。
「あ、ちょっと待って」
「どうした?」
ドアに向きなおり深呼吸する。
「お父さん!私、行くね。探してくれて、ありがとう!」
周りの雑音に負けないよう大きな声で言った。
ドアからの返事は無かったが、彩香は大粒の涙をこぼしながらも詰まっていたものがすっきりと抜けた爽やかな笑顔になって言った。
聞いていた公彦まで胸が詰まって、繋いだ手に力を入れた。
「行くぞ」
彩香と公彦は力強く手をつないで走り出した。
振動の絶え間が短くなってきている。
壁や天井の部材が剥がれ落ちて煙が立ちこめる中、真っ直ぐには走れないが二人は寄り添って、非常階段へ向かって必死に走り続けた。
「こっちだ!」
公彦は非常階段への重い鉄扉に肩からぶつかるように押し開けた。
パイプ製の手すりの隙間からは、遥か下までの階段が無限に続いているように見える。
ステップに踏み出すと同時に、ドーンと大きな音が階段ホールに響き渡り、続いて建物全体が大きな地震のように揺れた。