表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/40

黒の章 第四話 中年と中学生

11月23日 

 8:02 


「ここで止まって」


助手席の小田桐は相変わらずけだるそうな声で指示を出す。


「ここでいいんですか?」


「あぁ、いいんだよ」


車は泉第二中学の校門手前の交差点で、学校からちょうど死角になる位置に停車した。


歩道には登校中の生徒達が皆一様に校門目指して歩いている。


小田桐は生徒たちの制服の背中を見ながら溜めていた煙を吐き出した。


「一倉彩香ですか?」


言いながら浅野はキョロキョロと辺りを見回す。


「いや、それは園茨君に任せておこう。俺達はその前の件だ」


「それってもう何人もやってんじゃないっすか?」


「いいんだよ何回やったって、何かしてりゃ格好はつくだろ」


「そんな理由かよ」


浅野は聞こえないように吐き捨てた。


朝のさわやかな日差しを受けたセダンの白いルーフがきらりと光るその下で、大の大人が二人窮屈そうに乗っている様子は、さわやかな雰囲気をぶち壊すのには充分だ。


10分も経たないうちに、窓の横を行く生徒達の数が一気に増えた。


煙を吐き出しながらしばらくドアミラーを見ていたが、突然ドアを開けて生徒の中の一団に近づいた。


「あ、ちょっと課長!かちょ」


浅野は突然の事に意味も解らないまま、慌てて追いかけた。


「やあ、おはよう」


まるでナンパの様な声の掛け方だった。


40過ぎのおっさんのくせに、とは口が裂けても言えない。


呼び止められた生徒達は3人組の女子で、真ん中の子は中学生とは思えないほど大人っぽくて綺麗な娘だった。


「はぁ?だれ?」


後ろから見ていた浅野には小田桐の背中しか見えないが、腕の動きで身分証明書を見せたのが判った。


「小笠原エミリちゃん?ちょっと話が聞きたいんだ。車に乗ってくれるかな。すぐ済むから」


小田桐は振り向かなかったが、浅野は慌ててセダンの後ろのドアを開けた。


「遅刻しちゃうんですけど」


エミリは何の遠慮も無く露骨に嫌な顔をした。


「君が良いなら、ここで話すけども?」


「・・・」


エミリは舌打ちして大袈裟に溜め息をつくと、取り巻きの二人に先に行くよう眼で合図した。


「あ、浅野君はそこで待ってて」


車に乗ろうとした浅野を制止し、小田桐は助手席に乗り込んだ。


助手席のドアを開けたまま何やら話を始めたが、捜査の内容を聞かされていない浅野にはよく聞き取れない。


歩道を歩く生徒達が物珍しそうに車を覗き込むが、中に居るのがエミリだと分かるとすぐに顔を背けて早足で通り過ぎた。


あぁ、そういうキャラなのね、この子は。


浅野は一人納得して頷いた。


「はい、ありがとね」


小田桐は肩を半身回してスペースを作り、紳士的な仕草で降りるように促した。


「別に、あいつに助けられた訳じゃねぇんだよ!」


ぶつぶつ言いながら鞄の肩ベルトを掛け直し、明らかに不機嫌なままエミリは学校へ向かっていった。


「行こうか」


「あ、は、はい!」


呆然とエミリを見送っていた浅野は慌てて車に乗り込んだ。


車は道路をUターンして、来た道を戻った。


「何の話だったんですか?」


「一倉彩香のことを聞いてみたかったんだ。どうも仲が悪いと言うより、一倉が一方的に嫌われているようだよ。園茨君の情報も何処から持ってきたのやら」


「それが何か、関連するんですか?」


「ん?うん、多分」


「あぁそんな感じですか、はぁ」


「しかしあれだね、中学生にもなると生意気というか何と言うか」


「ちょうど反抗期ですかね、でも皆そんなモンじゃないですか?僕もそんな感じでしたよ、親とか先生とか大人がウザったくて」


「まあ年頃だしね」


「しかし大人っぽい子でしたね」


「見た目はもう大人と変わらんね、でも中身はまだまだ…」


小田桐は言葉を切ると窓の外をぼんやり見つめたまま黙り込んだ。


たまにこんな風になるが、理由は聞いたことがない。


浅野の知っている小田桐は3年前までだ。


それ以前のことは気にしたこともない。


ただ、奥さんとは別居しているらしい噂を聞いた事があるぐらいだ。


「一応ね、博物館のことを聞いてみたんだよ。少しは冷静になってると思ってね」


「犯人はやはり、侍ですか?」


小田桐はタバコに火をつけながら苦笑いした。


「記憶がないらしい」


「え?!」


「気が付いたら倒れていたんだとさ」


「そんな、じゃ手がかり無しですか?」


「そうだね、ただ、誰かの影を見た気がするって言ってたな。それが倒れる前なのか後なのか」


「人影・・しかし、何であの子達は平気だったんですかね?」


「さぁな、気になるのは博物館の件の報告では見た目の身体異常は無かったようだが、先のスカイガーデン件とまるっきり無関係とは考えずらい」


「自分もそんな気がします」


「じゃあ、この違いはなんだ」


溜息と一緒に、煙を吐き出しながら呟いた小田桐の胸ポケットで携帯電話が鳴った。


「はい小田桐・・はい、・・はい、そうなの、同じかい?え?本当に?そうか、分かった今から向かいます」


小田桐は電話を切るなり声を落としていった。


「先生の病院へ向かってくれ。一昨日の生徒達が全員死亡した」


「全員?」


「…」


「了解しました」


浅野の声は僅かに上ずった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ