第8話 本物だぁ…
(ヤバいヤバい、間に合え……!)
俺は息が裂けるほど全力で町を駆け抜け、王城の前へと飛び込んだ。
巨大な城門。しかし、そこに待ち人の姿はない。
立っているのは、槍を構えた門番の警備兵だけだった。
(……間に……合った……のか?)
急ぎすぎた反動で、俺はその場に膝をつき、激しく咳き込む。
「貴様、王城に何の用だ?」
冷たい声が降ってきた。
「い、いえ……お、王城の前で……待ち合わせを……」
息が切れすぎて、言葉が途切れ途切れになる。
「怪しいな。今すぐ立ち去れ!」
警備兵が一歩踏み出した、その瞬間──
「何を話しているんダネ!」
地鳴りのような声が、背後から響いた。
警備兵の向こうに立っていたのは、身の丈二メートルはあろうかという、筋骨隆々の大男。
黄金の髪が風を受けて揺れ、その存在だけで空気が変わる。
見間違えるはずがなかった。──アールだ。
「HAHAHA! 遅れてしまってすまナイ!少々、仕事が立て込んでいテネ!」
豪快に笑いながら、俺を見る。
「君が、ダレン・デュロ・フォード君ダネ?」
「は、はい!」
(よかった〜間に合って…)
安堵したのも束の間。
“本物”が目の前にいるという現実が、遅れて押し寄せてくる。全身が強張り、血の気が引いていくのがわかった。
アールは、鋭い眼光を警備兵たちに向けた。
「彼は、私の客人なンダ。……無礼はしていないよナ?」
低く、重い声。そこに込められた圧は、言葉以上の威力を持っていた。
「め、滅相もございません!」
警備兵たちは一斉に頭を下げる。
「そウカ!」
満足そうに頷き、アールは俺の方を向く。
「では、ダレン君。城の中に入ろウカ!」
こうして俺は、英雄アールと並んで王城の中へ足を踏み入れることになった。
前を歩く、アールの背中。鍛え上げられた筋肉、黄金に輝く髪。
どこを切り取っても絵になる存在だった。
「ダレン君」
突然、アールが口を開いた。
「は、はい!」
「君をS級冒険者に推薦したのは、僕なんダ!」
「……え?」
頭が、真っ白になった。
「君のユニークスキルは、実に素晴らシイ。ぜひ、私のサポートをしてほしくテネ」
言葉を区切り、はっきり告げる。
「だから君を、S級冒険者に推薦したンダ。S級冒険者とパーティーを組めるのは──S級冒険者だけだかラネ!」
(……アールと、パーティーを……?)
初めて俺は、自身のユニークスキルに感謝した。
「サァ! 一緒に魔物を討伐し、奴らをこの世から絶滅させてやロウ!」
「……はい!」
力強く、そう答えた。




