第7話 やばばばばばばば
S級冒険者──それは、国家直属の冒険者パーティー。この国に存在する、すべての冒険者の頂点。
本来なら、才能と実績を積み上げた者だけが辿り着ける場所だ。
憧れられ、畏怖され、遠くから語られる存在。
そんな場所に、なぜだか俺は、立ってしまったらしい。
マザーが、信じられないものを見るような顔で俺を見つめる。
「S級よ!? ダレン、良かったじゃない!」
そう言うなり、俺の背中を勢いよく叩いてきた。
「痛いって!」
喜びと衝撃が入り混じったその手は、容赦がない。
その時、ふと気づいた。
封筒の中に、まだ何か残っている。
(……もう一通?)
取り出してみると、それは一枚の手紙だった。やけに重みを感じる。
そこには、こう書かれていた。
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[ダレン・デュロ・フォード]君へ
はじめまして。私は[アンディー・A・アール]。
冒険者だ。
この手紙が君の手に届いているということは、君自身が自らの昇格を知った、ということだろう。
S級冒険者への到達、誠におめでとう。
同じ地平に立つ者として、そして先輩S級冒険者として、心から祝福させてもらう。
さて、早速で悪いのだが用件だ。
本日一時、チェッカー城正門前にて待ち合わせとする。理由は会ってから話そう。
くれぐれも遅れるな。S級の名に恥じぬ行動を期待している。
S級冒険者[アンディー・A・アール]
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「…………は?」
声にならなかった。
(アール……?)
一瞬、思考が止まる。
[アンディー・A・アール]。
S級冒険者パーティー最強と謳われる男。この王国で、魔物討伐数第一位の実績を持つ英雄。
圧倒的な力で、魔物が跋扈する危険地帯をたった一人で制圧してきた存在。
その戦いぶりは伝説となり、その名は王国全土に轟いている。民衆は彼を称え、中には狂信的な崇拝者すらいるほどだ。
カリスも。俺も。
冒険者学校に通うやつなら、大体アールのファンだ。
その本人から、手紙?
「えぇ!? アールから手紙!?」
マザーが横から覗き込み、目を見開く。俺は、ただ手紙を見つめていた。
現実味が、まるでない。
本日一時。チェッカー城正門前。
「……ん?」
嫌な予感がして、顔を上げる。
「マザー、今……何時?」
「え? 12時50分だけど」
「……え?」
「……ん?」
一瞬の沈黙。
──待ち合わせまで、あと十分。
(やばばばばばばばば)
頭の中で警鐘が鳴り響く。
俺は弾かれたように走り出し、階段を駆け上がる。適当に服を掴み、着替え、再び玄関へ。
「待って!」
「なに!?」
振り返ると、マザーが何かを差し出していた。
「これ! 忘れ物!」
それは、冒険者カードだった。
「あっ……悪い!」
受け取って、すぐにドアノブに手をかける。
「行ってきます!」
そう言い残し、俺は外へ飛び出した。
目指すは──チェッカー城。
英雄が待つ場所へ。




