第6話 まさかまさかのS級冒険者⁉
「ダレン! 郵便よ!」
その声に、俺は夢の底から引きずり上げられた。重たいまぶたを無理やり開け、ぼんやりした頭のまま二段ベッドから降りる。
部屋には、二段ベッドが2つある。だが、そこに他の誰かの姿はなかった。
欠伸を噛み殺しながらドアを開け、きしむ階段を降りる。リビングに入ると、手紙を一通持ったマザーがいた。
「おはよ。他の皆は?」
「全く……いつまで寝てるのよ。もうとっくに学校へ行ったわ。そんな生活習慣じゃ、ここを出たあとのことが思いやられるわね」
嫌味のある言葉に、俺は苦虫を噛み潰したような顔になる。
ここは、フォード孤児院。
魔物に親を殺された子、事故で家族を失った子。さまざまな事情を抱えた孤児たちが暮らす場所だ。
俺の目の前にいるのは、マーサ・デュロ・フォード。皆からは“マザー”と呼ばれている。
この孤児院の経営者であり、俺にとっては母親代わりの存在だ。
俺は赤ん坊の頃、親に捨てられた。名前すらなく、最初からこの施設で育った。
だから今の名前「デュロ・フォード」は、マザーの姓を借りたものだ。
「で、郵便って?」
「ああ、これよ」
マザーが差し出した封筒を受け取る。
中に何か硬いものが入っている感触があった。
(どこからだ?)
封筒の裏を見ると、そこにはこう書かれていた。
【冒険省】
この国の冒険者を管理する、国の機関だ。
(そういえば……昨日、フィーラー先生が言ってたな。冒険者カードが届くって)
封を切ると、中から一枚のカードが現れた。
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冒険者登録証(ADVENTURER CARD)
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■ 名前
ダレン・デュロ・フォード
■ 年齢
18歳
■ 生年月日
誕☓☓☓☓年 3月4日
■ パーティー
所属なし(ソロ)
■ ユニークスキル
【瞬間移動】
視認・記憶した地点へ即座に転移可能。
[発動条件]
①移動先の強いイメージが必要。
②距離や方向を大まかに把握している必要がある。
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■ 基本ステータス(5段階評価)
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攻撃力 :★☆☆☆☆ 1
俊敏性 :★★☆☆☆ 2
賢 さ :★★☆☆☆ 2
精神力 :★★★☆☆ 3
運 :★★★☆☆ 3
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■ 魔法適性(5段階評価)
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火 :★☆☆☆☆ 1
風 :★★★☆☆ 3
土 :★☆☆☆☆ 1
雷 :★☆☆☆☆ 1
水 :★☆☆☆☆ 1
闇 :★☆☆☆☆ 1
光 :★☆☆☆☆ 1
無 :★★☆☆☆ 2
ありえないほど、低いステータス。
(これで、よく冒険者になれたな……)
我ながら呆れる。
「あら、冒険者カードねぇ。懐かしいわ〜。私も昔は持ってたのよ〜」
ちなみにマザーは元冒険者だ。現役を引退したあと、このフォード孤児院を建てた。
ふと疑問が頭をよぎる。
(……冒険者ランクって、どこに書いてあるんだ?)
フィーラー先生は言っていた。
「レアスキル持ちなら、C級は硬い」と。
本当だろうか。
そう思いながら、カードを裏返す。
そこには
S
ただ一文字、大きく刻まれていた。
「……ん?」
思わずマザーを見る。
「マザー。冒険者ランクって、どこに書いてあるの?」
「え? 裏に文字があるでしょ。GとかFとか、それがランクよ」
もう一度、視線を落とす。
S
「……は?」
マザーが俺の手元を覗き込む。
「……え……」
一瞬、時が止まった。
「──ダレン」
マザーの声が、わずかに震える。
「あなた……S級冒険者よ」
「ええええええええええ!?」
俺の叫び声が、フォード孤児院に大きく響き渡った。




