第4話 当たればいいな良い能力。
冒険者という職業には、明確なランク制度が存在する。GからSまで、八段階。
そのランクによって、所属するパーティーや受けられる仕事、引き抜きの有無まで、すべてが決まる。
最上位─Sランク。
国家直属の冒険者パーティーであり、Sランク冒険者が一人いれば、国一つを滅ぼせるほどの戦力を持つとまで言われている。
対して、Gランク。子どもでもなれる、最下層。
存在意義すら疑われるランクだ。
フィーラー先生に「このまま行けば、お前はG級冒険者だ」と言われた言葉が、胸の奥で重く沈んでいた。
テストが、あまりにもできなかったからだろう。
それはつまり、俺が冒険者学校で学んできたすべてが、無駄だったという宣告と同じだった。
役所の中は、やけに広かった。正面には、天井近くから水が流れ落ちる、巨大な滝のオブジェクト。
その音が、ざわめく空気を飲み込んでいる。
周囲には、冒険者学校の生徒たちの姿もあった。
「よぉ、カリス!」
聞き慣れた軽い声。
振り向くと、金髪で背の高い男が、数人の集団を引き連れて立っていた。冒険者学校でも有名な、いわゆる陽キャグループだ。
「ジム君!」
カリスが手を振る。
「お前も大変だなぁ〜。よく分からんやつとチーム組んで」
ジムの視線が、はっきりと俺に向けられる。
「あはは……」
カリスは、困ったように苦笑いを浮かべた。
「スキルの検査はもう済ませたのか?」
「いや、まだだよ」
「俺なんてさ〜、【段差でつまずく確率が下がる能力】だぜ? ダッセェよなぁ〜」
「まぁ、仕方ないよ。レアスキルなんて何百分の一の確率だし。それに、レアでも使えるとは限らないからさ」
カリスは、いつも通りの優しい口調でそう言った。
「じゃあな〜。レアスキルだといいなぁ〜」
軽い言葉を残し、ジムたちの集団は去っていった。
俺たちは受付を済ませ、順番に鑑定を受けることになる。受付の机の上には、拳ほどの大きさの魔法水晶。
そこに手をかざすことで、ユニークスキルが判明する。
「ノーマルスキルの【人前で声が震えにくくなる能力】ですね!」
「なんだよそれ〜!」
あちこちから、笑い声や落胆の声が聞こえてくる。
テストを終えた生徒たちも帰らず、他人のスキルが気になるのか、皆、聞き耳を立てていた。
「[シャノン・エドワード・カーマイン]さーん」
「はい」
シャノンが水晶に手をかざす。水晶が淡く光り、役員が目を細める。
「ノーマルスキルの【寝起きのだるさが20%軽減される能力】ですね!」
「そうですか」
淡々と答えるシャノンに、カリスが声を上げる。
「えぇ〜、いいなぁ〜!」
「使える能力で良かったですよ」
ノーマルスキルの中でも実用的な部類だ。
シャノンの頬が、わずかに緩んでいた。
「[カレン・バルボサ・ドロージ]さーん」
「は〜い」
明るい声とともに、カレンが軽やかに椅子へ座る。水晶に手をかざすと、再び光が溢れた。
「ノーマルスキルの【一度見た文字を少し覚えやすくなる能力】ですね」
「やった〜!」
周囲がざわつく。魔法のあるこの世界では、知識の吸収速度は、そのまま強さに直結する。
「すごい能力じゃないか!」
「ありがとう、カリス! これからもっと魔法を勉強して、上のランクを目指すわ!」
二人が笑顔で話す様子を、俺は少し距離を置いて眺めていた。
「[カリス・ハーケス・アリソン]さーん」
「はい」
空気が変わる。
「ついにカリスか」
「きっと、アイツなら……」
「応援してるわ! カリス!」
視線が一斉に集まる中、カリスは堂々と椅子に座り、水晶に手をかざした。光る水晶。
「……ノーマルスキルの【軽い怪我が自然治癒しやすくなる能力】ですね!」
「あはは……」
カリスは照れたように笑った。だが、周囲はすぐに盛り上がる。
「いい能力だな!」
「冒険者向きじゃないか!」
怪我が日常の冒険者にとって、これ以上ない能力だった。
「意気込んだわりにノーマルスキルで、ちょっと恥ずかしいよ」
「そんなことないよ! すごいよ!」
「アールみたいな大冒険者になれるって!」
何十人もの生徒が、カリスを囲む。やっぱり、中心にいるのは彼だ。
「[ダレン・デュロ・フォード]さーん」
俺の名前が呼ばれた。無言で立ち上がり、人だかりを横目に、受付の椅子へ向かう。
「こちらに手を」
水晶を前に、息を整える。
(せめて……使えるノーマルスキルでありますように)
祈るような気持ちで、手をかざした。水晶が、光る。役員が覗き込む。
「えーと………………えっ」
役員の動きが止まった。
「……どうしました?」
恐る恐る聞く。
「あなたのユニークスキルは……レ、レアスキルの……」
一瞬の沈黙。
「【瞬間移動】です」
「……え?」
「「「「は?」」」」
ざわめきが、完全に止まる。視線が、俺に集中した。
何百分の一。
ありえない確率を、俺は引いてしまった。




