第3話 馴染めてないよ~ (。•́ – •̀。)
揺れる車内。後部座席では、カリスたちの楽しそうな声が弾んでいた。フロントミラーでちらりとカリスたちを見る。
真ん中に座っているのは、[カリス・ハーケス・アリソン]
正義感が強く、熱血で、誰の目にも分かるほどのカリスマを持つ男。俺等が通うスペクター冒険者学校の首席。
まるで物語の主人公みたいな存在だ。こんな俺にすら分け隔てなく接してくれる。今回のテストだって、誰とも組む相手がいなかった俺を、このチームに引き入れてくれた。……本当に、いい奴だと思う。
その隣には、[シャノン・エドワード・カーマイン]
無口でクールな男。基本的にはカリスの指示を待ってから動くタイプで、視線も意識も、常にカリスを中心に回っている。
俺が何か言っても、返事は薄い。多分、嫌われている。いや、「興味がない」という方が正しいのかもしれない。カリスとは幼なじみで、成績は学年二位。
そして、[カレン・バルボサ・ドロージ]
冒険者学校の女子の中でも目立つ存在で、正直に言って可愛い。彼女がカリスに惹かれていることは、周囲から見ても明らかだった。
だからなのか、このチームに混ざった俺のことを、よく思っていないのも、何となく伝わってくる。成績は三位。
……全員、雲の上の人間だ。
胸の奥に、申し訳なさのような感情が沈んでいく。
俺の隣の運転席には、[ヴァン・ロー・フィーラー]先生。
冒険者学校の教員で、無言のままハンドルを握っている。
俺には、ほとんど話しかけてこない。
カリスたちとはよく話しているのを見かけるが、俺にとっては、よく分からない存在だった。
やがて、視界の先に巨大な城門が見えてくる。
チェッカー王国。
俺たちの故郷であり、この世界で最も大きな国。
国王[ジョン・J・チェッカー]が治めるこの王国は、魔法、科学、資源、軍事力。そのすべてにおいて、他国を寄せつけない。
車が門をくぐる。
革鎧に身を包んだ兵士たちが、行き交う商人や冒険者を慣れた様子で検めていた。荷馬車の軋む音。子どもたちの笑い声。生きている国の音が、そこにはあった。
車は、やがて一つの建物の前で止まる。
神殿のような外観をした、役所だ。
「どうしたんですか?」
カリスがフィーラー先生に声をかける。
「お前らのユニークスキルを調べに行く」
その言葉に、車内がざわついた。
「おぉ!」
「本当に!?」
カリスとカレンが声を上げる。
ユニークスキル──この世界の人間が、生まれつき一人につき一つだけ持つとされる、固有の能力。その内容は千差万別だ。
「いやぁ〜、レアスキルになればいいなぁ〜」
カリスが笑いながら言う。
ユニークスキルには、大きく分けて二種類ある。
ノーマルスキル。
たとえば、【歩くのがちょっと速くなる能力】や【植えた種の発芽がちょっと速くなる能力】など、生活の助けになる程度の、ごくありふれた能力。
大半の人間は、これを持つ。
だが、稀に。常識を超えた力を持つ者が現れる。それが、レアスキルだ。
「きっとカリスなら……レアスキルを手に入れられますよ!」
シャノンが珍しく声を張り上げた。
そうして、俺たちは役所へ向かう。その途中。
「おい」
不意に、フィーラー先生が俺に声をかけた。
「……はい」
喉が乾き、弱々しい返事になる。
「お前、冒険者には向いてない」
胸に、直接言葉を打ち込まれたような感覚。
「このまま行けば、お前はG級冒険者だ。どうせ、魔物に殺されるのがオチだ」
淡々と、事実を告げる口調。
「悪いことは言わん。ユニークスキルを調べたら、この学校は辞めろ。別の職業を目指しなさい」
「……」
言葉が、出なかった。
フィーラー先生は、俺を一瞥すると、そのままカリスの方へ歩いていった。
俺は、その背中を見つめたまま、少し遅れて、ゆっくりと後を追った。




