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瞬間移動で逃げるだけ!〜S級冒険者の裏切り者として追われた俺、気づけば魔王軍の最高幹部になってました〜  作者: 太田
プロローグ

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3/8

第3話 馴染めてないよ~ (。•́ – •̀。)

 揺れる車内。後部座席では、カリスたちの楽しそうな声が弾んでいた。フロントミラーでちらりとカリスたちを見る。


 真ん中に座っているのは、[カリス・ハーケス・アリソン]


 正義感が強く、熱血で、誰の目にも分かるほどのカリスマを持つ男。俺等が通うスペクター冒険者学校の首席。


 まるで物語の主人公みたいな存在だ。こんな俺にすら分け隔てなく接してくれる。今回のテストだって、誰とも組む相手がいなかった俺を、このチームに引き入れてくれた。……本当に、いい奴だと思う。


 その隣には、[シャノン・エドワード・カーマイン]


 無口でクールな男。基本的にはカリスの指示を待ってから動くタイプで、視線も意識も、常にカリスを中心に回っている。


 俺が何か言っても、返事は薄い。多分、嫌われている。いや、「興味がない」という方が正しいのかもしれない。カリスとは幼なじみで、成績は学年二位。


 そして、[カレン・バルボサ・ドロージ]


 冒険者学校の女子の中でも目立つ存在で、正直に言って可愛い。彼女がカリスに惹かれていることは、周囲から見ても明らかだった。


 だからなのか、このチームに混ざった俺のことを、よく思っていないのも、何となく伝わってくる。成績は三位。


 ……全員、雲の上の人間だ。


 胸の奥に、申し訳なさのような感情が沈んでいく。


 俺の隣の運転席には、[ヴァン・ロー・フィーラー]先生。


 冒険者学校の教員で、無言のままハンドルを握っている。


 俺には、ほとんど話しかけてこない。


 カリスたちとはよく話しているのを見かけるが、俺にとっては、よく分からない存在だった。


 やがて、視界の先に巨大な城門が見えてくる。


 チェッカー王国。


 俺たちの故郷であり、この世界で最も大きな国。


 国王[ジョン・J・チェッカー]が治めるこの王国は、魔法、科学、資源、軍事力。そのすべてにおいて、他国を寄せつけない。


 車が門をくぐる。


 革鎧に身を包んだ兵士たちが、行き交う商人や冒険者を慣れた様子で検めていた。荷馬車の軋む音。子どもたちの笑い声。生きている国の音が、そこにはあった。


 車は、やがて一つの建物の前で止まる。


 神殿のような外観をした、役所だ。


「どうしたんですか?」


 カリスがフィーラー先生に声をかける。


「お前らのユニークスキルを調べに行く」


 その言葉に、車内がざわついた。


「おぉ!」


「本当に!?」


 カリスとカレンが声を上げる。


 ユニークスキル──この世界の人間が、生まれつき一人につき一つだけ持つとされる、固有の能力。その内容は千差万別だ。


「いやぁ〜、レアスキルになればいいなぁ〜」


 カリスが笑いながら言う。


 ユニークスキルには、大きく分けて二種類ある。


 ノーマルスキル。


 たとえば、【歩くのがちょっと速くなる能力】や【植えた種の発芽がちょっと速くなる能力】など、生活の助けになる程度の、ごくありふれた能力。


 大半の人間は、これを持つ。


 だが、稀に。常識を超えた力を持つ者が現れる。それが、レアスキルだ。


「きっとカリスなら……レアスキルを手に入れられますよ!」


 シャノンが珍しく声を張り上げた。


 そうして、俺たちは役所へ向かう。その途中。


「おい」


 不意に、フィーラー先生が俺に声をかけた。


「……はい」


 喉が乾き、弱々しい返事になる。


「お前、冒険者には向いてない」


 胸に、直接言葉を打ち込まれたような感覚。


「このまま行けば、お前はG級冒険者だ。どうせ、魔物に殺されるのがオチだ」


 淡々と、事実を告げる口調。


「悪いことは言わん。ユニークスキルを調べたら、この学校は辞めろ。別の職業を目指しなさい」


「……」


 言葉が、出なかった。


 フィーラー先生は、俺を一瞥すると、そのままカリスの方へ歩いていった。


 俺は、その背中を見つめたまま、少し遅れて、ゆっくりと後を追った。

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