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9) お祭りに遊びに行く


「トゥリ、こんど、お祭りを見に行こうか」


 アステルは忙しい。なのでトゥリは本気にしていなかったが、手紙とコートを貰った。


 指定された日の朝、白いコートを着て外で待っていると、アステルがやってきた。珍しく、黒いローブではなく、灰色のコートを着ている。


 アステルは、トゥリをもこもこの青いマフラーでぐるぐる巻きにする。

「暑いです」


 アステルはマフラーを巻くのをやめ、トゥリの額につん、と指をあてた。

 たちまち、トゥリはぽかぽかになる。


「なぜコートが必要なんですか?」

「人間のいる町に行くからだよ、トゥリ」



 ふたりは雪深いタフィの町へと赴く。歩けば3日かかるが、転移魔術を使えば一瞬だ。


 アステルは、ふたりの姿形を、ふたり以外には別の者に見えるように魔術をかける。


「魔術を使うと、トゥリを知る者には存在がバレてしまうから、気をつけてね」



 タフィは魔王城に一番近い町で、魔物に優しい人間とひとがたの魔物、その混血の住む町だという。


 お祭りは華やかだった。鳥や花のモチーフが町中に飾られ、たくさんの露店が並ぶ。行き交う人々はみな楽しそうだ。紙吹雪が舞い、民族音楽がずっと途切れずに流れている。楽団の生演奏の他、演奏を魔石で再生したりしているようだ。


「何が食べたい? トゥリ」


 トゥリはなんでも良かったが、アステルは「あれが美味しいかな」「甘いものならこれかも」などなど話す。露店からあれこれと買ってきては、トゥリの腕のなかに積んでいく。



(アステル様がここにいるって、魔王城の魔物たちは知っているんだろうか? 仕事は?)


 どうも、抜け出してきたような気がしてならなかった。


(アステル様は、毎年来てるのかな?)


 でも、誰と? とトゥリは考える。魔物もいるが、人間のかたちをした者だらけだ。小さなガラスケースに入ったシンシア妃。狼の魔物であるルアン。どちらと来ても目立ちそうだ。



 アステルは楽しそうだ。「あれも美味しいんだよ、トゥリに食べてほしい」と言って、また違うものを買いに行ってしまった。


 トゥリの腕の中は、もう充分、食べ物だらけだ。

(持ちきれなくなってきた)



 アステルを待つトゥリの近くで、楽団の女性が歌っている。美しい歌声だ。繰り返し同じメロディを歌うので、トゥリの耳に残る。


 先代の魔王とタフィという鳥の、恋物語の歌のようだ。


 歌声をさえぎるように、近くで小さな女の子が泣く。転んで怪我をした彼女を、両親が心配そうにのぞきこむ。

 トゥリは、山積み食べ物の下でこっそり、指先を向ける。

(以前も、こうやって、)


 女の子の怪我が癒えて、女の子と両親は喜ぶ。

 トゥリの耳に歌声が再度、聴こえ始める。


(ん? 私、今、魔術を使ったのか?)

 トゥリは、ほぼ、無意識に願いを叶えたことに気づく。


「魔王様の奇跡だね」と聞こえて、アステルと間違えられている状況にトゥリは、心のなかで笑う。



「トゥリフェローティタ!?」


 背後で叫び声がした。トゥリは、顔に覚えがある。魔王城に勤めるひとがたの魔物のひとりだ。


 魔物は、トゥリの胸ぐらに掴み掛かる。アステルがくれた食べ物がポロポロと、トゥリの腕からこぼれ落ちた。


「おまえはこの祭りに一番居ちゃいけねえ存在だろうが!? なんでここに 魔王城にいろよ!?」


 トゥリは頬を赤らめる。

「私、そんなに貴方にとって、とくべつですか!?」

「ああ!? 何言って」


 そこにアステルが戻ってきた。

 魔術を使い、魔物からトゥリを引き剥がして、アステルの後ろにかくまう。


 よく知る魔力に、魔物は青ざめる。


「ひっ ま、魔王陛下!?」


「……トゥリフェローティタが、ここにいちゃいけない理由があるの? 彼はもう、罪を償ったのに」

「陛下、ですがそいつは……」



「陛下? 陛下だって?」

「魔王様がお祭りにご降臨されたのか!?」

「何百年ぶりだ!?」


 騒ぎが、すさまじい速度で大きくなっていく。


 トゥリはアステルを見てドキッとした。

 アステルが、心底、嫌そう〜な顔をしていたから。


「トゥリ、ぼくに捕まって」

 トゥリがアステルのコートの端を掴むと、それじゃ足りん、とばかりにアステルはトゥリを抱きしめる。

(何故触る)


 ふたりは、タフィを見渡す丘の上に転移する。



 ふたりはお祭りにいられなくなってしまった。


「アステル様、何百年ぶり、だったんですか?」

「そうだよ。あの町、魔王信仰に厚い者だらけで……あんまり得意じゃない。

 でも、きみとならお祭りに行くのも良いなって、思ったんだ」


 アステルはしゅんとしている。

 トゥリは、腕の中にいくつか残っていた食べ物を、アステルに差し出す。


 ふたりは丘の上のちいさな岩の上に座って。

 お祭りのごはんを分け合って食べる。


「懐かしい味だ」

 アステルは、すこし気持ちが回復したようだ。


 トゥリにとっては、知らない味だ。

 知らない町を見下ろしながら、聞く。


「私、この町に何かしましたか?」

「いや、この町ではないよ。ただ、他の村を燃やしたんだ。その村から引っ越してきた者が、この町には多いんだ。

 だからあの魔物はきみのことを、お祭りの場には相応しくない って言ったんだ」


「村を燃やした……」

 トゥリの紫の瞳がきらっと光る。


「500年も前の話だよ? さっき言ったように、トゥリは罪を償ったのに……。でも、魔物は寿命が長いから、昨日のことのように覚えている者もいるようだ」


「アステル様、私、その村、見に行ってみたいです」

「え? まあ、いちおう復興して、人は住んでいるんだけど……」



 アステルはトゥリを『燃やされた村』こと、タフォス村が一望できる場所に連れて行く。


「わあ! 綺麗な村!」

 トゥリは嬉しそうだ。


「そう?」

 雪に囲まれたタフォス村は、寒々しい景色だ。


「私、ここを燃やしたんですね!?

 どんなふうに燃やしたんですか?」


 トゥリは顔を輝かせる。


「ひとびとは、どんなふうに逃げ惑いましたか? どのくらい死んで、どのくらい怪我しましたか?」


「怪我人はでたけど……亡くなった人はいなかった」


 トゥリは、あからさまにガッカリとした顔をした。


「ぼくが雨を降らして、守ったんだ」

「なんで雨を降らしたりしたんですか?」


 アステルは片手で頭を抱える。


「きみが燃やしたからだよ。きみはぼくに『そういうことをしない』って約束したあとに、村を燃やした。だからぼくは怒ったんだ」

「アステル様と喧嘩したから燃やしたってことですか?」

「違う、そうじゃない。いや……まあ、もう、それでもいいや。500年も前の話だ」



 アステルは元気がない。

 難しい顔をしている。


(トゥリフェローティタの、根っこの残酷さは、変えられないことはわかっている。

 でも……だけど、どうしたら、この調子で。他の人に憎まれるようなことを減らしてあげられるんだろう?)


 トゥリは、誤解する。


(アステル様は、お祭りをもっと楽しみたかったんだろうか?)



 トゥリは近くの木に手をついて、指でリズムをとり。村を見ながら歌を歌う。お祭りで聴いた歌だ。


 アステルは、トゥリが急に歌いはじめたのでびっくりする。

 よくのびる歌声が青い空にとけて、消えていく。


「きみが歌っているのなんて、はじめて見たよ。きみは歌も上手なんだねえ、びっくりした」


「アステル様は、お祭りをもっと楽しみたかったのでしょう?」


 アステルの青い瞳が、明るく輝く。

 アステルは、トゥリを慈しみ、微笑む。


「無駄なことなんてひとつもないね」


「もういちど歌って、トゥリ」



 トゥリフェローティタは替え歌をして歌う。


 アステル様と喧嘩して、せっかく村を燃やしたのに、雨を降らせるからまたアステル様と喧嘩した。


 というような歌だ。


「ダメだよ、伝統的な音楽を、そんな歌にしちゃ」


 口ではそう言うが、楽しそうに歌うトゥリを見ながら、アステルも楽しそうに笑った。


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