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12) 好奇心からセックスに誘う


 トゥリフェローティタはある朝、牢屋の近くを通ったときに鞭打ちの音を聞いた。


(この先で拷問が行われている――!)


 わくわく♪ と近づくが、結界が張られていて牢屋に入ることはできなかった。鞭を打たれている者の悲鳴は聞こえた。


「お許しください、アステル様!」


(えっ?)


 鞭を打っている者が何を言っているかは聞こえない。ボソボソと喋るタイプのようでアステルの声っぽさはない。しかし打たれている方は魔王陛下に許しを求め、謝罪し続けながら打たれている。


 そのうちに悲鳴は興奮に変わり、嬌声に変わった。


(なに……? 牢屋で鞭打ちから性交している者がいる…… 朝から……)


 トゥリは悲鳴を聞くのは楽しかったが嬌声を聞くのはたいして楽しくなかった。なので、鞭を打っている者がアステルではない確認のためにも去ることにする。


 ただ、去る背中に聞こえる悲鳴混じりの嬌声に思った。

(セックスも暴力の一種だな)

 そう思うと憧れがあるのは否めなかった。

 誰かを性的に支配するということに。



 アステルは執務室で普通に仕事をしていたので、トゥリはホッとした。


「アステル様、牢屋でアステル様の名前を叫びながらセックスしている者がいましたよ」


 アステルは上から岩でも降ってきたかのような顔をした。真っ青だ。


「見たの!?」

「ご存知なんですか?」


 アステルは心配そうな表情でトゥリのところまでやってきた。


「声しか、聞いてません」


 美しい両手をのばして、トゥリフェローティタの両耳を優しくふさいだ。


「きみにあんな汚いものを聞かせてごめんね……」


 まるでトゥリに穢れがないとでも思っているかのような振る舞いだ。あれを聞いてトゥリが思ったのは(自分もやってみたい)だし、トゥリはアステルの死体を想像するたびに興奮しているし、心の中は穢れまくりだというのに。

 たぶん、魂レベルで穢れている。


 トゥリはアステルの幻想を打ち砕こうとする。


「アステル様、私も性交してみたいです。

 ちょっと私とまぐわってくださいませんか?」


 冗談半分、本気半分だったが、アステルが青い顔でずささーっと引いていったので、トゥリは愉快な気持ちになる。


「トゥリは男の子で、ぼくも男なんだよ!」

「性別が気になるなら、女の子の依代を用意したらどうですか? 性別、私は気になりませんが」

「気にならないの!?」


 アステルはドン引きしながら小さな声で早口で口走る。

「やっぱりアサナシア教が性別を気にしないから……」

「何か言いました?」

「なんでもない」


 アステルがあまりに動揺した様子なので、トゥリは内心、大喜びだ。


「ほらアステル様、私、触ったり触られるのがダメなのを克服しつつあるでしょう?

 だからしてみたいんですよ、セックス」

「あ、あけすけに物を言うね……」

「アステル様を困らせられて楽しいので」


 トゥリはニコニコとしている。


「アステル様の『触れる』練習の行き着く先はそこなのかと思ってましたけど」

「え!? 違うよ、そんな意図はないよ。

 ただ、きみと手を繋いだりが楽しかっただけで……」


「手を繋ぐこととセックスの何が違うんですか?」

「何が違うんですか!? 全然違うじゃない、そもそも……」


 アステルは真剣になり、伝えた。


「そもそも、セックスは夫婦間ですることだよ。友達とすることじゃない。

 ぼくは、シンシアとしか寝ないって決めている。他をあたって、トゥリ」


 トゥリはムッとする。


「シンシア様としか寝たことがないんですか?」


 アステルは答えなかった。


「私は美しいものにしか触りたくないし、触られたくないです。アステル様以外にこんなこと言うわけないじゃないですか」


 

 しばしのち、アステルは静かに聞いた。


「それは、ぼくくらい美しかったら良いってこと?」


「……違うと思います。

 触れる練習を今まで、アステル様としてきたからです。

 まあ、美しいのは好きですけれども」


 気まずい空気が流れた。

 トゥリは、こんな他愛もない話でアステルをここまで追い詰めることができたのを不思議に思う。


「アステル様、欲情されることに慣れているって仰っていたではないですか」

「ぼくは、きみに欲情されることには慣れていない」


 トゥリの顔は輝く。

 アステルが、怒っているのを感じて。しかしすぐアステルは冷静になった。


「いや違うな……きみはぼくに欲情しているわけではないでしょう?

 セックスに興味があって、セックスしてみたいだけなんだ」



「……牢屋の件は、本当にごめん。あとで言っておくよ、防音しろって」

「え? アステル様は牢屋での性交を黙認されているってことですか?」

「ぼくにも事情があるんだよ……」


 魔王城はアステルのものだから牢屋だってアステルのものなはずだ。

 その牢屋で『鞭打ちからの性交をするな』と言えないなんてどんな事情だ? とトゥリは疑問に思う。


「聞くの楽しかったので、構わないですよ」

「ぼくが構うんだよ!」

「なぜ私のことでアステル様が構うんですか?」


 アステルは怒っているようだが、トゥリを見ない。機嫌悪そうにして、喋らなくなってしまった。執務机に戻り、ペンを走らせている。


 トゥリはアステルを怒らせられて嬉しかったが、結局(セックスはしてもらえなさそうだな〜)と思いながら部屋をあとにした。


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