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愛しい人

作者: 博江多恵子

 あぁ君のそばにいれたらいいのに


 ~お屋敷の息子~

 俺は馬を急いで走らせた。遠くに見える塔、あれは人影なのか

 許されない愛、身分の違う恋をした俺達、他の誰も踏み込めない二人だけの場所で重ねた体。

 暖かい日差しの中馬の荒い息だけが聞こえる。

 俺が好きだった、綺麗な君の長い髪、君を包むように塊になって落ちてくる。

 大きく見開いた俺の瞳。

 君の母親がキッチンメイドとして務める俺の親の屋敷。母に連れられ奉公に来たボロボロの君。

 ランドリーメイドとして頑張る君が輝いて見えた。

 窮屈な生活が嫌で屋敷をしょっちゅう抜け出した俺にコッソリと使用人の出入り口を教えたあの日、俺は君に恋をした。俺と君、その日から始まった秘密の関係。

 誰にもバレないよう一緒に屋敷の外へ行った日、水仕事で手荒れした君の手を繋いだ1回り以上デカい俺の手、ランドリーメイドとして働く君の為に買った手荒れの薬。初めて人に優しくしてもらえたと驚き微笑む愛しい君。

 異国の屋敷の主人に母を犯され、私生児として生まれた君。屋根も無く壁所々無い家。戦で崩れた家に母とひっそり暮らしていたらしい。人として扱われなかった君の過去、そんな君が笑って務めてたこの国の大臣のこの屋敷。俺に歌教えてくれた。

 君の仕事が休みの日、俺が買ってあげたドレスを着て中流階級の娘のふりをした君。2人でこっそり出かけた市場、初めて乗る馬車に心躍らせる君、口の周りいっぱいにクリームをつけて君が食べたあのケーキ屋。今も君と行った店を覚えている。

 街を見下ろせる夕焼けの綺麗な草原の丘。重ねた俺達の唇。夕日よりも赤くなった君の頬を覚えてる。何度も重ねた俺達の体。1つになる喜び、君の甘い声、俺の腕に必死にしがみつく君の腕、俺の肩に沢山つけた君からのひっかき傷、俺の髪から君の頬に落ちた汗。何もかもを覚えてる。愛しい君との思い出。

 重ねた逢瀬バレてしまった俺達の秘密の関係。捕らえられた君、君に伝えたい俺の叫び声。

「必ず迎えに行く!必ず助けに行く!待っててくれ!俺のことを待っててくれ!」

 離される俺達の距離、親父の部下に取り押さえられながら俺は君に最後、愛の言葉と君の名前を叫ぶしかできなかった。



 次の記憶は暗い部屋、何度も親父に殴られた俺の顔、君は誰も来ない塔に閉じ込められたときいた。

 探した。

 探した。

 君を探してる途中、君が俺を誘惑した罪で捕らえられ、舌を切られたと聞いた。

 俺は親父のやったことに絶望し、喚いて暴れた。

 拳から血が滴り落ちる。

 食料はバルコニーに繋がれた滑車で運ばれ、下には兵隊が監視してる塔に君が閉じ込められていると知った。

 君がどんな声か思い出せないが君が俺にコッソリくれた手紙だけがそれだけが君の残り香を纏っていた。月日をかけてしらみつぶしに君を探した、きっと迎えに行く。それだけが俺の生きる希望だった。

 どこにいる?この国にもういないのか?色欲の罪人の母として君の母は打ち首になった。君だけは生かしてくれと親父に懇願した。だが自ら命を絶たないと解放されない地獄、人と触れ合えない塔に閉じ込められる色欲の罪人として捕らえられた君。

 どこにいるんだ?

 この国の富豪の娘と結婚するように親父に言われた。その娘には他の男をあてがい俺は自分の身分を捨てた。

 昨日上がった花火、教会の鐘の音。あれは富豪の娘が他の男との結婚式だった。これで俺は身分を捨てたが君を迎えに行ける。

 もう迷わない、君の居場所が分かった。

 これからは2人で幸せに生きよう。

 見上げたバルコニーから出てきた俺の愛しい人。前に体を傾ける。間に合わない、叫んでも君は止まらない。

 愛しの君。俺の愛しい人。

 笑顔の君をまたを胸に抱いていたい。

 真っ逆さまに落ちる君。流れる君との思い出と俺の涙、兵士に助けるようにの叫ぶが間に合わない。愛しい君の笑顔をもう一度…

 俺が心から愛したただ1人の君、俺を愛してくれた愛しい人



 頭から血を流す君。大きく膨らんだ君のお腹。知らなかった。

 血を流している愛しい君。捕らえられ風呂にも入れなかったのであろう、君の匂いも微かにしかしない。細くなった君の肩を抱くと俺に伝わる君の体温。俺の名前を呼ぶ君の声。血の付いた指で俺の頬に触れるさらに細くなり、荒れた君の手

 あぁ、逝かないで俺の愛しい人。君の笑顔が好きだった。最期に俺の胸の中で消えていく君の命。愛しい人、やっと会えたのに。すぐに君の所へ行くよ。

 俺の愛しい人。

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