第4部34話 怪物vs勇者⑶
夜の空気が、重い。
石畳は砕け、建物は崩れ、炎がまだ燻っている。
その中心に——ハルクは立っていた。
そして。
光が収束する。
凪が、その場に戻ってきたのだ。
表情は笑っていない。
「第二ラウンドだな。」
ハルクの複眼が細まる。
「……はぁ、生き返るタイプか。面倒なやつだな」
凪は答えない。
ただ、静かに構えた。
拳を、握る。
その構えは——変わっていた。
剣もない。
詠唱もない。
「……は?」
ハルクが眉をひそめる。
「お前、剣はどうした?」
凪は短く答える。
「さあな」
一瞬の沈黙。
そして、ハルクが笑う。
「ははっ……はははははッ!!
馬鹿じゃねぇのか!?弱体化してどうすんだよ!!」
凪は動かない。
「違うな」
低く、言う。
「“選んだ”だけだ、こんな風にな」
その瞬間。
——消える。
いや、違う。
踏み込んでいた。
地面が弾ける。
ハルクの目が見開かれる。
「速——」
拳。
だが、ハルクは受ける。
鈍い衝撃。
「っっ(なんだこの速さ、衝撃も斬撃よりっ)」
ハルクの拳が振り下ろされる。
凪——避け損ねる。
直撃。
骨が軋む。
だが。
止まらない。
凪の目は、目の前の敵から離れない。
そのまま踏み込む。
「は?」
ハルクの一瞬の困惑。
その隙。
凪の拳が、二度叩き込まれる。
——同じ軌道。
——同じ速度。
——同じ威力。
「ッ!?」
ハルクが初めて後退する。
「今の……なんだっ?」
凪は息を吐く。
「さぁな、図体と一緒に脳みそもデカくなっただろ?よく考えてみろよ。」
静かに言う。
「口が減らねえな」
ハルクの口元が歪む。
「……面白ぇ」
踏み込む。
連撃。
拳。肘。膝。
暴力の嵐。
凪は——
避けきれない。
殴られる。
骨が鳴る。
血が飛ぶ。
それでも。
倒れない。
そして。
一度見た動き。
次は——
受け流す。
「なっ……!?」
ハルクの拳が空を切る。
その瞬間。
凪が潜り込む。
足払い。
崩し。
肘打ち。
「ぐっ……!」
初めてハルクの体勢が崩れる。
凪は追撃しない。
一歩引く。
呼吸を整える。
ハルクは、笑っていた。
「なるほどな」
舌を鳴らす。
「一回食らったら、もう通用しないみたいなチートか」
凪は答えない。
「それに、その身体……ただの強化じゃねぇな」
凪の視線が上がる。
「さあな」
ハルクが構える。
「いいぜ」
笑う。
「だったら——覚えられる前に殺すだけだ」
ハルクのベルトがあさ黒く光を放つ。
異世界には似つかわしくない、機械的な音楽が鳴り始める。
(タッチオーン、オーバーロード、クラッシュドライブ)
ハルクの周りの空気が歪んでいく。
本気の踏み込みで地面が割れる。
速度が一段上がる。
凪の瞳が、わずかに揺れる。
——見えない。
一撃。
直撃。
凪の身体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。
壁が凪の身体がぶつかった衝撃で破壊され、凪の口から血が吐き出される。
「クソだな」
凪はボソリと立ち上がりながら、呟く。
まだ、足りない部分がある。
速度も力も均衡しているからこそ、質量が足りてない分威力に劣るのが目に見えている。
「終わりだ」
ハルクが歩く。
「選ぶ?笑わせんな」
足を踏み出す。
「結局お前は一人じゃ——」
凪が、顔を上げる。
笑っていた。
「一人か」
静かに。
「だから勝つんだろ」
その瞬間。
凪の気配が変わる。
集中が、極限まで研ぎ澄まされる。
空気が張り詰める。
ハルクが違和感に気づく。
「……何だ?」
凪が構える。
「次で終わらせる」




