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異世界駐在所  作者: clavis


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第4部第32話 嵐の夜⑵

炎が夜を裂いた。

凪の視界に映るのは、崩れかけた防壁と黒装束の集団。

統率が取れている。

素人ではないと直感する。

急な城壁の崩落にまだ日の浅い兵士達は尻餅をついてしまっている。

舌打ち。

予想外は、人間を簡単に壊す。


「住民は北へ! 走れ!」


うし?を抱えたまま、凪は片手を振る。

空間が歪む。

尻餅をついている平次達の足元が光輝き、姿が掻き消えた。

今回ストックしている空間魔法で、腰砕けた者を次々と飛ばす、人質にされても助ける義理がないからだ。

転移先は——異世界警察署。

間髪入れず、背後から刃が迫る。


「遅い」


凪の手には既に刀があった。

さらには鎧武者の自動迎撃で、黒装束を真っ二つに切り裂く。

踏み込み。

一閃。

空気を裂く音と共に、目の前に立ちはだかる襲撃者の武器が両断される。

間合いに入った瞬間に終わる、対人戦特化の剣術。

二人目。

三人目。

切り捨てながら、騒動が起こっている方を目指す。

だが数が多い。

屋根の上から矢が放たれる。

凪は舌打ちし、ストックを意識する。

——黒魔法。


「燃えろ」


詠唱は短い。

夜空に展開された魔法陣から、黒炎が降り注ぐ。

屋根ごと焼き払う。

悲鳴。

瓦礫が崩れ落ちる。

だがそれでも、敵は退かない。


「……本気で潰しにきてるな」


地面に転がる住民の姿。

足を挫いた老人。

凪は片手をかざす。

倒れている老人の足元が光と共に、老人が消える。


「あっちは、あいつが勝手になんとかするだろ。」


凪は確認するように呟くと、さらに走り始めた。


——同時刻、異世界警察署。

その瞬間。

守の目の前に、光と共に老人が現れた。


「なっ……また!」


遠藤が即座に状況を読む。


「転移ねぇ、相変わらず派手だねぇ。おいっ、腰抜かしてないでケガ人を地下に運べ。医者にみせにいくんだ!」


すでに腰を抜かした者達も、冷静さを取り戻し、遠藤の指揮の元ケガ人を搬送し始めた。

的確に状況を把握するのは、いつも俯瞰的だからだろうか?

迷いもなく、動ける者を動員して会議室に避難させていく。


「ももちゃん、こっちだ!」


守が駆け出す。

小さな足音が後を追う。

転移陣がまた光る。

今度は親子だ。

次は怪我人。

遠藤が指示を飛ばす。


「一階は満員だ。地下留置区画を解放する。鉄格子は外すなよ、暴徒が混じってる可能性がある」


頭は常に回っている。

守は拳を握る。


「凪一人で持つのか……」


遠藤が低く返す。


「持たせるしかないねぇ。今、外に出たら包囲される」


転移光がまた走る。

凪は限界まで使っている。

守は歯を食いしばる。


「……俺は行く」

「無茶だねぇ」

「無茶でもだ」


遠藤は一瞬だけ目を細めた。


「はぁ、仕方ない。敵の主力を割り出す。君はその間に合流しろ」


ため息をつきつつ、急に通信用の魔道具を投げつけくる。

守は頷き、走る。

ももちゃんが小さな声で言った。


「守、こわい?」


守は一瞬だけ足を止める。


「……怖いさ」


正直な答えだった。

だが。


「でもな、怖いままで終わらせる気はない」


魔道具を装着して、扉を開け、夜へ飛び出す。



その頃。

凪の呼吸が荒くなり始めていた。

剣豪。

黒魔法。

空間魔法。

同時運用は重い。

だが退けない。

その時だった。

あいつには見覚えがある。

凪は笑う。


「やっと本命か」


家と家の隙間。

そこだけ空気が沈んでいる。

月光は届いている。

だが、光が歪んで見える。

巨大な影。

膨張した筋肉。

鎧のように硬質化した皮膚。

赤く発光する複眼。

防壁を崩した張本人、規格外。


異世界ライダーのハルク。


凪は息を整えながら、頭の奥でストックを確認する。

剣豪。

黒魔法。

空間魔法。

対怪物特化構成に切り替えるか?

脳内で候補が走る。

だが、凪は動かない。


(……情報が足りない)


ハルク単体なのか。

そして、第二波はあるのか。

潜伏しているものが残っている可能性は?

ここで構成を変えた瞬間、市街制圧用の空間魔法を失う。

転移が使えなくなれば、逃げ遅れた住民は死ぬ。

黒魔法を外せば、伏兵がいた場合に、数に押し潰される。

剣豪を外せば、近距離での即応が落ちる。

そもそも、前回剣豪は通用しなかったわけだが、このまま様子を見るべきか。

判断材料が揃っていない。

戦場で一番危険なのは、焦りだ。

ハルクが一歩踏み出す。

石畳が沈む。

凪は刀を構えたまま、笑う。


「……様子見だな」


余裕ではない。

計算だ。


(まずは、あいつの出力と再生能力を見る)


どうせ俺は死んでも、あのクソ神父のとこに行くだけだ。

転移の負荷が肺を焼く。

だが、まだ動かさない。


「お前が本命なら——」


刀がわずかに沈む。


「ここで止める」


ハルクの仮面の目は赤く強く光る。

災害が踏み込んだ。

石畳が沈み、家屋に亀裂が走る。

崩壊の音が、夜を割った。

この街の日常は、明日を迎えられない。

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