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異世界駐在所  作者: clavis


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第4部30話 罰とは?更生とは⑵

——現代日本。

捜査一課の部屋は相変わらず、電話の音が鳴り止まない。

行方不明の届けや、多額の強盗、通り魔殺人。

どれだけ犯罪者が忽然と消え、騒がれても犯罪はなくならない、それは人間という種の本能なのかもしれない。

休憩室のテレビでは国会中継が流れていた。

新人刑事がぽつりと呟く。


「犯罪者にかかった費用、全部本人に払わせる法案……ですか」


桐島は書類から目を上げない。


「ああ。“犯罪者費用自己負担法”だな、今国会の目玉になりそうなやつだ。」


新人はマグカップを口に近づけながら、テレビの字幕テロップに夢中だ。


「本気で通るんですかね?」

「通るだろうな」


新人は眉をひそめた。


「でも……金がなくて自己負担金を払えない人はどうするんです?」


桐島はペンを置いた。


「払えるまで、労役場だろうな」

「それ、更生できますか?」


数秒の沈黙。

桐島は新人を真っ直ぐ見た。

鋭い視線だった。


「お前、更生って何だと思う?」


新人は言葉に詰まる。

桐島は続ける。


「被害者は一生背負う。なのに加害者だけが“やり直し”を与えられるのが当然だと思うか?今の日本の制度が制定されたのはいつだと思う?今はもう令和って時代まできてるんだ、考え方も多様になるのさ。」


新人は小さく答える。


「でも……追い詰めすぎたら、もっと凶悪になる人も——」


桐島はわずかに口角を上げた。


「いい視点だ、お前警察やめて、思想家的な政治家を目指してもいいんじゃないか?」


そして言う。


「法律はな、俺ら現場が求めてるようなものじゃないのさ、大多数が得をして少数が損する方が選ばれる。これが制定されても大多数の善人は損しないし、ましてや被害者達は加害者に対する経済的制裁がしっかりと浮き彫りになるからwinwinってやつだろうさ。」


テレビから拍手が響いた。

画面には、一人の男が映っている。

特命担当大臣——新城啓介。

整いすぎた笑顔。

だが、その目に温度はない。


「我が国の公費負担は限界に達しています」


静かな声。

不思議と耳に残る。


「受刑者に年間数百万円。これを全て何の罪も犯していない国民に税金としてその負担を強いる、これは果たして“罰”でしょうか?」


議場が静まる。

新城は続けた。


「責任は本人に負わせる。何故なら自分が自ら国に定められた法律を破ったのですから。極めて当然の話です。これにより、浮いた税金を切迫していた医療ーーー」


拍手。

だが、新人は小さく呟いた。


「この人……きっと聞こえてくる言葉自体は、すごい正しいこと言ってるとおもうんだけど、なんか怖いですね」


桐島は短く答えた。


「政治家は皆、化かしあいしてるんだ。本気で国を守るつもりがあるかなんて、腹づもりは見えないだろ?怖いのは当たりまえさ」


新城の演説は続く。


「そして、本法案の目的は財政だけではありません」


一拍。


「犯罪を、“割に合わない選択”にすることです。人は明確に失うものが有れば理性が働きますからね。医療費も湿布や保湿剤が保険適応対象外になれば、必要な分しか貰うことはしないのと同じです。犯罪者を犯しているのに歯医者に行って、「歯石も取ってください」なんていうものだって、我々の税金から出ているのはおかしい!!皆さんそう思いませんか?」


大きな拍手が巻き起こると共に大量のヤジも飛ぶ。


「嫌に現場を知ってるいい方だな...」

桐島は舌打ちしながら、呟く。

新人は桐島の呟きには気が付かず、テレビに食い入りながら桐島に話しかける。


「これ、犯罪減りますかね」


桐島は窓の外を見た。


「減る犯罪もある」

「全部じゃないってことですか?」

「ああ」


そして静かに言った。


「本当に危ない奴はな——損得で動かないんだよ。」

「えっ...」


桐島は天井を見ながらため息をつく。

刑事人生を思い浮かべているのだろう。


「お前は今まで扱ってきたかわからないが、頭ぶっ飛んでるやつもいるんだ。俺達の常識を逸脱した人種が大勢いるだろ?こんな法律なんかで減るのは軽微なもんだ。万引きや暴行みたいなしょっぱいやつで捕まったら、働いていた方がいいだろ?ってなるが、むしろ割にあうように万引きは僅少なものはなくなるだろうし、巨額な詐欺事件や強盗なんかは減らないさ。むしろやるならもっと金になる凶悪なものをってなるだろうな。」


マグカップの湯気はたちのぼるが、新人の背中に冷たいものが走った。

桐島は最後に呟いた。


「法律が変わる時はな。善人を守るために変わるんじゃないんだよ。社会が悪人の悪行に耐えきれないから変わるのさ。迷惑防止条例の盗撮が航空機ないで立件出来なかったりして、性的姿態撮影処罰法が出来たりしただろ?日本の経済だって限界なんだろさ。今を生きていくだけで精一杯の善人から税金巻き上げて、クソみたいな悪人に使いますなんて誰が納得するんだよ。」


テレビの中で、新城が一礼する。

その瞬間だけ、笑みが消えた。

まるで——

もっと先の未来を見ている者の顔だった。

世界が、少しずつ変わり始めていることを。

罰とは何か。

正義とは何か。

一部の悪人の人権を守るために、善人達が犠牲になっていると考えるのか。

共有する事なく、自身の中にはあるのだろうが、その答えを、きっと人間はまだ持っていない。

桐島は忌々しくテレビの中の新城を睨みつける。

件の神隠しは捜査は難航で、こいつを嗅ぎ回ろうとしたら捜査から外されて通常業務に回された。

捜査一課の仕事にやりがいを感じるが、露骨にこいつを調べるなと言われているようで、桐島の中で培われた長年の刑事のカンが、警鐘を鳴らしていた。

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