第2部第1章 異世界パトロール
守は駐在所の裏手に停められた白黒のパトカーの前に立った。
島に一台しかない電気自動車――日産リーフのパトカー仕様だ。
異世界に来てから、駐在所の電気系統はすでに確認していた。
太陽光パネルは稼働し、蓄電池も問題なし。冷蔵庫や照明も生きていた。
つまり、この車も――動く。
「よし、試すか」
守は運転席に乗り込み、スタートボタンを押した。
エンジン音はしない。
ただ静かに計器が光り、モニターに「READY」の文字が浮かんだ。
「……生きてるな」
アクセルを軽く踏み込む。
無音のまま、車体は滑るように前進した。
内燃機関ではあり得ない静けさが、逆に不気味に思える。
「残り航続距離……二百キロちょっと。まあ、そう無駄にはできないな」
守は呟きながら、ゆっくりとハンドルを切った。
警戒しながら時速三十キロ程度で、駐在所から伸びる獣道を走り出す。
「うわーっ! はやーい!」
車の横で、桃色の巨鳥――モモちゃんが並走していた。
長い脚で軽快に地面を蹴り、車とぴったり速度を合わせる。
まるで遊んでいるかのように、羽毛を揺らしてはしゃいでいる。
「まもるのクルマ! しーんってしてる! モモとおんなじ!」
「……まあ、電気だからな。静かなのは当たり前だ」
「モモ、もっとはやくできるよ! みててー!」
モモちゃんは一気に速度を上げ、車を追い越した。
その背中には風を切る喜びが溢れている。
守は思わず苦笑し、アクセルを軽く踏み直して追いついた。
「おいおい、バッテリー節約させろっての……」
草原の中を、車と巨鳥が並んで駆け抜けていく。
不思議な光景なのに、どこか楽しげな空気が漂っていた。
やがて、丘を越えた先に小さな集落が現れた。
畑に煙、藁葺き屋根の家々。
人の営みが確かにそこにある。
守はブレーキを踏み、慎重に速度を落とした。
「……村、発見。さて、どう出るか……」
隣でモモちゃんが羽を広げ、嬉しそうに叫んだ。
「まもる! ひと、いたー!」
「そうだな。けど、歓迎されるかどうかは……」
その時。
モーター音の代わりに響くタイヤの砂利を踏む音に気づき、村人たちがこちらを振り向いた。
彼らの顔に浮かんでいたのは、驚愕――そして、明確な警戒心だった




