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異世界駐在所  作者: clavis


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第4部29話 罰とは?更生とは?⑴

王都から届いた報せは、驚くほど短かった。

ディートリヒ・フォン・ヴァルディス——

死刑執行済み。

それだけだった。

守は紙を持ったまま、しばらく動かなかった。


「……早いな」


遠藤が椅子の背にもたれながら言う。


「自白魔術がある世界だからねぇ。裁判なんて確認作業みたいなものなんだろうねぇ。」


守は視線を落とした。

アデルから聞いたが、実感は湧かない。

麻袋。

振り下ろされる斧。

見ていないはずの光景が、ドラマの様に脳内再生されて気分が悪くなった。


「日本なら……簡単には死刑にならないですよね」


遠藤は肩をすくめた。


「そもそも判決まで何年もかかる。場合によっては十年以上」

「その間、生きるんですよね。税金で」

「そうだねぇ」


守は考える。

それは権利を守るための優しさなのか。

それともただの猶予なのか。


「遠藤さんは、どっちが正しいと思います?」


遠藤は少しだけ考えた後、答えた。


「正しさなんて、立つ場所で変わるよ」


一拍。


「遺族にとっては“遅すぎる死刑”は救いにならないかもしれない。でも国家にとっては、感情で裁く方が危険だ」


守は小さく息を吐いた。


「もし日本が、もっと厳しくなったらどうなりますかね」


遠藤は笑った。


「犯罪は減るかもねぇ」

「かも、ですか」

「締め付ければ、その分だけ別の歪みが出る。社会ってそういうものだよ」


重たい沈黙。

——その時。

足元から声がした。


「ねぇ」


モモちゃんだった。

いつの間に来たのか、小さな体で守を見上げている。


「ニンゲンはなんで、わるいことをするの?」


守は目を瞬かせた。


「おお、モモちゃんどうしたー?」


モモちゃんは首を傾げる。


「ルールをまもる、あたりまえでしょ?マモル言ってた!」


遠藤が思わず吹き出した。


「はは……本質突くねぇ」


守は答えられなかった。

人間は弱いから。

欲があるから。

きっと理由はいくらでもある。

だが——それを、こんなに簡単な言葉で言われると。

ただの言い訳に思えてしまう。

遠藤がぽつりと言う。


「法律ってのはね、善人のためにあるわけじゃない。悪人を縛るためにあるんだ。」


モモちゃんは少し考え、


「わるい人がいなくなったら?ほうりつ無くなる?」


遠藤は笑った。


「その時は法律もいらないねぇ。あ、でもモモちゃんも約束はするよね?明日遊ぼうとか、いろーんな約束。」

「するーっ!」

「そういう約束を、混乱を招かないように、生きるために必要なルールにしたのが法律だから、なくならないかもねぇ」

「エンドーむずかしいね、なくならないの?」


モモちゃんは首をかしげ、守は空を見上げた。


「マモル、かおがくしゃってしてる。どうしたのー?」

「あ、ああ、考えることが沢山あってな。心配してくれるの優しいじゃん。」


モモちゃんのふわふわの羽毛頭をなでなでしつつ、返ってきた血まみれの手錠に目を落とす。

犯罪者だとは思うが、ディートリヒにも家族はいた。

これから先、ディートリヒの家族は国家反逆の罪で王都から指名手配されるそうだ。

一族全てをまず逮捕して、自白魔法で白か黒かを判断する。

そこに人権に掲げられた防御権なんてものは微塵もない。

彼らの家族が無関係だとしたら、自白魔法で潔白が証明されてはれて無罪放免となるのだろうか?

自白魔法も意思を持つ人間が使うものだからこそ、そこに決めつけた正義で誤った真実に辿り着く可能性はないのか?

そんな考えがぐるぐると守の中を駆け巡る。


「まーた、変なこと考えてるねぇ」


遠藤は笑いながら守の肩をバンバンと叩く。


「この仕事でそんな考えこんじゃうと、精神的にももたないよー?前にも言ってるけど、所詮は人間も動物なんだよ、我々が完璧になんてなれないよ。だからこそこいつらバカだなぁって思って自分を顧みることができるようになるのさ。」

「神様みたいに完璧なら、悩まないんだろうけどさ」


ため息をつきながらも守は相槌をうつ。


「なーに言ってんの!神様が完璧なら人間なんて生み出さないさー。完璧なら完璧なものを創造するものさ、そもそも神なんてものは崇拝する偶像の対象でしかない。不完全な人間が救われたいっていうエゴから生み出されたものでしかないんだよ?もしいるなら人間を救うか滅ぼすか決めてるさ。」


遠藤が言ってくる禅問答じみた言葉を考えると、さらにまゆがハの字になってしまう守。

それを見て満足そうな遠藤は続ける。


「現代ではみんな環境が悪かったから、わるい事をしたって報道するけれどもね?そもそも犯罪を犯さなかった人は環境が良かったから、悪いことをする必要がなかったと考えちゃうんだよねぇ僕は。何故なら、警察官になった後でも犯罪を犯しちゃう人が後を立たないだろ?それは元々生来悪が根底にあって、それが環境によって現れたにすぎないんだ。その環境になって初めて、ちゃんと正義と悪みたいな曖昧なものじゃなくて、「やってはいけない法律を理解して、踏み止まる教育を受けていたか」で善人か否かに別れるんだよ。ディートリヒはその踏み止まる教育を受けなかった悪人だっただけさ。子供なら変わるかもしれないけど、大人じゃ表面上は変わっても根本は変わらないさ」


遠藤は言い切った。

守は何もいい返せなかった。

そんな守をみて手をひらひらさせ、それじゃあねぇ、と遠藤は自席に戻って行った。


「エンドー、いっちゃったね、マモルあそんで!」


無邪気に身体を擦りつけてくる、純粋なモモちゃんに癒されつつも、自分は環境が悪くなった時、踏み止まることはできるだろうか、とふかふかの羽毛をモフモフしながら考え込んでいく守であった。

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