第4部28話 罪と罰
王都の地下は、静まり返っていた。
石壁には装飾も紋章もなく、真実だけが存在できる、厳かな空間であり、かつ、音が反響しないよう削られた、無機質な空間。
そこに、ディートリヒ・フォン・ヴァルディスはいた。
両腕、両脚、首を鉄の輪を付けられており、そのすべてが黒い鎖で拘束され、椅子に固定されている。
これから拷問でもされるわけでもない。暴れる「物」を固定するための拘束だった。
正面に座るのは三人。
王国法を司る審問官。
その背後に、淡く光る魔法陣が展開されていた。
床に刻まれた紋様が、ゆっくりと脈打っている。
「始めよ」
短い命令。
次の瞬間——
魔法陣が白く発光した。
ディートリヒの体が跳ねる。
「——ぁ……ッ!!」
声にならない悲鳴。
「ディートリヒ・フォン・ヴァルディス、今回の拘束されている罪について問う。異世界からきた侵略者に手を貸した事について、王国転覆を企図した反逆罪についてだ。」
喉が勝手に開く。
意思とは無関係に、言葉が溢れ出した。
「私は……ヴァルディス家の名を使い……やつらを利用して……」
「拒めば家族を殺すと……脅され……」
止まらない。
黙秘は存在しない。
嘘も存在しない。
ただ、事実だけが吐き出される。
審問官はそれぞれ表情を変える事なく、ディートリヒの供述を聞いている。
「村が燃えている事を知った...」
口をぱくぱくとさせるが、言葉が出てこない。
そう、自白とは罪の告白であり、魔術的に強制されているからこそ、必要がないことはしゃべる事すら出来ない。
クオルが、ディートリヒの全てを記録している。
やがて、ディートリヒの言葉が止み、光が収まった。
ディートリヒは項垂れ、荒い呼吸を繰り返す。
「確認する」
審問官の一人が言う。
別の審問官が、魔術具に手を触れると、クオルに書き起こされた、ディートリヒの自白が読み上げられていく。
淡い音が鳴って、ディートリヒの声はクオルから聞こえなくなる。
審問官達の議論はない、情状もない。
ただ一言。
「判決を述べる」
静寂。
「被疑者ディートリヒ・フォン・ヴァルディス」
一拍。
「国家反逆、内乱幇助、多数殺害への関与」
そして——
「死罪」
ディートリヒの肩が震えた。
だが、叫びはしなかった。
もう理解していた。
ここに来た時から、終わっていたのだと。
「執行は、本日」
最後に残された時間を家族と過ごす猶予もない。
税を使い、罪人を生かす意味はない。
それが、この国の法だった。
死刑執行は王都の外れにある、罪人の丘と呼ばれる場所。
処刑は公開されない。
見世物にしないためではない。
ただ、効率が悪いからだ。
ディートリヒは頭に麻袋を被せられ、守の手錠は外されていたが木製の手枷が嵌められていた。
逃げられないように、足にも重しがついた鎖が足首をしめつけている。
処刑場では処刑人が巨大な斧を手入れしていた。
罪人を殺す技術は不要だ、必要なのは確実に終わらせる威力だけ、それがこの黒金の斧。
その時、初めてディートリヒが上を見上げた。
麻袋で見えるはずがない空を見るように、そして、存在しなくなった景色に想いを馳せる。
迷いなく執行人は、ディートリヒを処刑台に組み伏せ、体を固定していく。
「……すまなかった」
誰に向けた言葉だったのか。
家族か。
村人か。
それとも——自分か。
斧が振り下ろされるのは一度だけだった。
人間の首を切り落とすのは難しいが、一瞬でディートリヒの首は胴体と離れ離れになった。
血は土に吸い込まれ、すぐに見えなくなる。
立ち会っていた役人が告げる。
「執行完了」
それだけだった。
墓は作られず、弁解する事もなく、今までの功績も残らない。
その処刑場は、反逆者に居場所は不要だと明言するかのようだった。




