第4部27話 異世界での取調べ⑶
地下の取調室からでて、石造りの階段を抜けた先、警察署の一階の広間には、すでに王国側の兵が待機していた。
鎧は実戦用。
装飾はなく、動きに無駄がない。
その中央に立つ男が一歩前へ出る。
護送責任者――王都直属の執行官だ。
その半歩後ろに、よく知る顔のアデルが控えていた。
あくまで通訳。
こちらに目配せをするが、淡々と職務を果たす立ち位置に今日はいるようだ。
ディートリヒ・フォン・ヴァルディスは、拘束具をつけられたまま立たされている。
顔色は悪く、視線が忙しなく泳いでいた
拘束具はこの世界にはない、手錠は守の装備品だ。
こっちに来てから動作確認なんてほとんどしてないから、使う時はちゃんと使えるのか不安だったが、しっかりと機能は果たしているようだ。
執行官が、低い声で告げる。
アデルが即座に翻訳する。
「被疑者ディートリヒ・フォン・ヴァルディスは、これより王都へ護送される。ここでの聴取は、ここまでだ」
その言葉に、ディートリヒの表情が変わった。
「……ま、待て」
声が裏返る。
「ここで...すべて話しただろう!?」
叫ぶように言葉を吐くが、誰も答えない。
執行官は続ける。
アデルが翻訳する。
「王都到着後、正式な取り調べを行う」
「その際、王国法に基づく手続きが開始される」
守は、思わず聞き返した。
「……正式な、取調べ?」
アデルが一度だけこちらを見る。
「はい」
「この世界では、重要案件の取り調べは王都で行われます」
ディートリヒの呼吸が、荒くなる。
執行官が、淡々と続ける。
「王都では、虚偽は許されない。自白魔術によって全てがわかる。」
その瞬間。
ディートリヒが、完全に取り乱した。
「やめろ……!話したことで全部なんだ!!私の話を聞いてくれ!!」
拘束具を鳴らしながら、前に出ようとする。
「私は脅されていただけなんだ、家族が……!」
その瞬間、閃光と共にディートリヒは崩れ落ちる。
急に崩れ落ちたディートリヒは護送の兵士2人に脇を抱き抱えられるように立たされた。
目は白目をむいており、どうやら気絶しているようだ。
だが、アデルはディートリヒを見ない。
執行官は、冷ややかに言い放つ。
アデルが翻訳する。
「供述は、王都で行い、ここは、その場ではない。国益を損ねる裏切り者の引き渡しについて感謝しよう。」
それで終わりだった。
ディートリヒは、気絶したまま兵士達に連れて行かれた。
守は、胸の奥がざわつくのを感じていた。
「……王都で、何が行われるんだ?」
アデルは、少しだけ言葉を選んだ。
「詳細は、私の口からは言えません。ですが——」
一拍。
「この世界では、裁判はすぐ終わるんです。自白魔術で自分がやったことを洗いざらい吐いて、それを国王率いる王宮裁判で裁きます。今回の事件だと殆どが死罪になりますね。」
守は、無言になる。
兵士たちが移動を開始する。
「ディートリヒは、犯罪者に担がれただけかもしれないんだぞ。」
その言葉にアデルは驚いた。
「驚いたなぁ、今でこそ簡単な意思疎通は出来るとは思うけど、まだ言葉はなれてないでしょ?よく話せましたね!」
「あ、まぁ、凪がいると勇者の特性で言葉がわかるらしいのよ。だからってのもあるんだけど。」
「ええ!?僕のアイデンティティが崩れ去っていった気がします、その事実!!」
アデルは驚きを隠せない。
何故なら、喋るスキルでしかない自分よりもどう考えて上位互換なのだから。
凪は、ディートリヒを一瞥してため息をついて、警察署を出ていった。
護送隊が去り、広間に残ったのは、守と遠藤、アデルだけだ。
しばらくの沈黙。
守が、ぽつりと呟く。
「遠藤さん……自白魔術って、現代にあったらどうなると思う?」
「いやー、とっても楽だよねぇ。だって覚えてないとか黙秘とかもないんだから。冤罪だってなくなっちゃうんじゃない?でもここだとさ、生きてやり直すって選択肢もなくなりそうだけどね。」
守は、納得してしまった。
悪い事をした人間が、やったことを素直に全て話せば捜査経済に多大なる貢献をするのは確かだ。
歴戦の調べ官に犯人を留置場に戻した後に、なんだあの調べは!!などと怒鳴られる事もないし、何度も取調室に被疑者を出し入れする必要もない。
——ここでは、ディートリヒはもう助からない。
そう理解してしまった自分に、嫌悪が湧く。
遠藤は、歩き出しながら言った。
「深ーいことでも考えてるの?人間は動物と違って、無意味に思考しちゃうからねぇ。感情移入してもしょうがないよ?だって、彼のせいで大勢の他人が死んだんだからね。死んだのが他人だから憤りや怒りを感じなくても、もしそれが身内だったらそんな感情移入なんてしないでしょ?」
「......」
守は遠藤の言葉に何もいい返せなかった。
「我々警察の職務は、犯罪を犯した犯人を捕まえる事。そして起訴まで持っていくために必要な捜査をすること。あとは検事と裁判官と弁護士の法廷での戦いなんて気にしてられないでしょ。ましてや、異世界では我々が仕事をする上での法律なんてないからね。目の前にいる人達をどう守るかが大事なんじゃない?」
一拍置いて。
「だからこそね、守君は守君の正義にしたがってうごくしかないよねぇ」
諭すように遠藤は守の肩に手を置いた。
情状酌量の余地はないのだろうか、異世界と現代の犯罪の処断判断が違いすぎて、守はそれを消化しきれておらず、まだ困惑していた。
そして気がついた。
「あ、手錠外すの忘れてた。」
「はい、装備品忘失で始末書ねぇ。」
「あちゃぁ。」
遠藤は笑いながら守の背中をばんばんと叩きつつ、押収した品物を貴重品保管庫にしまいに行く。
守も慌てて、遠藤を手伝うために切り替えるのだった。




